ミーア・キャットの致命傷
がくぽは爛々に目を輝かせ、ソファの上で仰け反るカイトへ迫った。
「見たい」
きっぱり吐き出して、カイトが反論を紡ぐ隙もなく、続ける。
「いいか、『見たい』だけだ。見るだけだ。わかるな、『見る』、それだけだ。つまり見るだけという、いわば観察的傍観的な望みで、これは人間にある好奇心を満たすために原始から取られるもっとも手っ取り早い方法であり、なおかつ無難で害のない方法でもある。受動的で消極的な好奇心の解決方法とも言い換えられ、観察するほうにもされるほうにも負担が少なく、損を被る率も非常に低い。なにより見たいのは俺で、『見る』のは『俺』だ。なにも赤の他人に見せつけて来いと言っているわけでもなし、飲みたいとか飲ませろとまで要求しているわけじゃない。見たいだけ、見るだけだ。なにを断る理由がある」
普段のがくぽは、寡黙とまではいかないまでも、そうそう口数が多いほうではない。
恋人のカイトは男にしてはよく話すほうだが、がくぽは大体聞き役に徹し、『ああ』とか『うん』といった相槌で応えることがほとんどだ。
こうまで立て板に水と、主張することなど滅多にない。
滅多にないが、しかし。
「あ、……っりありだっつの、このだめわんこっ!ヘンタイいぬっっ!!」
「ぎゃいんっ!!」
――長々した弁舌で誤魔化されるカイトでもなく、なによりも今回の場合、有耶無耶に呑める要求でもなかった。
がくぽは言葉による拒絶だけでなく、額に容赦ない頭突きも喰らい、うずくまる。
それでもソファにカイトを押し倒したままだ。伸し掛かって、退く気配はない。逃がす気ゼロ、諦める気皆無の絶無だ。
腹の上で痛みに悶える駄犬ダーリンに対し、攻撃側のカイトは軽く額を抑える程度だった。
痛みはあるが、それを凌駕して余りある感情があり、置かれている危機的状況がある。
カイトは涙目ながらもぷんすかぷんと、がくぽを睨み下ろした。
「だいたい、君ね、がくぽっ!それ、自分に置き換えて考えてみなさいっ!俺がおんなじように、がくぽに『見たい』って、『見せろ』って迫ったら、どう思う?!」
「あー……」
未だ痛みに苛まれて涙を滲ませつつも、がくぽは上目で考えた。
つまり、カイトからがくぽに、『見たいから見せて』と迫られた場合だが――
焦れ焦れと待つカイトが痺れを切らす寸前、がくぽはこくりと頷いた。真顔で、口を開く。
「目覚めたんだな。と、思う」