「じゃあ、行って来る」
キッチンでなにやら奮闘していたカイトに声を掛けて、がくぽは玄関に向かった。
La Vie en Rose
外国なので基本、アパートメントも土足可能だ。
しかしそこのところは曲げられない日本人の性で、この部屋に関してはきちんと、玄関で靴を履き替えることにしていた。
自分たちもそうだが、お客様にもお願いしている。
がくぽは玄関に立つと、棚から適当な靴を取って履いた。
――ところで、カイトがキッチンから走り出してくる。
「がくぽ、がくぽっ!待って、忘れ物!」
「あ?」
カイトの言葉に、がくぽは自分の体を見回した。
財布に携帯電話、家の鍵に――
必要と思われるものは、すべて持ったはずだ。
怪訝に見返したがくぽの前にやって来たカイトは、ちょん、と爪先立ちになった。
垂れる長い髪を掴んでがくぽを屈ませると、そのくちびるにちゅっと、かわいらしくキスをする。
「いってらっしゃいのちゅう☆」
「…………」
「早く帰って来てね、ダーリン?」
凝然と見下ろすがくぽに、カイトはわずかに照れくさそうにしながらも、悪戯っぽく笑って言う。
「お約束で……んわっ?!んんんっ?!」
「………っっ」
がくぽは上目遣いに見つめるカイトをやにわに抱き寄せると、そのくちびるを貪るように塞いだ。
驚きに硬直し、次いで苦しさに喘いでわずかに抵抗する体をきつく抱きしめて、口の中を弄る。
「んん………っ、ん、んんんーっ………ふ、ぁっ」
支えられても堪えきれずにカイトの膝が笑って落ちたところで、ようやくがくぽはくちびるを離した。
互いのくちびるを結ぶ唾液の糸を、ちゅるりと啜る。
「ぁ…………も………っ。め、でしょ、がくぽ………っ!いってきますのちゅうは、そんな………ぅっ?!」
今まさに、がくぽは出かけようとしていたところだ。
だというのに、抱きしめるカイトの体にごりごりと擦りつけられるものが。
「カイト。……………カイト」
強請るように名前を呼ばれて、カイトは耳からうなじから、真っ赤に染まり上がった。
つい上げそうになる声を懸命に堪えると、瞳をきっと厳しくして、がくぽの両頬をつねり上げる。
「もっ、だめっ!それじゃ、いってきます出来ないでしょ?!」
甘く叱られて、がくぽは両頬をつねり上げられたまま、きりっとした表情になってカイトを見つめた。
「大丈夫だ。五分………あー、十分で済ます」
なにが大丈夫かわからない。
瞬間的に脱力したカイトを、がくぽはこれ幸いとばかりに廊下に転がした。
力では勝てない。
伸し掛かって服を剥ぐがくぽの髪を掴んで、カイトは容赦なく引っ張り、叫んだ。
「なにをインスタントに済ませる気だ、このだめわんこ!!さっさとお出かけして、とっとと帰って来なさいっ!!」