きつねうさぎ-04

「っっっの、莫迦ものどもがっっっっ!!!」

「「ぎゃぃいいいんっっ!!」」

雷光のごとき怒声に次いで、上がる悲鳴。

どこか果ての国を彷徨っていたぼくの意識が、はたと我を取り戻す。

…………ええ、と、…………?

「い、いた、いたい、師匠ぉ…………っ」

「ぶったよぉ、師匠がぶったぁー」

「ぶつがなんだ、この極点莫迦ども!!何年生きて、己らのつがいもわからないと言うつもりだ!!」

「「百ん年です!!」」

…………そこはたぶん、自信満々に答えるところじゃないなあ…………………。

意識を取り戻したばかりのぼくですらそう思ったんだから、もっと意識がしっかりしている師匠は――

ししょう?

「もう一発入れるから歯を食いしばれ!!」

「「ぎゃぃいいいいいんっっっ!!!」」

「ふきゃっ」

二匹の悲鳴と同時に、ぼくの口からも小さく悲鳴がこぼれた。がばっと起き上が………

「い、いた………っ」

からだ中、満遍なく痛い。

ここ最近、からだがだるいのと重いのと痛いのはかなり日常になってきてたけど、それにしても今日の痛みはこれまでにない。

それでもなんとかベッドに座って、情けなく自分のからだを見た。

きれいに清められてはいるけれど、切り傷だらけだ。深いのから浅いのまで、それこそ満遍なく。

しかもいちばん痛いのはなんといっても………

「ぅ、ぅうう………っ」

座ってるのがしんどいとか、ほんとにあるんだ。

脳天を突き抜ける痛みに、ぼくはふらついて、それでも懸命にからだを起こした。

「し、しょう………っ」

「起きたか、卯の花!」

「う………っ」

凛とした声に久しぶりに名前を呼ばれて、目の前に颯爽と師匠が現れる。

「俺がわかるか、卯の花?」

「あ………」

すぐ答えなきゃいけないのに、ぼくは目の前に立った師匠に見惚れた。

毎日すぐそばで見ていたって、ふとしたしぐさや表情に、飽きることなく惹きこまれてしまう、それが師匠。

その美しさは一族きってのもので、久しぶりに見ると言葉を失うくらいに強烈だ。

纏う色彩は、一族のだれとも同じ金色のかかった銀色だけど、一族のだれより光り輝いている。

流れる髪も、均整の取れたからだも、すべてがすべて完璧な調和を奏でて隙がない。

今日は一族の証である、毛皮が変化した一枚布の衣装を着ているけれど、そのせいでさらに神秘さに拍車がかかってもう、神々しいというレベル。

「卯の花……………可哀想に」

「んっ」

すぐ答えなかったのは師匠の美貌に見惚れてたからなんだけど、自分の美々しさに自覚の薄い師匠はそうとは思わない。

ぼくが痛みのあまりに声が出ないんだと思って、そのきれいな顔をくしゃりと歪めた。

すっと顔が近づいてきて、瞼がぺろりと舐められる。

「「っわぁああああああああ!!!」」

悲鳴を上げたのは、たがねとはがねだった。

ソファのところで正座させられていた二匹はベッドへ飛んでくると、ぼくと師匠の間に割り入る。

「い、いくら師匠でも、それはだめ!!」

「たとえ師匠でも、それはだめ!!」

「「卯の花に触ってもいいのは、俺たちだけなの!!」」

