カイトのがくぽの口癖は、『かわいいは正義』だ。

イグナ・ファチュアの恋人

いや、より正確に言うと、『かわいいは正義』という言葉をカイトに言うように強要することが、がくぽの癖だ。

なにかあって拗ねたりへそを曲げたりするとすぐ、がくぽはくっとくちびるを尖らせ、もしくはへの字にして、カイトに言う。

『かわいいは正義』だと言え、と。

カイトには、意味がわからない――言葉の意味は、わかる。汎用的に使われている言葉だ。

わからないのは、どうしてゴキゲンナナメになったがくぽが、その言葉をカイトに言わせたがるのかということだ。

どうしてカイトがその言葉を言うと機嫌が直り、言わない限りはぶすくれて扱いにくいままなのかと。

がくぽはカイトが言うまで、しつこく強請る。

『かわいいは正義』と言えと。

この言葉が、なんだというのかが、わからない。

意味だけを取れば、カイトにしても概ね同意するところではある。

『かわいい』ということは、最強だ。正義かどうかはともかくとして、いや、つまり正義かどうか判然としないことですら、『かわいい』ということで、すべて押し切れるようになってしまう。

『かわいい』ことが、『正義』に取って替わってしまうのだ。

たとえどんなに間違ったことだったとしても――

「あっ、わかった!!」

「………なにが」

突如エウレカを叫んだカイトを、がくぽが胡乱な目で見た。横目だ。胡乱さを隠しもせず、全面に押し出しているのだが、カイトには壮絶に色っぽい流し目を寄越されたように感じられた。

とにかく、カイトのがくぽは些細な動作すべてにおいても美麗で優雅で、王子様なのだ。

ついついうっとりとろんと見惚れつつも、カイトはさらに納得して頷いた。

「『かわいいは正義』ってつまり、『がくぽは正義』って言ってたんだがくぽは正義なんだから、言うこと聞きなさいって、そういうことでしょ?!ぷきっ重いっ?!」

エウレカの興奮ままに叫んだカイトだが、全力で伸し掛かって来たがくぽに抗しきれず、べちゃりと潰れた。そもそもの体格差もあるが、より以上にがくぽはカイトを押し潰す気満々だった。

大事なことなのでくり返すが、『押し潰す』気だ。『押し倒す』力ではなかった。

「がく、がくぽ………っ!」

「違うカイト。当然のことながらまったく違う」

「ぇぅう?!」

あぶおぶともがくカイトを容赦なく潰したまま、がくぽはしたたるような声を落とした。ちょっぴり涙目で見つめるカイトを、子供っぽくむくれた顔で見返す。

「いったいどこの回路がどうなってそんなアイディアに辿りついたのか、一から百まで全部聞きたいところだけど、カイト」

「え、だってがくぽかわぃ」

「どうせカイトは『さんからうえはいっぱい』で百まで数えられないんだから、聞かない」

「ぇええぅうっ?!」

態度だけでなく、言葉も容赦ない。

もがくことも出来なくなって固まったカイトに、がくぽはにっこりと笑った。ぷるぷると震えるカイトに、顔を寄せる。

「でもとりあえず、聞きたくなったから言って、カイト。『かわいいは正義』って」

「えと」

「言って、カイト。『かわいいは正義』」

「………」

がくぽがこれを言い出すと、引っ込めることはない。

抵抗も面倒だし、言ったからどうなるというものでもない。

なんだかんだで学習しているカイトは、諦めて体から力を抜くと、口を開いた。

「かわ、んっ?!」

――しかし開いたくちびるにすかさずがくぽがくちびるを重ね、遠慮なく舌まで捻じ込んで来て、皆まで言うことはできなかった。