バスルームに入り、シャワーコックを捻ろうとしたところで、がくぽは止まった。
振り返り、曇りガラスの扉越しに脱衣室の様子を窺う。
程なくして予感通り、扉がこここんと叩かれた。
「がーくーぽ♪『奥さん』がいっしょにお風呂に入って、お背中流してあげるー♪」
ばすぼむぼむ
「っっ!!」
ガラス越しに見えるカイトは、肌色だ。曇りガラスなので詳細は見えないが、すでに服を脱いで――
がくぽは慌ててシャワーから手を離すと、がっしと扉を押さえた。
「か、カイトっ!!」
「がくぽ?」
開かないようにと押さえられて、扉の外でカイトが首を捻るのがわかった。
力では圧倒的に自分が勝つことはわかっている。それでも油断することなく、がくぽは懸命に扉を押さえた。
「がくぽ、ちょっと……」
「カイト、あのなっ!!いっしょに入った場合、単に背中を流してもらうだけでは、絶対に終わらないんだが!背中を流すにしても、石鹸とスポンジで擦ってとか、かわいいものではなくだな!」
「がくぽ………」
力いっぱい扉を押さえたまま叫ぶがくぽに、カイトは黙った。
ややして、ガラス戸にこてんと額が当たる。
「あのさ、がくぽ…………」
聞こえるか聞こえないか、カイトの声は潜められてあえかなものだった。
「俺だってもう、ハヂメテってわけでもないんだし、ダイスキなひとといっしょに暮らして、今だって『奥さん』とか言っちゃってみたりさ、そんなにウブでもないし、なんにもわかんないお子ちゃまってわけじゃ、全然ないし………」
「カイト?」
もごもご続く不明瞭な言葉に、がくぽはつい、扉へと耳を寄せた。
「カイ……」
「んだから、さ………」
「か」
完全に声が聞こえなくなり、がくぽは焦った。ふっと、扉を押さえる手から力が抜ける。
その瞬間。
見計らっていたカイトによって、どかんと勢いよく扉が開かれた。
「んなこたぁ言われなくてもわかってんだから、黙って入れろ!そんでなし崩しに手ぇ出せや!!ばか正直にコクって、ムードぶち壊すな、このおばかわんこ!!」