「………たがね、はがね………」

背中に庇われて、でも確かさっきぼくのことを散々痛めつけたのはこの二匹なんだけど、とか思いつつ、それでもなぜかうれしくて、じんとしてしまう。

いくらなんでも、うれしがるのはおかしい。このからだの傷はだれがやったんだって、間違いなくこの二匹だ。

「いっちょまえの口を利くな、この天辺莫迦ども」

「きゃぃきゃぃきゃぃ」

「きゅぃきゅぃきゅぃ」

ぼくに対するときとは違うぞんざいな口調で言って、師匠は両手で二匹の頭を押さえつけた。

「し、師匠…………っ」

そうやったまま、おろおろするぼくへと身を屈める。

「自分になにが起こったか、わかっているか?」

「…」

なにが起こったかって……………………ええと。

怯える顔を向けるぼくに、師匠は小さくため息をついた。押さえつけたままの二匹の顔をぼくへと向ける。

「こいつらの見分けがつくな?」

「…………はい」

「どっちかがどっちかだから、消去法でこっち、とわかるわけでなく、二匹がどう入れ替わろうとわかるな」

「………………はい?」

質問の意味がわからない。

首を傾げるぼくに、師匠ははがねとたがねの顔をさらにぼくへと突き出した。

「こっちがたがねだから、あっちがはがね、とわかるとか、その逆じゃないな、ということだ。たがねはたがねだからたがねで、はがねははがねだからはがね。そうわかるか、と訊いている」

「…………はい」

やっぱり意味がわからないけれど、雰囲気はわかる。

つまり、片一方だけわかるから、じゃあ残りはこっち、と分けるのではなくて、どっちがどう出て来ても、ああ、はがねだ、たがねだ、とわかるか、ということだろう。

確かにそっくり同じ顔の二匹なんだけど、どういうわけか、ぼくにはきちんとどっちがどっちかわかる。なにで見分けているのか、自分でもさっぱりわからないんだけど。

頷くぼくに、師匠は二匹の頭をベッドへと押し潰した。

「し、師匠!」

「こいつらは、おまえの『つがい』だ」

「あの、…………………えつがい?」

二匹にひどいことしないで、とお願いしようとした言葉が消える。

つがい。

つがいって、言った?

つがいって言うのは、つまり、夫婦のこと。

でもぼくたち月の一族にとって、つがいっていうのは。

「えあの、…………はがねとたがねがぼく、の?」

「そうだ。おまえのつがいだ。二匹ともな!」

師匠は吐き捨てる。でも、嫌悪に歪んでいるというより、どこか呆れたふうだ。

ぼくたち月の一族には、「つがい」と呼ぶ相手がいる。もちろん、夫婦という意味でいい。

でも、地球の生き物が呼ぶ「夫婦」とは、少し重要度が違う。

ぼくたちにとってつがいとは、「運命共同体」だ。

基本的に、つがい以外の相手とはからだを繋げられないし、繋げれば気が狂ってしまう。

相手が死ねば自分も死ぬし、その反対もまた同じだ。

自分が死ねば、相手も死んでしまう。

離れて暮らすことなんて思いも及ばないし、――ごく稀な例外も知っているけれど、ほぼ例外なく、出会って触れ合ったその瞬間から、ぼくたちはつがいと共に生きるしか選択肢がなくなる。

