ぐちゅりと、耳からも犯されるような音が殊更に響いて聞こえ、カイトはぶるりと背筋を震わせた。

震えるのはしかし、卑猥な音のせいだけではない。

久しぶりに、腹の中にがくぽを受け入れた。

After War of Bride-前半戦-

「ぁ、は………ぅ、なか………っ」

狭く閉じる襞を押し開いて入ってくるものに、カイトは陶然とした声をこぼす。文章にならず意味もないが、どれだけの幸福をカイトが感じているかは、なによりも伝わる。

単純な行為として見れば、久しぶりだ。

たかが五日という見方もあるが、共に暮らしていながらほとんど口も利かずに顔も見ない喧嘩のうえの、永遠のように長く辛かった五日間だ。

ようやく仲直りをして、久しぶりの――

それだけでも感慨深いが、今回は二人にとって『初めて』の行為でもある。

互いに思いやり、怯懦や遠慮の挙句に、気持ちが追いついていない体だけの関係に陥っていた二人が、きちんと想いを通じ合わせたうえで、初めて――

仲直りした場所がカイトの部屋だったのは、残念な好都合だった。

がくぽの部屋だと、いちいち布団を出してのどうのとしないと、カイトを直に床へと転がすことになる。

カイトはそれでも構わないという勢いだったが、がくぽとしてはようやく迎えた『奥さん』を、丁寧にやさしく愛してやりたかった。

カイトの部屋にはベッドがある。言葉は悪いが、ベッドは万年床と同じだ。

部屋の中でベッドまでの移動に、果てしない距離があるような豪邸でもない。むしろ軽く腰を浮かせればという、すぐそこだ。

躊躇う理由も思い浮かばず、久しぶりとなったキスはすぐ、ベッドに乗り上がって互いの服を剥き合い、先の行為へと続いた。

「………辛くないか」

ロイドの体で、人間とは違う。挿入に際してそれほど配慮はいらないが、がくぽは組み敷いたカイトを気遣って訊き、赤く染まる頬を撫でた。

常に冷たいのがロイドだが、触れた頬は色のみならず、わずかな熱を持っている。おそらくはそうやって触れるがくぽの指もまた、あえかな熱を帯びているはずだ。

普段は不快な熱も、今は心地よい。

瞳を細めたがくぽの手に、カイトが己の手を重ねた。

ぬくもりが重なって、常に険しいがくぽの表情もさらにやわらく解ける。

しかしその表情は、すぐに強張った。

「へーき………気持ちい………」

快楽に掠れる声で応えたカイトはおねだりを含んで微笑み、重ねた手にわずかに力を込めた。

「ね、がくぽ…………中に、出して、ね………俺のおなかのなかに、…………せーえき、出して、ね…………旦那さま………?」

「貴様………っ」

「んんっ」

ひくりと引きつったがくぽの表情は、寸でのところで目を閉じたカイトには見えなかった。

その気になれば、がくぽはいくらでも表情を取り繕うことができる。しかし今、カイトの腹の中に押しこんでいるものは、感情を取り繕うことも出来ずに素直に表してしまう。

びくりとうねって成長したものに刺激され、カイトもまた、受け入れた場所をきゅうっと締めた。

「ぁ、あ………まだ、おっきく………」

震える瞼を開いたカイトは、がくぽの手に重ねていた手をずらし、煽られる感覚に怯えるように指を噛む。

視線は、険しい表情で睨み下ろすがくぽの顔を素通りした。十分と思われる硬度で押しこんだにも関わらず、まだ中で成長を遂げる『がくぽ』を透かし見ようと、下半身に向かう。

