カイトがにっこり、天使のように笑う。
そのくちびるが開き、陶然とこぼされた言葉。
――がくぽなんて、ダイキライ。
キライキライダイキライ
どさっと大きなものが落ちる音がして、カイトは掃除の終わったバスルームから、慌ててリビングに顔を出した。
昼寝をしていたがくぽが、ソファから落ちている。落ちたままの恰好で固まって呆然と瞳を見開いているから、がくぽにとっても予想外の――
そもそもは、寝相がいい。こんなことは、滅多にない以前に、前例がない。
「がくぽ、大丈夫?!どっか傷めてない?!」
「だったらカイト、おまえは誰が好きなんだ?!」
「はぁっ?!」
駆け寄ったカイトの肩を掴み、がくぽは悲痛な声で叫んだ。
だがカイトにとっては唐突で、脈絡もない。
大体にして誰が好きと言って、そんなのはもちろん――
「ちょっと待って、がくぽ。『だったら』って、なに?なにから繋がって、『だったら』で始めるの?」
「だからおまえ、俺がきらい………」
「このおばかわんこ!!」
「ぎゃぃんっ!!」
悲痛に掠れる声で訴えたがくぽの髪を、カイトは容赦なく引っ張った。
飲み込めた。
寝惚けている、このわんこ。夢で見たことと現実の区別が、ついていない。
それはまあ、カイトに『嫌われた』夢など衝撃的過ぎて、パニックに陥るのもわからないではないが。
「ちょっとそこに座りなさい!」
「っっ」
びしっと床を指差され、痛みで完全に目が覚めたがくぽは慌てて正座した。
カイトはその前のソファに座り、足を組んでふんぞり返る。
「寝惚けるのはいいけど、『誰が好き』って俺に訊くのはアリなの、がくぽ?俺に浮気疑惑を掛けてるわけだよね、君」
「ぅ、…………はい」
反論は山ほどあれ、言えるような雰囲気ではない。がくぽはひたすら体を小さくし、神妙な顔で頷いた。
そのがくぽに、カイトはソファの上でますますふんぞり返る。
「俺は傷つきました、がくぽ」
「う、すま……」
「というわけで、ここにキスして」
がくぽの謝罪を聞くことなく、カイトは組んだ足を軽く持ち上げ、太ももの際を指差した。
そもそもは風呂掃除をしていて、下半身は短パン姿だ。指差したところも、もれなく肌が晒されている。
こくりと唾液を飲みこむと、がくぽは指差される場所にそっと顔を寄せた。カイトの求めるまま、際どいところにくちびるをつける。
「ぁ、ん………っん、んん………っ」
自分で言っておきながら堪えられない甘い声に、がくぽは状況を忘れて夢中になった。
やわらかな肉を牙で食み、普段は隠されているために殊更に白い肌を吸い上げて、痣を刻み込む。
つるりとして心地のよい感触の皮膚をてろてろと舐めて存分に味わい、与えられる快楽に跳ねて呻くカイトを愉しんだ。
「ぁ、もぉ…………キスって、ここまでじゃ、ないぃ………」
「そうか、っと」
ややしてようやく離れたがくぽを詰ったカイトは、そのまま床へと倒れこんできた。
熱を持って蕩ける体を受け止めたがくぽを、潤む瞳が甘く睨む。
「俺がこんなこと赦すの、がくぽだけなんだから……。も、ヘンな夢見ないよぉに、体にじゅーぶん、教えこんで上げる………っ」
がくぽの表情が喜色を刷く前に、カイトはくちびるに食らいついてきた。