かな帳は、ぜんぶ読んだ。
いろはにほへと、ぜんぶ空で言えるし、書ける。
だから今度はぜったい、だいじょうぶ!!
新挑戦
「……………………期待しているところ悪いんだが、十六夜」
「うん!」
座敷に正座して相対した俺から、朔は微妙に目線を逸らす。
「敬老の日をそこまで楽しみにされるのもどうかと思いつつ、とりあえずそこらへんの葛藤は脇に除けてだな。今年は俺も反省してな……………某『た』が頻発する手作り券は止めたんだ」
「ええ?!!」
俺は目を見開いて、朔を見つめる。
朔は目を逸らしたまま。
「いや、この間な……………こなたが泣きじゃくりながら、『た』を連発しているのを聞いていて……………いくらなんでも、俺もこう…………胸が痛く」
「そんな……!!」
俺が至らないせいで、朔の胸を痛くしちゃったの?!
そうでなくてもお掃除くらいしかできない、だめ式神の俺なのに、せっかく贈り物を呉れた主の心を痛めちゃったなんて…………!!
俺の耳がへちゃんと寝て、しっぽがしおしお、おしりの下へ。
「ぅ………っふぇっ」
「待て十六夜!!泣くな!!泣いてもいいが泣くな!!ひとの話は最後まで聞け!」
「ぅ………っっ」
な、泣いていいの?だめなの?
えっと、泣いてもいいんだよね。でも、泣いちゃだめなんだよね。
ええとつまり、泣きながら泣かなければいいの??
涙をこぼす寸前で止まる俺に、朔は折りたたんだ一枚の和紙を差しだした。
「今年はこれだ。……………ある意味これも、敬老の日らしい贈り物だ」
「ん……っ」
受け取って、首を傾げる。
「これ………」
「日頃の感謝を綴った手紙だ。…………こなた、ずいぶん、字を練習していただろう。だから贈るなら、手紙くらい長い文章でもいいだろうと思ってな」
「てがみ………!!」
さ、朔から手紙……!!お手紙もらった………?!
それも、感謝のお手紙!!
瞳を潤ませる涙の意味が変わって、俺は和紙をぎゅっと抱きしめた。
あ、まずい。しわくちゃになる。
「あ、あわわっ」
「落ち着け」
「うんっでもっ!!」
どうしよう、すごくうれしい!!
しっぽがばたばたぶんぶん、千切れるくらいに揺れてしまう。
字がいっぱい読めるようになったってことを、朔がきちんとわかってくれて、それに合わせて贈り物してくれて。
うるうるきらきらして、和紙に目を落とす。ていねいに開いた。
「ええっと………………ええと……………?…………???」
たぶん、これって、字だよね…………字で、かなで……………。
「十六夜?」
「朔、ひとついいかしら」
首を傾げる朔に、通りがかった上弦が、声を掛けていく。
「達筆過ぎるのよ!!お札書いてるときとおんなじ要領で書いたら、初心者にはなにが書いてあるか読めないわ!!楷書で書きなさいよ!!」