最後までノートを見終わったがくぽは、にっこり笑った。赤ペンでとん、と紙を叩くと、窺うようにじっと見つめるカイトへ、その笑みを向ける。

「全問正解。ハナマルだよ、カイト」

ハナマルタイム

「っほんとっ?!」

満面の笑みから結果を予想はしていても、はっきりと口に出されると違う。

ぱっと瞳を見開いたカイトに、がくぽは大きく頷いてやった。

「ああ。単ミスもなし、文句のつけようもなく、パーフェクトだ。素晴らしいよ」

「っっ!!」

手放しで褒められて、カイトの表情が明るく輝く。

元々カイトは、頭が悪いわけではない。教えたことは素直に飲み込むし、多少の努力さえすれば、上位の成績を取れる。

しかし生来の気質か、とにかく単純なミスが多かった。

計算の流れも理解しているし、応用も出来る。しかし途中の、小学生レベルの足し算引き算で間違える。

英語などの綴りもそうだ。口頭では完璧に答えるのに、いざ書くと『i』と『e』を間違えたり。

この生徒に関して言うと、がくぽが重点を置くべきは、いかにしてそういった単純ミスを減らすか、だった。

「ふゎわわ……………っやったぁ…………!!」

がくぽがノートを返してやると、カイトは細かな『×』がひとつもつけられていない、きれいな紙面に感無量の顔で見入る。

カイトにしても、単純なミスだしいいじゃん、という思いはない。

そういった細かなミスを見つけたときにがくぽが見せる、とてもがっかりしたような顔は、ひどく堪える。

こんなことで愛想を尽かされるとは思わないが、たまにはいいところを見せたい。

たまにはがくぽに、自分が教えていることが無為ではないのだと、充実感と達成感を覚えて欲しい。

「ぇへへっ!」

「よく頑張ったね、カイト」

「うんっ!!………んっ」

報われた努力に、いつも以上の輝く顔で笑うカイトのくちびるに、がくぽはちゅっとくちびるを落とした。

軽く触れて離れると、生徒であって恋人でもある相手は、ノートを放り出してがくぽの首にしがみついてくる。

「せんせ、もっとっ!」

「んー………………」

かわいさのあまりについ、触れてしまったが、基本的にこういったことは、カリキュラムがすべて終わってからと決めている。

とはいえ、今回の頑張りも頑張りだ。多少、ご褒美を上げたくもある。

わずかに悩んだものの、結局のところ、拒むという選択肢はない。

「まあ、いいか…………今日だけ特別に」

「ぁ、せんせ…………がくぽせんせ……………っ」

傍らの椅子に座っていた体を自分へと招き、がくぽはうっすらと開いて待つくちびるに、くちびるを重ねた。

優しく触れて離れ、何度も何度もついばんでから、もどかしさに突き出された舌を咥える。

やわらかなそこに牙を立て、自分の舌を絡めて存分に味わい、さらに深く、口の中へと辿らせた。

「ん………ん、ぁ…………ぁふ、ん、ふぅん…………っん、ぁ、がく、…………せんせ………っもっとぉ………」

「ああ、カイト………」

上がる鼻声の甘さに、しがみつく腕の強さに、がくぽは時を忘れてカイトへと溺れこんだ。

――予定時間が終わっても、なおしばらく。