がくぽの部屋の扉を、こここんと軽くノック。
「がくぽくーんっ、カイトせんせでーすっ!今日もおじゃまっ☆」
明るく来訪を告げて、カイトは扉を開いた。
185㎝
「あ、先生…………」
椅子に座って机に向かっていたがくぽは、ぱっと振り向き、腰を浮かせる。
「あ、いーよいーよ、座ってて」
「はい」
軽く手を振ったカイトに笑顔を返し、がくぽは椅子に座り直した。
扉を閉めて傍に来たカイトに、がくぽは座ったまま会釈する。
「今日もよろしくお願いします、先生」
「はい、よろしくです!今日もおべんきょ、がんばろーねっ☆」
「はい」
敬礼の真似事などをするカイトに、がくぽは体を折って、くすくすと笑う。
その傍らに用意された椅子に座り、カイトは机の上に広げられた参考書の類をさっと眺めた。前回教えたところより、わずかに先に進んでいる。
「予習?」
「はい。あ、それで、ちょっとよくわからないところが………」
「ぅん?」
がくぽが早速、カイトに質問を飛ばそうとしたところで、部屋の扉は再びノックされた。
反射的に顔を向けた二人に、扉の外からがくぽの母親が、お茶を持ってきたと言う。
息子の折り目正しさの由来がわかるような、礼儀正しい母親だ。いくら息子の部屋とはいえ、応の返事があるまでは扉を開けない。
「ぁ、じゃあ……」
「あ、いえ、先生は座っていてください。俺が行きますから」
位置的に、扉に近いのはカイトだ。身軽に腰を浮かせたカイトだが、それを制して、がくぽがさっと立ち上がった。
「………………」
カイトはわずかに瞳を見張って、がくぽを見送る。その手が、なにかを測るように動いた。
「先生、今日のおやつは…………先生?」
お盆を受け取って扉を閉め、振り向いたがくぽはぎょっと瞳を見張った。
いつの間にか、カイトがすぐ傍に立っている。
そんなにおやつが待ちきれないのかと、多少失礼な感想を抱く教え子に、カイトはくふふと笑った。
「背ぇ、伸びたね、がくぽ。………会ったばっかりのころは俺とおんなじくらいだったのに、すっかり追い越しちゃって」
「え、あ…………はい。まあ」
「かわいくなーい」
「ええっ?!」
明るく言い放つカイトに、がくぽは壮絶に引きつった。
かわいいと言われたい年頃でも性別でもないが、それとこれとは別だ。
ショックを隠しきれない年下の少年に、カイトは身を屈め、殊更な上目遣いとなる。
ほんのりと頬を染めると、きゅっとくちびるを尖らせた。
「かっこいー。…………こんなにオトコマエになっちゃって、もぉ。俺、ときめきが止まらないじゃん。どうしてくれんの?」