そう、出会って触れ合うまでなら、ぼくたちはひとりでも生きられる。

からだを繋げることだけはどうしても出来ないけれど、だれかに恋じみた感情を抱くこともある。

けれど、つがいと出会って、触れ合った瞬間から――

「え…………っと、でも、二匹………?」

「稀な例だ。たとえ双子とはいえ、つがいが一対一でないというのは、歴史的にも類例がない」

師匠の言葉には迷いがない。そんなにきっぱりと言い切られても困ることも、きっぱりと言い切られてしまう。

ぼくは師匠の手でベッドへと潰されている、たがねとはがねを見下ろした。

「えっと、とりあえず師匠………」

「だがおまえは二匹とからだを繋げて、正気だろう。…………これだけの扱いをされても、憎く思うことが出来ないだろう」

「う」

二匹を放して、という言葉を聞かずに告げられる師匠の言葉に、ぼくは今さらながら真っ赤になった。

そうだった。

いくらなんでも、ここまでされたからだを、そのまま師匠に晒してるって。

「ぅ、つっ」

「落ち着け」

慌てて布団を被ろうとして、痛みにうずくまったぼくに、師匠はため息をついた。

二匹の頭から手を離すと、放り出されていた布団をぼくのからだに掛けてくれる。

「師匠、乱暴だよ~」

「師匠、ひどいよ~」

解放された二匹は、あんまり怒ってもいない、けれど反省もしていないのんびりした声でぼやく。

「なにがひどいだ、このお調子者どもが」

「「きゃぃんっ」」

対する師匠のほうはあからさまに怒った声で、二匹の襟首をつまんで持ち上げた。

「俺が『うさぎ』を探していると知っていただろうが、おまえたちおまえたちにも訊いたはずだぞ、うさぎの子供を知らないかと!」

「「ええ、だってぇ~」」

責められても、二匹はあんまり悪びれなかった。

「卯の花って、子供じゃないもん」

「卯の花、ちゃんとオトナだもん」

ああうん、子供とまで言い切られると、確かにぼくも複雑なんだけど……………一族の寿命から考えて、師匠にはぼくがちっちゃい子供に見えていても仕方ない。

でもそもそも、問題点はそこじゃなくて、――一族の中で、今のところ、見つかってる「うさぎ」はぼくだけだってことだよね。

子供か大人かはさておいて、「うさぎ」ってとこに反応してもいいんだけど。

「卯の花のにおいが変わったから、つがいを得たことには気がついたが………」

「え、におい…?」

ぼくは鼻に自分の腕を持って行って、においを嗅ぐ。

変わった気はしないんだけど、鼻のいい師匠だ。おそらく、あの場所でつがいと出会ったことでぼくのにおいが変わって、あとを追えなくなったんだ。

で、さっき、ぼくの上げた声が聞こえるまで――ああうん、そうなるとやっぱり、アレコレと筒抜けなんだ………。

穴がないなら掘りたい思いで身を縮めるぼくに構わず、師匠は眉をひそめる。

「俺も迂闊だったがな。おまえたちがうさぎの食事を訊きに来たときに、なにか勘付けばよかった。またおまえたち特有の気まぐれを起こして、本物のうさぎを飼いだしたのかと思ったところがもう、甘い」

腹立たしげに吐き捨てる声は、自分を責めている。

「師匠」

「まさかおまえたちとしたことが、自分のつがいにすら気が付けない間の抜けっぷりだとは思わないからな」

………………なんだか、さっきから聞いていると。

「師匠、たがねとはがねのこと、知ってるの?」

はがねとたがねにしたって、師匠ししょうって呼んで、ずいぶん親しげだ。

師匠のところにいるときに、二匹に会った記憶はないんだけど、顔の広い師匠だ。いろいろなところにいろいろな知り合いがいる。

首を傾げるぼくに、師匠は襟首をつまんだ二匹をベッドへと放り投げた。

「おまえよりさらに古い付き合いだ。そもそも、俺のことを『師匠』と呼び出した最初は、こいつらだ」

「え、そうなの?!」

師匠のところに来る一族は、総じて師匠のことを「師匠」って呼ぶ。名前で呼ぶひともごく一部にいるけれど、それは一族でも重鎮クラスだ。

だからぼくも自然とそう呼んでいたけれど、その始めが、この二匹?

