チェスター産ねこの長期計画

がくぽの部屋に来たカイトは勢いよく潔くジーパンを脱ぎ捨てて下着姿となると、勝ち誇った高笑いを放った。

「なーははははははっ!!見よこのおぱんつっどんなにヤりたい盛りのご年齢とはいえ、ついうっかり挫けずにはいられないだろう、がくぽくんっ挫けて折れて、項垂れちゃうだろうっっ!!」

「先生………っ」

確かにがくぽは、カイトを正視できなかった。

まったくもって、この家庭教師だ。家庭教師にして、恋人だ――

年下の恋人をからかうことに無上の喜びを見出していて、そのためにはヤりたい盛りの少年の諸々を萎えさせ、上った血を一瞬で冷ますような凄まじい柄の下着を身に着けることも、厭わず躊躇わないという。

いや、さすがにいくらなんでもという気もする。あわよくばこのまま別れ話に的な、愛のなさが露呈したかのような。

そしてがくぽだ。

カイトの思惑通り、うっかり挫けて折れて萎れてしまったがくぽと、がくぽの軟弱なご子息だ。

思い至った悪い未来予想図と相俟って、言いたくはないがちょっと、立ち直り先が見えない。

「せんせぇえ……っ!」

「あれ、いやだよこの子ったら。まぢ泣き」

情けなくべそ掻き声を上げた年下の少年に、カイトはしれっとしている。

しれっとしたまま、自室の床に膝をつき手を突いて項垂れるがくぽに合わせてしゃがんだ。

恨みがましい上目で見つめて来るコイビトに、愛らしさ満点でちょこんと、首を傾げる。

「あのさ、がくぽ……若いうちは、折られて挫かれて、項垂れる経験もしときなよ。それでも立ち直って前以上に頑丈になって、がんがんに突き進むのが、つまり若さってもんでしょ?」

諭す家庭教師を、生徒は据わった目で眺めた。静かに問いを放つ。

「………先生。俺と先生の年齢差ですが」

カイトはというと真顔で、がくぽに片手のひらを向けて答えた。

「ごっつ。言い換えると、いつつ」

違う。

いや、ご回答頂いた数字自体は正確だが、違う。そうではない。がくぽが言いたいのは、実際的な数字がいくつかということではない。

がくぽも若いかもしれないが、そのがくぽに『若さ』を諭すカイトだ。

年上とはいえそうそう、『老齢』というわけではないという――

そのがくぽに、カイトは向けた手のひらを握って開いてとくり返して、にっこり笑った。それはそれはもう、背筋が凍りそうなほど、とてもきれいな笑みだった。

「それに、がくぽ。この程度で萎れたまんま立ち上がれないなら、どのみち俺とツヅクわけないでしょ?」

「っっ!!」

きれいな笑顔でやさしい声だったが、言うことが厳しい。冷たく、やはり愛が感じられない。

がくぽははっとして身を起こし、だけでなく居住まいを正してカイトと対した。

残念な話だが、その通りだ。『この程度』で挫けて、付き合い続けられる相手ではない。

むしろ今回は、かわいいほうだったのだ――正視しがたくうっかり折れてしまったとはいえ、たかが下着一枚の話。

全身隈なく、なえなえファッションでコーディネイトしてきたというわけではないのだから。

潤む瞳で懸命に見つめる、健気な年下の恋人の顎を捉えると、カイトは笑みをにんまりしたものに変えた。

顔を寄せて、しかしくちびるが触れ合う寸前で止める。

「そんなに心配しなくても、だいじょーぶどんなに萎えたって、せんせが責任持って、ちゃんと治してあげるし……びっしびしに鍛えて、カンタンに折れたりしない、せんせ好みのつっっよぉおいオトコに育てちゃうし♪」

「せんせ」

楽しそうに吐くくちびるが、なにか応えようとしたがくぽのくちびるを掠め、言葉を奪う。

軽く触れただけで離れると、カイトはがくぽの手を取り、己の下半身へと導いた。ひくりと引きつった指の動きも強引に押し切って下着に触れさせると、がくぽの額にこつりと、額をぶつける。

「とりあえずね、神威がくぽくん。そこに『障害』があるなら、まずは『取り除く』ってことを覚えなさい考えなさいだって、そうでしょ……穿いてるぱんつが強烈ぱんちでも、脱がしちゃえばいつもどーり、がくぽが大好きな、生まれたまんまのミダラえっちなせんせだよ?」