他のところの『神威がくぽ』がどうかは、知らない。

カイトの二人の『がくぽ』――がくぽとがくに限って言うなら、起動して日も浅いせいか、微妙にオコサマだ。

無邪気で、遊ぶのが好きで、悪戯が好き。

Three Peace-前編-

「ひゃんっっ」

「んどちらだ?」

かん高い声を上げて体を跳ねさせたカイトに、がくぽは対面に座るがくと見比べる。

がくもまた、無邪気に不思議そうな顔で、がくぽとカイトを交互に見た。

「兄者のほうではないのか我のほうは、特に……」

「そうか弟ではないのか我も特に……」

「んっ、ぁ、おばかぁ………どもっ………っ」

無邪気な顔を見合わせるがくぽとがくに、間に挟まれたカイトは涙声を上げた。

昼間だ。一般的には、健全極まりない時間帯。

しかし彼らの住環境は、1LDKという狭さに男四人を突っこむ無茶さ加減だ。

がくぽとがくがカイト――彼ら曰く言うところの『嫁』に手を出せるのは、昼間、マスターが仕事に行っている間だけ。

夜に手を出すと、もれなく嫁から鉄拳制裁と怒涛のお説教攻撃を食らう。

力の差や器用さもろもろあれ、夜の嫁の手強さといったらない。

対して、昼間のカイトは無防備だ。ちょっとすると、すぐに全裸に剥ける。もちろん服を脱がすのみならず、その体の隅々まで余すことなく味わえる。

家事が終わって、買い物やら細々した用事も済ませると、――

「カイト、どちらだ?」

「兄者か我か?」

「ひぅう………っぅ………っ」

なにやら真面目に訊かれるが、カイトは咄嗟に言葉にならない。

今日もカイトはスラックスから下着から、シャツにコートにとすべてを脱がされたうえで、リビングに座っていた。

自分から脱いだものは、ひとつもない。あれよと言う間に、気がついたらこれだ。『神威がくぽ』が最新型とはいえ、器用にもほどがある。

カイトのことを間に挟んで座るがくぽとがくといえば、未だに着衣だった。多少くつろげてはいるが、彼らが初めから脱ぐことはない。

こだわりがあるというより、脱いでいる時間が惜しいのだ。

とにかく素早くカイトを裸に剥き、間髪入れずに快楽に蕩かしてしまわないと、させてもらえないという微妙な危機感があるらしい。

そのために、カイトひとりが昼間の明るい部屋の中で異質な、全裸状態。

挟んで座るがくぽとがくは、常と変らぬ姿のまま――座らせたカイトの、きゅっと締まった双丘へ指を潜りこませていた。

いつも健気に自分たちを飲みこんでくれる場所を、二人で共に解きほどく。

その指の動きだ。

二人して、てんでんばらばら、好き勝手に触りたいところを触る。

そうでなくとも感覚の微妙な場所だというのに、異質なものが、意思を二つ持って動き回る――

「ふたり……っだよ、おばかぁ………っ」

「ぬ我も弟もか?」

ぷるぷると震えながら答えたカイトに、がくぽは純粋に首を傾げた。がくのほうは、座りこんだまま弄られているカイトの下半身へと目をやる。

「面妖な………カイトの悦いところは、ここであろう?」

「ふゃっ、ぁ、あ、め……っ、がく、め………っ!!」

不思議そうにしながらぐりりと抉られた場所に、カイトは逃げるように腰を浮かせた。

言う通り、弱い場所だ。どうしてこんなところまでわざわざ造りこんであるのか、たまに恨めしい。

ラボというところは、おそらく変態の集団か、超越した完璧主義者の集団かのどちらかだろう。

逃げられてもがくもがくぽも、指を抜くことはない。追いかけて、さらにがくの指がぐりぐりとカイトの弱い場所を抉った。

「先のとき、兄者も我も、ここは掠りもしておらん」

「ん、ここか………そうだな、外れておったな」

「ひゃあぅっゃっ、やっ、やぁあっ、あ、めて、ゃめ……っぁ、ふた、ふたりで、ぐりぐり、や、おばかぁあ………っっ」

真面目な顔で、がくぽの指までもがそこを揉む。

悲鳴を上げて腰をくねらせ、逃げようともがいたカイトだが、そうやっていても簡単に逃がしてくれるがくぽとがくではない。

逃げても逃げても、むしろ二人してかえってそこに固着して、悶えるカイトを眺めながら抉り続けた。

「ゃ、ぁ……っ、あ、きちゃ………っひぁあうっ………っ」

一際大きく震えたカイトは、次の瞬間にがっくりと床に頽れた。

それでもしつこく指を差し入れたまま、がくぽとがくはひくひくと痙攣するカイトを眺めて頷き合う。

「………うむ、イったな。まだ、指しか入れておらぬのに」

「うむ。後ろだけで、しかも我と兄者の指のみでイくとは………」

「ぅ………っひぅっ………っ」

羞恥からぐすりと洟を啜るカイトに構わず、今の淫らがましい嫁の回顧に浸りきっている二人は、空いている手をぱんと叩き合った。

「「愛らしさの極み」」

「おばかどもぉ………っっ」

意気投合し、なにかしらのものを育んでいるらしいがくぽとがくに、カイトはへろへろとつぶやいた。

そんなふうにわざわざ意気投合しなくても、彼らが意見を相違させていることなど、あまりない。

同機種だということや、起動がいっしょなどという枠を超えて、なにかしら非常に相性がいいのが、がくぽとがくだ。

そして相性が抜群で、意気投合する二人が溺愛を傾けるのが、カイトだ。

「ん、んん……っん、っっ」

「もう一度、指でイっておくか、カイト?」

「やだぁあ………っっ」

達しても崩れても、しつこく中を探られている。がくぽの問いに涙声で返して、カイトはきゅううっと腹を締めた。

ふっと、がくぽとがくの表情が変わる。無邪気さが引き、欲情に駆られる雄のそれに。

カイトはよたよたと体を起こし、べたつく視線に変わったがくぽとがくを交互に見た。

「もぉ、指、やだぁ………ちゃんと、ちょぉだい………ふたりの………」

「………ふむ」

「よしよし、カイト………」

甘く強請ったカイトに、がくぽはわずかに考える顔になった。対してがくは指を抜くと、ぐらぐらと揺れているカイトを抱き寄せ、頬に軽くキスを落とす。

がくが抱き寄せたことで指を抜いたがくぽは、弟に撫でられてキスされ、機嫌を上向かせて表情を蕩かせたカイトをしばらく見つめた。

「ふむ」

もう一度、頷く。

「兄者?」

気がついたがくが、きょとりと瞳を瞬かせた。

相性抜群、意気投合することも多い、兄と弟だ。

しかし兄と弟と立場分けをしたせいか、完璧な意思の疎通には至らない。ある程度の齟齬が、生じる。

不思議そうにしつつ、がくは抱き上げたカイトの下半身を兄へと流す。

これもそうだ。

言葉に出して打ち合わせたことは一度もないが、初めにカイトを貫くのは兄のがくぽと決まっている。がくぽも主張しないが、がくも異を唱えない。しかし自然と流れて、そうなる。

