スワニーマジパン入りカスタードクリームスープ
「ぁくぽーーーーっっ!!ぁちょーーーーっっ!!」
「よしよし……」
叫びながら、びよんびよんびよんと駆け寄って来たかいちょを、がくぽは軽々と受け止め、抱き上げた。
腕に乗せてやり、興奮に顔を真っ赤にしているかいちょをなだめるように、とんとんと背をあやし叩く。
「『ぁちょー』ではないな、かいちょ……『白鳥』さんだな」
「ぁちょーーーーっっ!!」
言い直してやったがくぽだが、かいちょは発音できなかった。どうやら過ぎる興奮に、うまく舌が回らないらしい。
もともと、言葉が遅れ気味のかいちょだ。興奮などしたら、なおさら――
そこまでかいちょを興奮させたものだ。
『白鳥』さんだ。ぱんつの前張りから、にょっと首を生やした。
そもそも現在の、かいちょの格好だ。ぱんつ一枚だ。
温度管理もきちんとされ、他人の目に晒されることもない自宅内とは言え、上着を羽織ることもなくぱんつ一枚の――ぱんつ――………ぱん……………?
前張り部分から白鳥の首が生えていたとしても、これを『ぱんつ』と呼ぶのであれば、だが。
「これはどうした、かいちょ?」
「ぅみちゃ!」
がくぽの、静かにも過ぎるほど静かな問いに、かいちょは即座に叫んだ。
ふっと、がくぽのくちびるが綻ぶ。くちびるだけだ。くちびるだけが綻んで、ただひたすら静かに静かな声を放つ。
「グミ、――か?」
問われたかいちょはなんら危機感を覚えることなく、素直にこっくんと頷いた。
「ぅみちゃ!あのね、かいちょね、なんのへんぱんちゅはいてもかわいーってね、さいしゅーへーきって、ぁっちょしゃん!!ぁっちょしゃんぱんちゅ!かいちょ、ぁっちょしゃんなの!!」
「………」
がくぽはゆっくりと、首を巡らせた。かいちょが駆けて来た方を見る。
がくぽの妹であるグミが床に倒れ伏し、「白鳥ぱんつなのにかわいい!かいちょかわいいのぢゃ!かわゆすぐるのぢゃーーーっっ!!」と叫びながら悶え回っていた。
妹のセンスは知っているし、性格もよくわかっているし、かいちょに対する愛情にも疑いはない。
しかしだ。
かかしだ。
「ぁくぽ、ぁくぽ……っ!!ぁっちょしゃん!」
「そうだな、かいちょ。白鳥さんだ」
興奮最高潮の幼子にぐいぐいと髪を引かれて首を戻し、がくぽは事実を事実として口にする。
白鳥さんだ。
それはもう間違いなく、白鳥さんだ。白鳥さんだとも。ぱんつの前張りから生えている首であろうと、――
かいちょの裸の背をとんとんとあやし叩き、がくぽはにっこりと穏やかに、全力で微笑んだ。
「それはそれとして着替えるぞ、かいちょ?たとえ家の中であれ、いつまでもこのような格好をしているなぞ、児ポ法が見逃してもネット警察が見落としても、がくぽの目の黒いうちには決して、見過ごさぬからな?」
後日。
「あにさまの、目な?きれいなあおの……花色の、目、な?珍しくも炯々と、光っておられてな……『花』ではなく、かみなりのようぢゃったわ。さすがにグミもかいちょも、ぐうとも反論できぬでな……」
あそこまで怒ったあにさまは久しぶりで、グミはちょっとこわかった――と。
『罰清掃中』の札を背に庭の草むしりをしていた暴走少女は、手伝ってくれた友人にそう語ったという。