るーる・る・るーる
「ん、んちゅ、………んふ、ぁ………は」
じゃれるようなキスがひと段落して、カイトはがくぽの胸に頭を擦りつかせた。
「カイト……」
まるでねこのような甘えるしぐさに、がくぽはやわらかく笑ってカイトの後頭部を撫でてくれる。その心地よさに、カイトの表情はさらに陶然と蕩けた。
笑いながら、ぎゅいぎゅいぎゅいと、がくぽの胸に擦りついて――
「………ん?」
「ん?」
頬を引っかける感触に、カイトは訝しげな鼻声を上げて止まった。がくぽのほうも、違和感があったらしい。カイトの後頭部を撫でていた手が止まり、襟首を軽く引いて、それとなく離れるようにと促された。
素直に頭を上げたカイトだが、首を傾げながら『違和感』のあったがくぽの胸元を見つめている。
凝視されながら、がくぽもまた、自分の胸元に視線をやった。ポケットの中身を軽く頭だけ、つまみ出す。
「………たばこ?」
「しまった、忘れていた」
カイトの疑問の声とがくぽの舌打ちが重なり、お互いにお互いの言葉を拾う、わずかなラグが生まれた。
「って、せんせって、たばこ吸うの?!」
先に口を開いたのは、カイトだ。甘ったれて擦りついていた体を起こして、どころかわずかに仰け反り気味にすらなって、まじまじとがくぽを見る。問う声も素っ頓狂に、ひっくり返っていた。
そこまでされることかと思いつつ、がくぽは苦笑しながら煙草の箱を取り出した。買ったものの胸ポケットに放りこんだだけで、結局封も切っていないものだ。
そしてこのまま、封を切られることなくごみ箱行きになる運命の――
「正確に言えば、『吸っていた』だな。ここ最近はもう、まったく吸っていない。――いなかった」
「?つまり、止めたの?なんで?いつ?でもまた、あるってことは、再開したの?リバウンド?」
「あー。………はは」
矢継ぎ早に問われ、がくぽは曖昧な笑いをこぼした。
仕事で多少、ストレスが重なった。胸が塞いで重く、この気分を晴らすためにニコチンでも注入するかと、自棄を起こした。
そう、自棄だ。瞬間的に心が荒んで、生き方についてナナメになった。
「せんせ?」
「――止めたんだ。リバウンドもしかけたけれど、結局ほら、こうして封を切らずにいる。これはこのまま、捨てるから………」
「……………」
封を切らないままの煙草の箱を、がくぽは胸ポケットに戻す。しぐさのすべてをじっと見つめるカイトへ、曖昧な誤魔化しの笑みを浮かべたまま、軽く肩を竦めた。
「君とキスするためにね、止めた。君の『味』を、正常な味覚できちんと、堪能したかったし――なによりも、ヤニ臭いキスなんかして君に嫌われたら、死んでも死にきれない。だから、止めた」
「せ………んっ、ん………っっ」
瞳を見開いたカイトがなにか言うより先に、がくぽはそのくちびるを塞いだ。
「ぁ………あ、んっ、んん………っっ」
思う存分にカイトとのキスを堪能すると、唾液を啜りながら離れる。
がくぽはふっと笑うと、力を失くして凭れるカイトを抱きしめ、つぶやいた。
「リバウンドしかけてこうして買っても、君を思い出せば、吸わない。吸えなくなる。君とキス出来なくなるほうが、ニコチンが切れるより余程、辛くて苦しいことだからね」