がくぽは努めて穏やかに微笑んだ。しかし困惑は隠し切れず、笑みはどこかいびつだ。

ことりと首を傾げると、がくぽは目の前の女子生徒へ問いかけた。

「ちょっと、わからないのだけどね、カイト………君、今回のイベントの趣旨を、どう理解したんだい?」

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「ぅっ、ぅぇえっ!」

問われた女子生徒――もとい、セーラー服に身を包んで自室の床にへたりこむカイトは、顔だけでなく全身真っ赤に染め上げ、べそ掻き声を上げた。

ちなみにカイトはセーラー服、スカートを穿いただけではない。短い髪の毛もサイドを軽くつまみ、ぼんぼん付きのゴムでちょこんと結んだ。

学校イベントなどで時折見かける、ノリとウケ狙いでたまたま女装してしまった男子生徒そのものだ。

が、思い出したいのは、そのイベントだ。『なえなえ変柄おぱんつ大作戦』という。趣旨や諸々への感想はとりあえず置くとして、『変柄おぱんつ』、つまりはパンツ、下着がメインの――

なぜセーラー服美少女が、がくぽの前に登場してしまったのか。

がくぽが困惑するのも無理からぬことだが、笑みのいびつさにはもうひとつ、理由があった。

先にも言った。今のカイトはノリとウケ狙いで女装してしまった男子生徒のごとくだと。

しかしカイトはそもそも幼顔で、素地も愛らしい。オトコノコが女装したのだと思いはするが、笑劇的というほどではない。

少年だと理解したうえで、『美少女』と呼んでも差し支えないというか――性別の曖昧さが妙な色香となって、むしろ艶めかしい。

萎えるどころではない。

が。

「カイト?」

「わ、わかんな……っ」

「っと……」

べそべそになりながら、カイトはぴょんとがくぽの膝に飛び乗り、首に腕を回してぎゅううっと抱きついた。

受け止めて、背を叩いてあやしてやりつつもがくぽは、わずかに下半身をもぞつかせる。カイトに『当たらない』ようにだ。なにと言って、ナニだ。イベントの趣旨に反し、萎えるどころではない――

「わからないって『変柄パンツ』だろう。見たまま、読んで字の如しで…」

「だからっその、『ヘン』っていうのがっ!」

お子様の脳内で、いったいどんな化学反応が起きたのか。

不自由ながらも首を傾げて訊くがくぽに、カイトはぎゅうぎゅうにしがみついたまま、自棄を起こしたように叫んだ。

「『ヘン』って、だって、ヒトによって基準、違って……なんかぜんぜん、違ってっ………周りのひとに訊いたり、なんか、いっぱい考えてたら、わかんなくなってきてっ……それで………っ」

「………考え過ぎたのか」

そんな必要のない単純な問題のはずだが、がくぽは口にしなかった。カイトの言う通り、なにを単純として、なにを複雑と捉えるかは、人それぞれだからだ。

カイトもきっと、初めは単純に考えていたはずだ。それが、参考に他人の意見を聞くうちに――

「………それで、カイト。あー………その、肝心の、………なんというか、下着………なんだが」

「っ、ぁっや、せんせ……っ」

恋人同士ではあるが、がくぽはカイトより年上だ。そして家庭教師であり、カイトは教え子という立場でもある。

非常に聞きにくいながらも本題を問いつつ、がくぽの手は滑り落ちて、スカートの中に入った。

『カイトに触れる』ことに対して、背徳感は常にあれ、『スカートの中に手を入れる』行為の比にはならない。

――などという、気がつかなくてもいいことにまで気がつきつつ、がくぽは懸命にため息をかみ殺した。

「ゃ、んん、せんせ、て……っ、ゅび、はぃ……っっ」

「うん、カイト……。つまり、私が訊きたいのはね?」

がくぽはスカートの中を探る手を止められないまま、膝の上でびくびくと跳ねるカイトに頭を凭せ掛けた。

「なんで結論も、『肝心の下着はオトコモノ↓↓↓』ではなく、ちゃんと女性用のレースにイっちゃったんだろうね……」

若い子の感性って難しいなと。

未だ二十代の若造に過ぎないがくぽは浮かんだ感想を、今度もなんとか呑みこんだ。