きつねとうさぎ-01
「はあっ、はあっ、はあっ」
全力疾走も、もう五分になる。
師匠にあれほどしつこく、「気をつけろ」って言われてたのに、藪も森もない、だだっ広い野原のまんまん中に来てしまった自分の迂闊さを呪うけど、今更手遅れ。
ていうか、迂闊さを呪うとか悠長なことしている間に、少しでも距離を稼いで、なんとか逃げ切らないと!
「ひゃはっ、いらっしゃーい、うさーぎちゃんっ」
「っっ!!」
目の前に銀色の狐が飛び出してきて、ぼくは慌ててUターン。からだを目いっぱい捻って、本来あり得ない方向へジャンプ。
「ひはっ、逃げられたよー、たがねー」
「逃げられたねー、はがねー。ひははっ」
二匹の狐が明るく笑う。
ぼくにとっては命がけのレースも、彼らにとっては遊びの延長戦なのか。
悔しさと敗北感に涙が滲んだけど、だから、泣いてる場合じゃないんだってば!
なんとか逃げ切って、師匠のとこに帰らないと。
ここでおいしく食べられちゃったりしたら、あのやさしい師匠がどんなに哀しむか知れない。
ぼくは、ぼくだけはずっと師匠の傍にいて、あのひとを慰めてあげるんだって、決めたんだから!
だから、ジャンプ、ジャンプ、ジャンプ!
――卯の花、おまえは弱い兎だ。戦闘力はない。だが、足腰のバネはピカイチだ。襲われたらとにかく逃げろ。余所見もせず、まっしぐらに。おまえが無心に走り抜ければ、敵うものは決していないから。
師匠の教えはシンプルだ。
兎であるぼくは戦おうとするな。逃げろ。立ち向かうな。背中を見せることを恐れるな。一目散に、一心不乱に、駆け抜けろ!
ぼくはその教えだけを胸に、ジャンプをくり返す。地面を蹴って、蹴って、蹴って。
「たがねー、疲れたー」
「俺もー、はがねー」
疲れた?!じゃあ、あともうちょっと頑張れば振り切れるかも!
ぼくの心に、油断が生まれなかったといえば嘘だ。ぼくだって全力疾走を続けて疲れていたんだから。
ぼくはよせばいいのに、ちょっとだけ後ろを振り返った。
師匠が言ってたのに。
余所見をせず、まっしぐらに駆けろって。
「「だけど、オナカ空いてるんだもんねー!」」
二匹の狐の声が揃った瞬間。
ぼくが振り返って、わずかにスピードが緩んだ、その一瞬。
狐の一匹が跳躍し、ぼくの前方へ。
わずかに着地点は及ばなかったけど、ぼくはびびってブレーキをかけ、方向転換。した先に、もう一匹の狐が。
もう一度方向転換。した先にまたも回りこんで狐!
「チェックメイトさ、うさぎちゃん」
「手詰まりだよ、うさぎちゃん」
鋭い爪の光る前足がぼくの首根っこを押さえこんだ。一拍遅れて、背中にもずん、と衝撃。もう一匹の狐にも、押さえこまれたらしい。
「ひはーっ、ひさびさの新鮮ごはーんーっ」
「ひゃはーっ、ひさびさのごちそうーっ」
二匹の狐は揃ってうれしそうに叫び、じたばたもがくぼくをくんかくんか嗅いだ。
生臭い肉食獣のにおいが――におい、が?あ…あれ?
「ねえねえ、たがね?」
「うんうん、はがね?」
二匹の狐は、しつこいくらいにぼくのにおいを嗅ぐ。
ぼくもくんくん、鼻を鳴らす。
ええっと、なに?なにこれ?これなに?!
「「このうさーぎちゃん、すっごくいいにおいじゃない?」」
この狐たちのにおい、すっごく頭がくらくら眩むんだけど?!
声を揃えて言って、狐たちはぼくから顔を離した。そのからだがするすると『解け』て、人の形を取る。
金色のかかった銀色の長い髪。
糸のように細い瞳の色も、金色のかかった銀色。
抜けるように白い肌――その均整のとれた肉体を包む、布を巻いただけのような独特の衣裳も金色のかかった銀色。
ああ、やっぱり、――この狐たちってぼくの仲間だ。
月から地球に落ちてきた、一族の生き残り。
年が若そうだから、月から落ちてきてから、地球で生まれた仲間なのかも。
もしかすると、自分たちが『月の一族』だってことも知らない、哀れな孤児なのかも。
だって、もし自分たちが一族だって知ってたら、ぼくのこと食べようとするはずないんだもの。
鋭い爪が引っこんだ代わりに、長い指がぼくのからだをがっしり押さえこんでいて、相変わらず逃げられる要素がない。
ぼくはすんすん鼻を鳴らして嗚咽を噛み殺した。
師匠、師匠、ごめんなさい。仲間がぼくを食べたなんて知ったら、師匠はきっととっても哀しいよね。同胞殺しは師匠のもっとも厭うところなのに。
でもこの狐たち、ぼくのこと食べる気まんまんで。
「ちょっと、うさぎ。おまえ、『一族』でしょ?」
「『一族』だったら、『共通語』になれるでしょ、うさぎ?」
?!
