睦月如月

「ていうかこれ、おむつだわ。むしろおむつだわ。まったきおむつだわ」

「(*゜ω゜)зЗ」

「もっといってやんなさい、下弦ゆるすわ!!」

「ふむなにやら、ようわからんが……懐かしいものを出してきたものだのう」

座敷に広げられたむつきのひと揃いを眺め、吾は目を細めた。

上弦と下弦、吾の眷属たる二匹がどこぞより出してきたのは、最前、養い子が未だ獣の如くに四ツ足で這い回っていた時代――嬰児の頃に使っていたものだ。

これがなかなか、単純なようで難易度の高い、奥深いシロモノだ。きちんと仕立てぬと、動きによってはすぐに解ける。もしくは、抜ける。

そして意外に運動量がばかにならぬのが、嬰児というもの。

か弱きひとの、さらに脆弱な嬰児を壊すことを恐れ、吾は養い子のむつきを緩めに立てることが多かった。

ために養い子はよく、脱皮した皮のごとくにむつきのみを置き去りにし、尻を丸出しで社中を這い回っておったものだった。

しかもようやく吾が脱皮されぬコツを掴んだと思ったら、養い子はもはや、むつきを卒業する年頃であったという――

「しみじみしてる場合じゃないのよ、蝕!」

「<(*○ω○)>www」

「ちょっとはばかりなさい、下弦こわいわ!!」

「ん?」

つい思い出に耽った吾の蓬髪を、上弦がぐいぐい引く。下弦は斜め向きだ。上弦に怒られておるが、――うむ?

そういえばなんだってまた、こうも懐かしいものが取り出されて来たのだったか。

思い返すに確か、『なえなえ変柄おぱんつ大作戦』とかいうものに参加することになったと、二匹が言い出し――

そもそも吾には、『変柄おぱんつ』というものの基準や形状から理解が及ばない。

が、加えてさらにもうひとつ、なによりもわからぬ、理解に苦しむことがあるのだが。

「確かにボクたちはまだ、ちっちゃいかもしれないけど、おむつなんかとっくに卒業済なのよ!」

「(*゜д゜)ノシノシノシзЗ」

「なんぞそなたらが、憤激しておるのはわかったが……卒業もなにも、そなたら嬰児の時代はまんま完璧に、キツネの仔であろ。むつきの経験なんぞ、なかろうが。経験もないものを卒業など……」

禿とまで成長した今も、二匹がひとの型を取れるのは顔と、上半身のわずかな部分だ。袴で誤魔化してはおるが、下半身はほぼまんまのキツネ。

力が未熟なためだが、しっぽだけでなく、爪先に至るまで変化らしい変化も出来ておらぬし、結果として――

しかし、首を傾げる吾の疑義は届かず、ゆえに答えることもなく、二匹は地団駄を踏んで喚き立てる。

「(((*>д<)))зЗ」

「そうよ下弦そうよそうよ……!!おむつだなんて、なえなえどころじゃないわ蝕がやるんならともかく、ボクたち禿で可憐な仔狐がやったりしたら、とくしゅせーへきが、逆にむらむらぎんぎんよ!!」

「うむ、それだ」

「え?」

「(((;>д<)))」

「違う。なにを言っておるのかようわからぬが、それは確実に違うと言い切れる、下弦」

無理くりに隙をこじ開け口を挟み、吾は目いっぱいに困惑を表して耳を伏せ、首を傾げた。

「そもそも吾は、そなたらにむらむらだのぎんぎんだのと、したことなぞないわけだが……この、『丑三つ時のおやつ:にんにくマムシエキス入りうなぎパイ』を賭けても良い」

懐から取り出した菓子の袋を掲げつつ、吾は気を鎮めるよう、しっぽでぱったりぱったり、座敷を叩いた。

「それでどうして、なえなえ企画に参加することと相成ったのかも謎なのだが………ぎんぎんむらむらとしておらぬものを、そなたら如何にして、なえなえにする気なのだ?」