ちょんとわずかにくちびるを尖らせ、カイトは真剣な顔でノートにペンを走らせる。

傍らに座って参考書を開き、次の問題を考えているふうを装いながら、がくぽはその顔に見惚れていた。

みなしの正義

「ん………っ。んっ。よしっ。………………」

一通り問題を解き終えても、カイトがすぐに顔を上げることはない。採点を頼む前に自分できちんと見直しをするようにと、常から言いつけられているからだ。

それでも、最初に問題を解いているときよりは、多少真剣みが落ちる。

「あのね、がくぽせんせ。がくぽせんせって、コイビトいる?」

「…………うん?」

見直しを掛けつつもそんなことを訊いてきた生徒に、がくぽは軽く瞳を見張った。

ノートに目を落としていたカイトだが、ちらりと視線だけ投げてくる。

「コイビト。せんせ、かっこいーもん。モテるでしょコイビト、いる?」

「…………………ふぅん………」

答えにもならない鼻息をこぼし、がくぽは凭れていた椅子の背から体を起こした。

カイトが解いた問題をさらりと眺めると、机に放り出してある赤ペンを手にする。

キャップは取らないままに、一箇所をとんと叩いて示した。

「カイト、ここ。間違えている」

「えっ?!え、ぅそ……………って、わ、わっ…………ぅわあ…………っ」

慌ててノートに視線を戻し、言われた箇所を見直したカイトは情けなく表情を歪めた。

ひどく単純な、計算ミス。小学生のレベルだ。

「…………どうにも君は、単ミスが多いな」

「ぁーうー……………」

赤ペンを放り出したがくぽはその手で、頭を抱えるカイトの頬をやわらかにつまむ。

きゅい、と軽く引っ張ってこちらへと顔を向かせると、身を屈め、恨みがましい瞳の生徒と素早くくちびるを交わした。

「んっ……」

わずかに触れるだけで離れて、けれど頬をつまむ手はそのまま、がくぽは甘い瞳になったカイトへと苦く笑った。

「私は君のカレシのつもりだったんだが――君は違うのかな?」