ぼくの胴体と首根っこをがっしり押さえた手が、ぎゅうぎゅうと締めつけてくる。
「「ほら早く、『変体』しろ!」」
「っっ」
締めつけられたままぐらぐら揺さぶられて、ぼくは慌ててからだを『解い』た。
一族の『共通語』である人の形を取ると、まったく同じ顔の二匹の狐は、相変わらずの油断ならない目つきでぼくのにおいを嗅いだ。
「やっぱりいいにおいだねえ、たがね」
「たまんないにおいだよねえ、はがね」
狐の姿だから見分けがつかないほどそっくりなのかと思っていたのに、二匹は人の形になってもまったく同じ顔かたちだ。
そのうえ、声もそっくり同じ。
だから、
「「こんなにおいしそうなにおい、嗅いだことないねえ!」」
「っっ!!」
言ってることが揃うと、こわさ倍増!
っていうか、ぼくのこと一族だって、仲間だってわかってるのに、食べる気まんまんってどういうこと?!
問いただしたい気持ちはあるけれど、捕食者に押さえつけられてるっていうこの状況がぼくの声帯を閉じてしまっている。口は意味もなくぱくぱく開閉するだけ。
心臓はさっきから壊れそうなくらいにばっくばっく鳴っている。
そういえば、師匠が言ってた。
ぼくたち兎は、捕食者に捕まって、もう逃げられないって思ったら、心臓に毒が排出されて勝手に死んじゃうって。痛い思いをする前に、一息にって。
だから追いつめられるなよ。助ける間もなく死なれたら、寝覚めが悪いだろ――って。
「あー、このにおい。我慢できない」
「我慢なんてしなくていいじゃん?」
「そうだよね、食べちゃっていいよね」
「いいよいいよ、食べちゃおう」
二匹の狐が、まったく同じ顔で、同じ表情で、にったりと邪悪に笑った。
「「だって俺たち、はらぺこなんだもん!」」
「っっ」
抵抗できないからだがぐるんとひっくり返され、仰向けにされる。鋭い牙の覗く口が、両方向からぼくの顔に迫る。
ああ、頭っからかじられるなんてあんまりにも痛そうだ。頼むから牙が届く前に、ぼくの心臓止まって。
でもでも、どうしよう。この狐たちのにおいったら、どういうわけかぼくから恐怖心を薄れさせてしまうんだ。
頭がくらくら眩んで、心臓が別の意味でばくばくして。
ん?別の意味?って、どんな意味?
「「「っっ!」」」
狐たちのくちびるがぼくのくちびるに触れた瞬間、頭の中がスパーク。お星様がきらきら走り回って、指の先っちょまでじいんと痺れた
なんだろう、本格的に頭に霞みがかってきた。これが毒が効いてきたってこと?なんか、あんまりゆっくりなんだけど。
「んー」
「んんー」
狐たちがべろべろとぼくのくちびるを舐める。そんなとこ味見したってしょうがないと思うのに。
息苦しくて口を開くと、ふたつの舌が侵入りこんできた。
「ん、んんっ、かはっ」
舌といっしょに二匹の唾液もたっぷり流れこんでくる。
肉食獣らしく生臭いはずのその唾液が、やたら芳しくて癖になる。もっとちょうだいっておねだりしたくなるような。
二匹は最初、浅いところをさまようだけだったのだけど、かたっぽずつ交互にぼくをやり取りして、口の中の深いところまで舌で舐めまわした。
ぼくのじゃない軟体動物が粘膜を撫でるたびに、からだがあっつくなって、頭がぼんやり霞んでいく。
「あのさ、たがね?」
「そうだね、はがね?」
二匹はいったんぼくから顔を離し、唾液で汚れたくちびるをべろりと舐めた。
酸欠でぐったりして自分ではもう起き上がれないぼくのからだの下に手を入れ、起き上がらせる。
たがねの手が、ぼくの下半身に――え、あれ?どうして?
さっきまで見分けがつかなかった、まるでそっくり同じ姿の二匹が、今ははっきり区別できる。
だからって言って、どっちがどっちっていう特徴がわかったっていうんじゃない。
だって二匹は工場量産品とでもいうようにまるきり同じ姿なんだもの。
でも、こっち、ぼくの左側にいるのがたがねで、右側にいるのがはがねなんだって。
確信を持って、わかる、?!
