ハラハラホロハラ
膝を抱えてソファに座ったカイトは、ずびびびっと大きく音を立てて洟を啜った。
「キスしたい」
涙に掠れた声で、ぼそっと吐き出す。
「ぶっちゅぅううーーーーっって、すんっっっごい濃厚なやつ。したい。がくぽ」
「………」
傍らに座っていたものの、顔を背けていたがくぽは、ぴくりと体を揺らす。
ゆっくりとカイトを振り返ったが、強請るほうは頑固に膝を抱えて、まっすぐ前を見つめていた。
「カイト」
「洟垂れてるけど」
「かめ。――ああ、いや」
反射でツッコんでから、がくぽはソファから軽く腰を浮かせた。
テーブルに置かれた箱からティッシュを数枚取り出すと、がくぽを見ようとしないカイトの鼻に当てる。
「ほら。ちーんしろ」
「………ずびっ」
涙とともに垂れる鼻水を、がくぽはきれいに拭き取ってやった。
使用済みティッシュは適当に投げてゴミ箱に放り込み、未だに膝を抱えたままのカイトの肩に手を回す。
顎に手をかけて自分へと向かせると、カイトは名残りの涙に潤む瞳で、わずかに睨んできた。
「がくぽの、いじわる。いけず。あかんたれ」
「ああ」
「でも、す――」
皆まで言わせることなく、がくぽはカイトのくちびるを塞いだ。
最初に強請られたとおりに、息も覚束ないほどに濃厚に、しつこく口の中を弄る。震える舌を甘く噛んで吸い、痺れるまで味わった。
「ん………っ、ん、………………っふ、…………」
頑固に膝を抱えていたカイトだが、念入りにくちびるを貪られ、口の中を漁られ、いつしかその体は解けた。
気がつけば、がくぽに縋りついている。
その縋りついた手すらも力を失くして落ちるまで、がくぽは丹念にくちびるを合わせた。抱えた体がくったりと重みを増してしなだれたところで、ようやく離れる。
「…………っ…………」
さすがにがくぽも、すぐには言葉にならない。
くたんと凭れるカイトを抱きしめる腕にだけ力をこめ、がくぽは瞳を閉じた。カイトの頭に鼻を埋めれば、熱を増した体は甘い香りを立ち昇らせている。
吸い込んで、吐き出し、がくぽはカイトに擦りついた。
「悪かった。言い過ぎた。あそこまで言うことはなかった」
もつれる舌で、それでも懸命に吐き出す謝罪。
力を失くしていたカイトはぴくりと揺れると、擦りつくがくぽに自分も縋りついた。
「そぉだよ。ひどいよ、がくぽ………」
力いっぱいに抱きしめられて苦しい呼吸の下、カイトはがくぽの髪を掴んで引っ張った。
「でも、俺も言い過ぎたから――ごめんね。ほんとは、いっぱいいっぱい、ダイスキ………」
言葉はすべて吐き出される前に、再びがくぽのくちびるに呑みこまれた。