ぴーかんお天気。
こーいう日は、おふとんを干すのです!!
おひさまおふとん、またたび
「きょぉこそは……………っっ!!」
おふとんを小脇に抱えて、俺は屋根をにらみ上げる。
今日というきょうこそは、おひさまおふとん、ふわふわほかほかおふとん!!
「っしゃ!!」
気合いを入れて、屋根に飛び上がる。
汚れよけの布を一枚敷いて、それからおふとんを広げて。
これでいちんち、おひさまに当てたら、おひさまおふとん出来上がり。
朔が夜寝るときには、ふわふわのほかほかで、おひさまのいーにおいのすてきおふとん。
そう、これからが肝心。
これで、いい仕事した!って満足して、ほやほや気をぬいたら、おひさまの下でおふとんにころんってしたくなる。
だから、気をぬくことなく、油断せず、…………あれ?
「……えっと、なんだっけ。あ、そだ、ここのえ、だ。ここにゃーだ」
「………」
きっと顔を上げたところで、俺は屋根に先客がいたことに気がついた。
朔のともだちの、ねこのおじぃちゃん。
ここにゃーは、じっと俺を見つめ、それからのっそり立ち上がって、こっちに来た。
「ここにゃーもひなたぼっこ………って、ああ?!」
俺は悲鳴を上げる。
のそのそ歩いてきたここにゃーは、干したばっかりのおふとんに上がり、そこでころんと転がって丸くなった。
だから、おふとんはおひさまに干すんだってば!!
「ここにゃー、だめだよ!ちょ、起きて、どいて!俺がいっぱいガマンしてるのに、ここにゃーだけ、ずるいでしょ?!」
「…」
とんとんと背中を叩いて叫ぶと、ここにゃーは薄目を開けて、俺を見た。
「ここにゃー、おふとんは干してるの!おひさまでふわふわほかほかにするんだから、寝ちゃだめ!」
「…」
「ひぅう、きいてくれない~っっ」
うるさそうに俺を見つめていたここにゃーは、ふいと顔を落すと、そのまま、また寝る姿勢。
そりゃ、ねこはあったかいの好きだし、ふわふわも好きだし、屋根に先にいたのはここにゃーだけど!
今日こそ、きょうこそ、朔にふわふわほかほかのおひさまおふとんを上げようと思ってたのに………っ。
「っ、わかった!ここにゃー、だったら、俺の膝、貸して上げる!ここにゃーが寝たいだけ寝てていいから、おふとんから下りて、俺の膝に来て!」
俺は屋根にぽすんと座り、ぽしぽしと膝を叩いた。
「俺の膝に来たら、耳かきかきもしたげるし、首なでなでもいっぱいしたげる!」
ここにゃーはうっそりと顔を上げて、俺を見た。その目が、真意を図るように鋭い光を宿して、俺を見つめる。
「おねがい、ここにゃー」
「…」
その目をちゃんと見返して真剣にお願いすると、ここにゃーは面倒くさそうに耳を掻いた。
それでも、懸命に見つめる。
ややしてここにゃーはのっそりと起き上がると、のしのし歩いてきて俺の膝に乗った。
おひさまでぽかぽかにあっためられた体が、ころんと転がって丸くなる。
「ありがとう、ここにゃー!!」
「…」
ぎゅっと抱きしめると、ここにゃーはぱったんとしっぽを揺らした。ぺんぺんと叩かれて、俺は笑う。
「ん。約束したもんね。耳かきかきも、首なでなでも、いっぱいしたげる!」
「…」
胡乱そうに見るここにゃーの耳を、俺はかきかきする。朔が俺の耳をかきかきしてくれるときみたいに。
朔にかきかきされると気持ちよくて、体がほややーんって、とろけちゃう。もっといっぱいしてほしくって、うずうずしちゃって、思わず頭を押しつけちゃって。
『十六夜はほんとうに耳が弱いな』
笑って、朔は俺の気が済むまで耳を掻いてくれる。
「ん………」
耳がぴくぴくして、しっぽがぱったんぱったん揺れた。
思い出しただけも、うっとりとろんて、とろけちゃう………なんて。
「ふゃや……」
ここにゃーの耳をかきかきして、首をなでなでして――
ほかほかおひさまにあっためられて、思い出しうっとりして……………………
「こなたは屋根で昼寝することが、病み付きにでもなったのか?」
「ひぁあ?!!」
降って来た声に、俺はがばっと身を起こした。
朔が傍らにしゃがみこんで、おもしろそうに俺を覗きこんでいる。
おひさまは西の空で、世界を茜に染めていた。
って、ちょっと待って。
体の下に、ふわふわ…の…感触……が…………!
「しかも今日は寝友までいるしな」
「ぅぁああああ…………!!」
ほかほかうっとりで眠くなった俺は、欲求を抑えられなくなって、ここにゃーを抱いたまんま、おふとんに転がってしまった、らしい。
俺がばたばたしたせいで目を開いたここにゃーは、大きなあくびを漏らして、かりかりと首を掻いた。
「まあ確かに、ここで寝るのは気持ちよさそうだ」
「ごごご、誤解、ゴカイだよ、朔ぅうううう………っ」
屋根におふとん敷いておひるね、が病み付きになったわけじゃない。
そうじゃなくて、今日こそ、きょぉこそは、おひさまおふとん、ふわふわほかほかのおふとんで、朔を眠らせて上げようと思って………!
がっくりうなだれた俺の耳を、朔がかりかりと掻いてくれた。
「ふぁあ……っ」
「よしよし」
とたんにうっとりして頭を突き出した俺に、朔は笑って耳を掻き続けてくれた。