「がくぽせんせーっ!」
「お………っと」
がくぽが家庭教師をしている生徒、カイトの部屋に入ると、当の本人が満面の笑みで飛びついてきた。
sweet gift
体格差もあるので倒れることなく受け止めたが、それにしても年に見合わない無邪気なしぐさだ。
「どうした、カイト?」
苦笑しながら訊くと、カイトは興奮に染まった顔をぱっと上げた。
「あのねっ!」
つい見惚れて力が緩んだがくぽの腕から抜け出し、カイトは自分の机へと走る。置いてあった紙を取ると、誇らしげに掲げてみせた。
「この間のテストの結果、返って来たんだよ!見てみて、過去さいこー得点っ!!」
「ん?………ああ、本当だ。ずいぶん上がったね」
あっさりと腕から失われた熱が惜しくて、がくぽの反応は多少鈍かった。
しかし気にすることなく、カイトは至極うれしげな笑顔のまま、テストを持ってがくぽに寄って来る。
「ねっ!すっごいんだよ、がくぽせんせが教えてくれたとこ、全部出たの!だから俺、すいすい解けちゃった!」
「そうか」
「ぅんっ!」
成績が上がって喜ぶ生徒の姿を見ることは、がくぽにとっても喜びだ。
わずかに抱いた喪失感も忘れ、がくぽの顔も自然と綻んだ。
そんな年ではないとわかっていても、つい手を伸ばして頭を撫でると、カイトはやはり、無邪気に喜ぶ。
「あのねっ!点数上がったの、がくぽせんせのおかげだから、ごほーび、上げるっ!」
「ご褒美…………」
その響きにきょとんとしてから、がくぽはふっと吹き出した。
ご褒美は、教師であるがくぽが上げるべきものだ。生徒のカイトからなら、お礼。
誤用だが、あまりに無邪気に喜んでいる様を見ると、即座には指摘しづらい。
「なにをくれるのかな?」
椅子に座って待ちの姿勢となったがくぽに、カイトはにっこり笑うと、さっと顔を近づけた。
ちゅっと音を立てて、くちびるが触れ合う。
「……………ぇへ」
照れたように笑うカイトに、がくぽは瞳を細めた。触れ合ったくちびるをわずかに釣り上げて笑い、首を傾げる。
「これだけ?」
やわらかな声で、けれど詰るように訊くと、カイトの表情はさらに輝いた。
ずいと身を寄せてがくぽの膝に乗り上がると、首に手をかける。
「ぅうん、もっともっと、いっぱい………俺がすっごく感謝してるんだって、その分、ぜんぶ………」
つぶやくくちびるが、がくぽのくちびるに重なる。
触れて離れて、やがて開いたくちびるに舌が入り、絡め合って、吸い合って――
「ぁ、んんぅ………っ、は、ふ……………ぅ、がくぽ、………せんせぇ………」
膝の上でくったりとしながらくちびるを交わすカイトに笑い、がくぽはくすぐるように後頭部を撫でた。
「………カイト。これ、私へのご褒美か、それとも君へのご褒美か…………どちらなのかな?」
束の間くちびるを離して訊くと、カイトは蕩けきった瞳でがくぽを見つめ、シロップのように甘く笑った。
「んっとね…………りょぉほぉ!」
舌足らずに吐き出された答えにがくぽは瞳を細め、正解を出した教え子にご褒美のキスを贈った。