キス・キス・ペケ・キス

「んー。まるまるまるまるまる。まるるんっまーんてーんっふーらわーっ☆」

がくぽが解いた問題の答え合わせをしていたカイトは明るく言って、問題集のページに、赤ペンで大きな花丸を書いた。

そんな年ではないが、カイトがやると不思議と嫌な気持ちがしない。

「はい。…………ん」

むしろうれしさに素直に笑ったがくぽのくちびるに、カイトは機嫌よくちゅっと、キスを掠めていった。

だからといって色めいた雰囲気になることはなく、カイトはすぐに問題集に顔を戻す。キャップをした赤ペンの先で、問題のひとつをとんとんと示した。

「大体ちゃんと解けてるんだけど、ここ、解きづらいなーって思ってたでしょあのさ、これ、そもそもどういう現象だったか、説明してみて」

「えっと、はい。…………ええっと、まずは………」

甘やかな声と態度はそのままだが、カイトはきちんと『先生』の顔だ。

促されて、がくぽは問題文を読み直して頭の中を整理し、カイトへと説明しだした。

「………です。違いますかんっ」

「違わない。合ってる」

説明し終わって窺ったがくぽに、カイトはにっこり笑ってくちびるを寄せ、ちゅっとキスをする。

すぐさま離れて終わったキスの余韻はなく、カイトは持ったままのペンをくるりと回した。

「でも、自信がなくて、しどもどになった箇所があったでしょ」

「………加水分解ですか?」

「んー。自分で気になるのは、そこ?」

「……………ええっと……」

やわらかな表情はそのままだが、カイトのくちびるに当てられたのはペンだ。

がくぽはもう一度問題を見返し、自分がした説明の記憶を懸命に辿った。

「水酸化物のところんっ」

ちゅっとくちびるにくちびるが触れて、がくぽは離れていく顔を見つめる。

微笑んだカイトはがくぽを見ておらず、問題を解いている間、片付けていた教科書を取り出した。

「加水分解それ自体はね、がくぽ、自分で思ってるよりちゃんと理解できてるよ。説明きれいだった。自信持って大丈夫」

「………はい」

「でもね、水酸化物のとこ。あやふや理解を、ムリに修飾語で誤魔化してた。ひとに一時的に話すだけならそれでもいいけど、ちゃんと理解して覚えたいなら、修飾語で誤魔化さない」

「はい」

素直に頷きつつ、がくぽはそっとくちびるを撫でた。

カイトは教科書に付箋を数枚貼って閉じ、机に置いたそれをとんとんと指で叩きながらがくぽを見る。

「まずは、もう一回。意識しながら、加水分解の説明してみて。それから、水酸化物。意識してね?」

「ぁ、はい」

慌ててくちびるから手を離し、がくぽは思考を切り替える。

気も抜けない。

手も抜けない。

正解と間違いが、はっきりと突きつけられる。カイトは無意識に、がくぽにとってはこれ以上なく明確に。

『ご褒美』が欲しいなら、現など抜かしていられない――

がくぽは言われたように注意深く自分を観察しながら、再びカイトへと説明し出した。