「うすうすわかってはいたが」

陶然と崩れるカイトの表情を眺めながら、がくぽは吐き出した。

「貴様の言語選択能力は破壊的だ、うすらぼんやりが」

「ん、なに、なに、がくぽ………んんっ、ゃ、そんな、おっきくしながら………っ」

「――ついでに俺は、後で俺の息子と十全に語り合う必要がありそうだな………猛省を促すぞ、畜生」

がくぽは微妙に、涙目だった。

旦那さま、と。

躊躇いがちに、恥じらいながら呼ばれて強請られただけで、どうしようもなく興奮が募った。

初心にも程があると思う。

やさしく愛おしみ、過ちのうえに傷つけた相手を労わってやりたいのに――

あまりに過ぎる興奮に、突き上げる欲望の激しさに、思考が眩んで白く弾け、思うがままに腰を打ちつけそうになる。

思いやってやりたい心と裏腹に、どうしようもなく雄だ。

ましてやずっと手に入れたかった、念願の相手。

これまで体は繋げても、罪悪感と己への嫌悪感に苛まれながらの行為だった――のが、ようやく。

まさか叶うとも思っていなかったせいで、悦びがひとしおなのはいい。が、これまでにない快楽に溺れ、相手を気遣うこともなく貪りそうな危惧がある。

「がくぽぉ………」

「悦くしてやるから、貴様は余計なことを考えず、あんあんとだけ言っていろ!」

「えー………………」

がくぽの内心など知る由もないカイトは、どうして唐突に自棄を起こされたのかがわからない。ましてやすでに、カイトの腹の中に漲るものを押しこんでいるのだ。

限界を知らないような雄に感覚を刺激され、腹をきゅうきゅうと締めながらも、カイトは無邪気に首を傾げた。

「あのね、がくぽ………一昔前のえろマンガでもあるまいし、最近はそんな、あんあんとか」

「言いたいことはそれだけだな!!自分の発言をよく覚えていろよ、貴様!」

「ぇ、ゃ、ふぁあっ?!」

自棄を極めて、がくぽはとうとうなにかしら、大事なものが切れたらしい。

腰を掴まれるや、すでに十分に呑みこんだと思っていたものがさらに奥へと押しこまれる感覚に、カイトは軽く悲鳴を上げた。

逃げを赦さずに掴んだ腰を引きつけ、自分からもぐっと押しこんだがくぽは、ちろりとくちびるを舐める。

堪らない。油断すると、持って行かれる。

押しこんだ瞬間に、カイトはこれ以上なくきゅうっと腹を締めた。そのきつさと、驚き慌てて、うねり吸いつく襞の感触――

「無自覚にも程がある、うすらぼんやりめ」

「っぁ、あ、……んんっ、ふぁあっ」

灼けたように掠れた声で罵ると、押しこんだまま腰を揺さぶったがくぽに、カイトは体をくねらせた。しかし下半身をがっしりと押さえられているせいで、うまく身悶えられない。

「んんっ、ぁ、あ……っ、おく、ぉく……っぁ、ゃ、めぇ、ぁくぽ………っ」

「なにが駄目だ?」

自棄を起こして動き始めたがくぽだが、かん高い声で啼くカイトに問う声はやさしかった。

動くことはやめずに、奥をこつこつと叩いてやりながら、逃がせない快楽に思考を朦朧と飛ばしていくカイトを眺める。

「なにが駄目だ………絡みついて絞り上げて、貴様の腹は悦んでいるだろう?」

「んん、ゃ、め………っ」

がくぽのささやきに、カイトはぷるぷると、懸命に首を横に振った。きゅっと指を噛んでも堪え切れず、救いを求めるようにがくぽへと腕を伸ばす。

「イっちゃ……イっちゃぅ、これ……こんな、ぉく………すぐ、すぐ、もぉ、ぃっちゃ………っっ」

皆まで訴え終わるより先に、カイトは腕を伸ばしかけの中途半端な姿勢で仰け反り、強張った。

足の間に挟まるがくぽの体に、腿がきつく食いこむ。一瞬だが、力の強さはそれなりで、痛いほどだ。

しかしそれ以上にきつく締め上げ、さらには痛みどころかひどく心地よいのはなによりも――

「………奥が好きか」

「ぁ………あ、は…………っ」

「………なるほど」

問うというより確認するようにつぶやいて、がくぽはカイトの全身を眺めた。

これまでは微妙に合意と言い切れなかったため、いかに早く終わらせてやるかに焦点を当てていた。カイトはどういうやり方が好きかといったことを、あれこれ試すこともない。

一般的な快楽のツボを刺激してやって短時間でイかせてやり、自分もまた、出来るだけ早く果てる。

奥だけを刺激してやったカイトは、常より早くに頂点を極めた。そのうえ、後が長い。咄嗟に言葉にならないまま、ひくひくと体を痙攣させている。

触れてやらなかった雄は激しく吹き上げるというより、だらりと蜜をこぼし続け、こちらも力ない痙攣の中にあった。

努力と根性と、あとは奇跡的な幸運で堪えたがくぽは、継続的に引きつりうねる襞に思考を眩ませつつ、そんなカイトの様子をじっくりと堪能する。

絶景だ。

意識を飛ばしかけの快楽に染まるカイトの表情も、平らな胸の中、色に染まってぷっくりと勃ち上がった乳首も、自分が出したもので白く汚れた腹も――

「貴様はどうなったところで、悩ましい」

つぶやくと、がくぽは自分への呆れと相手への諦めに、複雑な苦笑で美貌を歪ませた。

「こうまで愛らしく淫靡では、なにかを言おうが言うまいが、関係ないな」

存在だけで、等しく煽られる。

結論をつぶやくと、がくぽは痛むほどに張り詰める己を解放すべく、カイトの腰を掴み直した。