カイトへの愛情度合いは変わらずとも、それはそれで、これはこれだ。おそらくこの感覚は、がくぽとがくにしかわからない。

二人にしかわからない、が――

「弟よ。今日はそなたから、嫁を貫け」

「兄者?!」

「がくぽ?」

がくぽの言葉に、がくも驚いた声を上げたが、カイトもまた意外そうな声を上げた。

仲良く抱き合う二人にきょとりと見られて、がくぽは仄かに笑う。

それから反対に、きょとりと首を傾げてみせた。

「たまには良かろうそれともカイトは、弟が先では厭か?」

「ぅうん」

ほとんど反射で首を横に振ってから、カイトは自分を抱えるがくを見上げた。がくは困惑に染まりながら、兄のことをじっと見ている。

戸惑いが大きいのは、カイトよりがくのほうだろう。

これでいてがくは、自分が『弟』で、がくぽが『兄』だということに、ずいぶんと重きを置いている。

判断の多くを兄に預けるのは、弟――目下のものがでしゃばってはいけないという、古臭い意識からだ。

それを苦痛とも思わず、自然とこなしているのが、がくだ。判断を兄に預けるせいで、比べるとひどく甘ったれに見えることもあるがくだが、あまりに徹底して兄を優先する。

たまにカイトは、がくがひどく不思議だ――どうしてなにもかも、そうまで兄に譲れるのかと。

もちろんがくぽも、なにもかもを独占して威張り散らすことはない。彼も彼で弟に配慮し、きちんと不自由ないように気遣っている。

それでも不思議に思わずにはおれないほど、がくは兄を立てて優先するが――

「がぁく」

戸惑いのあまりに身動きが取れなくなっているがくに、カイトは殊更に媚を含んで擦りついた。

揺らぐ瞳を向けるがくへ、とろりと甘ったれた笑みを向ける。きゅうっと胸元を掴むと、かぷりと顎に噛みついた。

「………していれて………ね、ぼく、もぉ………」

「カイト」

抱き締めるがくの腕に、きゅっと力が篭もった。

大好きなカイトに誘惑されて、うれしい反面、突き上げるのが罪悪感――だから、やはりカイトはがくが多少、不思議だ。

こんなおねだりは、カイトにしてもやりなれない。いつもはがくぽとがくが押せ押せと好きなようにやり、カイトはひらすら振り回されて啼いているだけだからだ。

それでも、このままでは埒が明かないし――なによりも、体の疼きは募って苦しい。

二人掛かりで快楽を仕込まれた体は、一度火が点くとなかなか治められない。

カイトは目元を染め、羞恥に顔を歪めながら、恨めしそうにがくを見た。

「がくぽが、してって、言ってるんだよ、がく………がくぽが……」

「………」

一言ひとこと区切って、言い聞かせるようにされ、がくは対面に座る兄を見た。

懸命に弟を誘惑するカイトを愉しそうに眺めていたがくぽは、その表情まま、頷く。

「ああ。今日はそなたが先だ。弟よ」

「………わかった」

未だに兄の考えが読めないながら、譲らぬ意見だともわかったらしい。

がくは頷くと、潤む瞳で見つめてくるカイトのこめかみに口づけを落とした。

「いいか?」

「おばか………」

問われて、カイトはぷくんと膨れた。すぐにその表情は溶け崩れて、甘ったれな色を宿す。

「焦らすな………はやくぅ………」

「ははっ」

強請られて、がくはようやく表情を綻ばせた。

そのがくに、がくぽはひどくわざとらしい、厳しい顔で首を横に振る。

「いかんぞ、弟よ。我らの嫁は、なかなか淫奔な体だ。あまり待たせると、我らを煽るために、はしたない言葉を口走りだす。しかし貞淑でもあるゆえな。事が終わってから羞恥に駆られて布団に潜り、出て来なくなる」

「うむ。そうであったな、兄者。あれは難儀だった………。あまりに淫らではしたなかったゆえ、もう一度見たいのだが、その後の始末を考えるとな………」