「師匠は師匠だもん、師匠だよね~」

「師匠が師匠なんだから、師匠なんだよ~」

「えっと、わかんない………」

ベッドにだらっと懐いてのんびりと言う二匹に、ぼくは首を竦める。

感覚的には、まったくわからないってわけじゃないんだ。

確かに、師匠が「師匠」以外のなんだって言われたら、そっちのほうこそ言葉に詰まるし。

「わかんないことないでしょ、卯の花」

「わかるでしょ、卯の花」

「んんっ」

両脇で言って、二匹は俺のくちびるをべろりと舐める。相変わらず肉臭い…………はずなのに、こころが蕩けるいい匂いに感じる。

それもこれもすべて、二匹がぼくのつがいだって言うなら、納得だ。

つがいは、もちろん圧倒的に同じ種族の男女の組み合わせが多いけれど、異種族で、同性同士の組み合わせもないわけじゃない。

感覚が腑に落ちると、ずっと霞んでいたぼくの頭がきれいに晴れて動き出した。

二匹がぼくの運命の相手。

ぼくが運命を握られ、握る相手。

「おまえらはそうする前に、きちんと卯の花に謝れ。何年生きての、つがいに対する態度だ」

「何年生きたって、つがいなんて初めてだもん」

「ひとのを見てても、自分のなんて初めてだもん」

二匹に反省の色はなし。

師匠は深いふかいため息をついた。愁眉で、ぼくたちを見下ろす。――そうやると妙な色香が漂って、おかしな具合に胸が高鳴ってしまう。

つがいの枠も超える師匠の美貌って、凄すぎる。

こうなると改めて感心するしかない美貌に見惚れていると、自分のこころの葛藤と闘っていた師匠は諦めたように首を振った。

「あとで、おまえの荷物を二匹に預ける」

「え」

「要らないか?」

要らないってことはないけど、それってつまり…………師匠の家から、出るってことで。

二匹の傍を離れることなんて絶対出来ないのもわかっているけど、師匠の家から出ることも考えられない。

不安に揺れるぼくに、師匠は笑った。

「二度と顔を出すなと言っているわけじゃない。からだが治って外に出られるようになったら、遊びに来い」

「でも、師匠」

「選びようがないんだ、卯の花」

それじゃ師匠がひとりになる、と言おうとしたぼくに、師匠は静かに告げた。

「つがいとだれかを天秤に掛けることは出来ない。つがい以外を選ぶことも出来ない。そのときが来たら、過去のことはすべて思い切るしかないんだ」

言われることはわかる。

わかるけれど……………あの家に、師匠はひとりきりになって。

ひとりきりで――

思い切れ、と言われても、思い切れないぼくに、たがねとはがねが鼻を寄せる。すんすんと嗅がれて、ぼくの瞳は揺れた。

二匹以外を選ぶ気なんてないんだ。

なにをされても、たぶん、二匹だったら全部赦してしまうんだ。

でも。

師匠は花が綻ぶように笑って、ぼくへと顔を寄せた。ぺろりと瞼が舐められる。

「たまには泊まりに来い。二匹は俺の用で、遠出することもある。これからはそう頼めないだろうが、これでいて貴重な戦力だ。どうしても頼まなければならないこともある。そのときにはおまえがひとりで留守番だ。寂しい同士、お互い身を寄せ合うのもいいだろう」

