Hello,Mr.Fear

「か、か、か、かいちょ!!せ、せっしゃにぎゅううっとしておれば、ららら、らいじょーぶでごじゃるっせせ、せっしゃは、かにゃらじゅ、かいちょをまもゆでごじゃぅっ」

「ん、がくたん……よしよし」

小さな体をぎゅっと抱いて――というより、がっしりとしがみつかれて、カイトは暗闇をすたすたと淀みなく歩く。

「もうそろそろ、出口………あ」

震えながらしがみつくがくたんを宥めていたカイトが、ぴたりと立ち止まった。

「んっっひぎゃぁあああああああっっ!!」

――その途端、道の脇の井戸から『お化け』が飛び出した。

耳が痛くなるような絶叫とともにしがみついたがくたんの背を撫でてあやし、カイトは呆れたように『お化け』を見る。

「出るだろうなーと思うとこで、ほんとに出るし………出ないだろうなーってとこでは、ほんとに出ないし……」

「うっ、ぐすぐすっ」

「ん……」

カイトにとっては『子供向け』過ぎて、むしろ笑ってしまうようなお化け屋敷でも、それこそ『子供』のがくたんには恐怖だろう。

腕の中で本格的に洟を啜り始めたがくたんに、カイトは微笑んで頭を撫でてやり、こめかみにキスを落とした。

「だいじょうぶ。カイトがいるでしょ怖くないこわくない」

「こ、こわくなんかないれおじゃっ」

――普段は滑舌のいいがくたんだというのに、完璧に呂律が回らなくなっている。

懸命に洟を啜り、がくたんはカイトにしがみつく手に力を込めた。

「せ、せっしゃは、かいちょのムコれおじゃゆっお、おばけなろ、こわく………っぅええ、ぐすぐすっ」

「ん、よしよし……」

がくたんをあやしながら、カイトは出口に向かう。

洟を啜りながら、がくたんはカイトにきゅうっとしがみついた。

「………こ、こんにゃ、なしゃけないせっしゃのこと、きらいにならないでおじゃゆか………?」

「まっさか!」

吐き出された懸念を、カイトは明るく弾き飛ばした。

「そんなわけないでしょおっきくなったら、がくたんはすっごくかっこよくなっちゃうんだから。こわがりなのなんて、ちっちゃいうちだけなんだから、今はカイトにいっぱい甘えてればいーの」

「……かいちょ」

暗闇にも光を放つような笑顔で言ったカイトに、がくたんも泣きべそを掻きつつ、笑った。

「うむ、うむ……せっしゃ」

「あ、」

出口寸前。

カイトの警告より早く、最後の最後の仕掛けが飛び出し、がくたんの絶叫が轟いた。