「がぁくぽ………っっがぁくぅ………っ」

しらしらと並べ立てられる過去に、カイトはぐぎぎぎと奥歯を鳴らした。のみならず、きゅううっとがくにしがみつき、服地越しにもわかるほど爪を立てる。

痛くてもがくは反省なく笑い、カイトの背を宥めるように叩いた。

「カイト………」

「ん」

促される意味はわかるので、カイトは素直にがくから手を離した。カイトが動くまでもなく、がくからがくぽへとカイトの体が譲渡され、下半身も流される。

しなだれかかるようにがくぽに抱きついたカイトは、がくに向かって軽く腰を掲げた。貫かれるとすぐに崩れてしまうそこを、がくがしっかりと掴む。

「入れるぞ、カイト?」

「ぅん」

「よしよし……」

大丈夫だとわかっていても、初めは緊張する。きゅっと縋りついたカイトの髪を梳き、がくぽはあやすようにキスを降らせた。

兄と嫁の仲睦まじい様子をしばし眺めてから、がくは思い切った。

どちらにしろ、入れるのだ。先か後かの問題で――それが重要なのだが、肝心の兄がいいと言い、嫁は嫁で、だんなさまのはやくちょうだい(註:脳内補填済)と愛らしくおねだりしてくる。

戸惑いはあれ、乱れたカイトを見ればすぐに漲ることも確かだ。

がくはゆっくり慎重に、カイトの中に己を押しこんだ。

「ぁ………っ、ぁ、ん………っんんっ」

「カイト……っ」

大丈夫かと続けようとして、がくは言葉を呑みこんだ。

きつい。

いつもはがくぽが先に入れてかき混ぜ、いいように嬲って、字義通り、カイトの身も心も蕩けきってからががくの番だ。

初めに入れるとき、兄が常に多少、眉をひそめる様は見ていたが――

「ふ………っ」

油断すると、持って行かれそうな気がする。食い千切られそうな痛みのときもあるが、概ね締めつけ具合は丁度よく、堪らない。

顔を歪めて堪えるがくの様子に、カイトを抱いてあやすがくぽが笑った。

「きつかろう堪えてやれよ。あまり性急に動けば、馴れても傷がつく。ましてや、嫁が愉しむ隙もない」

「応」

がくは頷くのが精いっぱいだ。初めてではない――それこそ、カイトの中には何度も打ちこんだし、欲望を吐き出した。

それでも、初めとそれ以降とで、こうまで違うとは思わなかった。

ゆっくりと腰を動かしだしたがくをちらりと見てから、カイトは縋りついていたがくぽの胸を押した。

うっすらと、くちびるを開いてみせる。

「がくぽ……がくぽのも、してあげる………」

大体いつでも、がくぽが下に入れているときには、がくのものはカイトの口に含まれている。がくのものを下に飲みこんでいるときには、がくぽのものがカイトの口を塞ぐ。

その常で言ったカイトだったが、与えられたのはがくぽのくちびるだった。

舌を絡めてやわらかに貪られながら、抱いた手できゅっと乳首をつままれる。

「っぁんっ」

「っくっ」

びくんと跳ねたカイトがきゅうっと腹をうねらせ、連動して、押しこんでいるがくがきつい締め上げに呻く。

快楽の連鎖を愉しく眺めながら、がくぽは縋りつくカイトの耳朶にくちびるを寄せた。

「今日は良い。まだな」

「がくぽ……っぁっ、ぁんっ、ゃ、がく……っそこ………っぁ……っ」

先からずっと、がくぽの様子がおかしい。

問いかけようとしたカイトだが、そもそもがくが中に入って腰を突き上げている。

あくまでも『一番手』が初めてなだけで、カイトが初めてなわけではない。弱い場所も熟知していれば、弱い攻め方にも精通している。

戸惑いから抜ければ、その攻めはカイトの理性などすぐに蕩かして、ただ甘く啼くだけのイキモノに変えてしまう。

カイトはがくぽにしがみつきながらがくを見つめ、ひたすら甘く啼き続けた。