「ん………はい」

二匹に置いて行かれる、と考えただけで、ぼくの胸はしくりと痛んだ。

でも、そしたらきっと、師匠のことをもっと理解出来るだろう。師匠のことを、もっと支えてあげられるようにもなる。

「師匠、俺も俺も」

「俺も俺も、師匠」

「まったく………」

ぼくの脇から反省皆無のままに顔を突き出したたがねとはがねに、師匠は眉をひそめる。

けれど結局笑って、二匹の瞼もぺろりと舐めた。

一族の中でも、師匠だけに赦された、師匠だけが出来る、親愛の表現。

「またな」

笑って、師匠のからだがほどける。

ひとの形から、本来の姿である獣へ――金色のかかった銀色の毛並みが威風堂々として、獣となっても一族きっての美しさを誇る、狼へと。

狼といえば間違いなくうさぎにとっては怖い相手なんだけど、それが師匠っていうだけで、ぼくはうっとりと見惚れてしまう。

それはのらりくらりとしていたはがねとたがねにしても同じようで、傍らにあるからだが息を呑むのが感じられた。

「ほどほどにしておけよ」

言い置いて、師匠は風のように出て行った。

ぼくたちはそれでもしばらく、動くことも出来ずに、目に焼き付いた残像にまで見惚れる。

ややして、はたと我に返ったぼくたちは、互いに睨みあった。

「俺たちがいるのに、師匠に見惚れるってどういうこと、卯の花」

「いくら師匠とはいえ、俺たち以外に見惚れるってどういうこと、卯の花」

「そんなの、二匹だってぼく以外に見惚れるって、自覚が足らないでしょ!」

口々に叫んで、負けずに睨みあう。

でもそれは、長くは続かなかった。

「……………師匠だもんね」

「……………師匠なんだよね」

「…………師匠は仕方ないでしょ」

つぶやく結論は、そこに落ち着く。

つがいと出会った瞬間に、相手のこと以外は考えられなくなるぼくたちだけど、――師匠は特別だ。

「「だから師匠なんだしね」」

二匹のぼやきが、つまりぼくたちだけでなく、一族全体が出した結論。

二匹は鼻をすんすんと鳴らして、布団に隠れたぼくのからだへと押しつけた。

「痛い?」

「痛いよね?」

「ん………」

それはもちろん、痛い。これが痛くなかったら、それは異常だ。

二匹はそっと布団を剥ぐと、無残なぼくのからだへと舌を這わせた。

「いた………っんぅ」

悲鳴と言うには甘く啼いたぼくに、二匹はそれでも殊勝な顔だった。

「「うん。ごめんね、卯の花」」

謝りながら、ぼくのからだに縦横に走る傷に舌を這わせる。たぶん、愛撫ではなく、慰撫。

だから、それにいちいち感じるぼくがどうかしているんだけど………。

「も、たがねも、はがねも…………っ」

舐められると、痛いのに反応してしまう。

だから舐めないで、と頭を掴んだぼくに、二匹は少しだけ笑った。

「だいじょうぶだよ。今日はひどいことしない」

「だいじょうぶだよ。今日はもう、舐めるだけ」

「んゃあ………っ」

って、今日は、って言った?!本気で反省皆無だ。

傷口を舐められると、ぴりぴりと痛みが走る。走るんだけど、その痛みは頭に届くと、気持ちいいに変換されてしまう。

ふんにゃりと勃ち上がったぼくの性器に、二匹はついでのように舌を絡めた。ひどくやさしくしゃぶられて、舐められて、からだがびくびく揺れる。

揺れるたびに、お尻が物凄く痛むんだけど。

ベッドに倒れたぼくの足が広げられて、下半身がさらけ出される。

「舐めてあげるね、卯の花」

「舐めたらすぐよくなるよ、卯の花」

「あぅう………っ」

からだの傷は「ぴりぴり」だけど、そこの痛みは「びりびり」だ。

わずかに引きつったぼくに構わず、二匹はあくまでもやわらかに優しく、舌を這わせる。

最初はそれでも痛かったけれど、だんだん、からだ全体が熱を持って疼きだした。

舐められるだけじゃ、物足らない。

だからっていって、さすがに今入れられたら、受け止める自信はないけれど。

「ふぁう………っぁうう」

「びくびくしてんね、卯の花」

「どんどんおっきくなるね、卯の花」

「「気持ちいいんだねー」」

二匹の喜色に染まった声に、ぼくはただ頷く。

後ろと前に舌が這わされて追い上げられ、ぼくは震えながら達した。

「んん…………っ」

名残りで震えながらも脱力するぼくの頬を、二匹は軽く舐める。

「かわいいね、卯の花」

「かわい過ぎるよね、卯の花」

それから、二匹は口をにんまりと裂いた。

「「こんなかわいいうさぎ、ぜったいだれからも守ってあげなきゃね」」

………ええっと、言っていることはうれしいんだけど、その笑顔は怖いってどういうこと。

なんとも返事が出来ないぼくに、二匹は糸のように細い目をますます細くする。

「卯の花を食べてもいいのは俺たちだけだよね」

「卯の花を虐めてもいいのは俺たちだけだよね」

「…」

できれば虐めないでほしいです。

そうは思っても、ぼくのからだの芯が素直に反応して疼いている。

口ごもって、散々迷ってから、ぼくは仕方ないと笑った。

それが「つがい」で、それが「運命」っていうものだ。

「そうだよ。ぼくになにしてもいいのは、たがねとはがねだけ」

きっぱり告げたぼくに、笑う二匹は情熱的なキスをくれた。

END