「ひゃぁっ?!」
たがねの手が、ぼくの下半身、小さくても男なんだよって主張する器官を、衣裳の上から無遠慮に掴んだ。
さらに背後から回ったはがねの手が、薄っぺらいお尻の肉を掴む。
「男だね、たがね」
「間違いないね、はがね」
うんうんと頷きあいながら、二匹は掴んだ場所をちょっと痛いくらいの力で揉んだ。
そう、ぼくは痛い――はず、なのに。
「ゃ、やぁ、ふぁあん、ぁんっ」
二匹の手から電流でも流れてるみたいにぴりぴり痺れて、下半身が燃えるみたいに疼く。
ぼくの口から零れる甲高い悲鳴は、まるで悦んでるみたいだった。
たがねの手が衣裳の中に入りこみ、直接触れる。
小さいぼくの器官は、たがねの掌にやすやすと収まった。おしっこの出るところを強く押されて、指が侵入でも試みているみたい。
っていうか、痛い!
「いた、いたいぃ、よぉ」
「でも、おっきくなってる」
「お汁も零れてきてる」
悲鳴を上げたはずなのに、ぼくの声は甘ったるかった。すごく痛いのに、言われているとおりにぼくの器官はどんどん大きくなってしまう。
「これ、気持ちいいって言うんじゃないの、うさぎ」
「うさぎは痛いのが好きなんだねえ」
「ひぃいんっ」
好きじゃないもん!
今まで痛いことされて、気持ちよくなったことなんてない!
ないのに、なんで。なんで、こんなに気持ちよくって。
「じゃあ、これも好きだよね」
「きっと好きだよ」
二匹で納得して、今度ははがねの指が衣裳の中に入りこんだ。
お尻の穴をつんつんってつついたかと思うと、ぐいぐい、強引に割り入ってくる。
「いやぁ、いたいぃっ」
ほんとに、ほんとに痛いんだ。
入ったのは、繊細なつくりのはがねの指一本だってわかるんだけど、本来の役目とは関係なく無理やり拓いていってるからとにかく痛い。
おなかの中が、きゅうって縮んだ。
なのに。
「あ、ほら。やっぱりおっきくなった」
「びっくんびっくんしてる」
二匹は喜色満面に報告してくれる。
そうなんだ。痛いのに。すっごく、痛いのに。
なんでか全部、気持ちいい、に変わっちゃうんだよぉ。
からだじゅう、どこもかしこもじぃんって痺れて、あつくって。とろんとろんに蕩けてしまいそうなくらい、気持ちいい。
「ふぁあん、ぁあんっ」
泣いてるときみたいに声が上がる。
どうしよう、口が寂しい。さっきみたいに、味見してくれないかなって考えちゃう。
べろと唾液で、いっぱいにしてほしい。
「あー、なにこれ。うさぎすっごいにおいになってきた」
「ほんと、におい強くなった。堪んない」
たがねが唸り、はがねが胸に鼻を近づけてくんくん嗅ぐ。
濡れ濡れと赤い舌を出して、衣裳の隙間から覗く肌をべろりと舐めた。ちゅうちゅうと吸いながら衣裳をはだけていき、平たい胸をあらわにしていく。
「すっご、赤」
感激したようにつぶやいて、ちっちゃい乳首に吸いついてきた。
ぼくは男なんだからお乳なんて出ないのに、ちゅうちゅう吸われて、硬くしこったところをころころと舌で転がされる。
「ぁんんっ、ゃあんん」
さっきまでは痛いばっかりだったけど、これはむず痒いくらい純粋に気持ちいい。
たがねの手は相変わらず力いっぱいぼくを掴んでいるし、はがねの指は突っこまれたままなんだけど、全部全部、頭が変になりそうなくらいの『気持ちいい』に変換されてしまう。
「もうだめ。我慢できない」
たがねがつぶやいて、ぼくを支えていた手を離した。
ぼくひとりでは起き上がっていられないからだは、たがねの膝の上に落ちる。
「ほら、口開けて、うさぎ」
「ふにゅぅ?」
目の前に赤黒いものが現れたと思ったら、口の中に突っこまれた。
「歯ぁ立てたらすっごく痛い目見せるからね、うさぎ」
「んんんぅっ」
口の中いっぱいで苦しいそれを吐き出せないかと格闘していたら、たがねが耳を引っ張って警告してきた。
今までだって結構痛い目見せられたと思うのに、これ以上って。
「んふ、んにゅ」
自由にならないからだを懸命に捻って、ぼくはどうにか息が詰まらないように体勢を整える。
「ちゃんとしゃぶるの。舌使って。吸ってもいいし」
たがねは空いた手でぼくの頭を掴んで高飛車に命令してくる。
ぼくは頑張って言うとおりにしつつ、口に含んだものの正体を探って、首を傾げた。
なんで、たがねはぼくの口に自分のオスの証を突っこんでるの?
ぼくは肉食じゃないんだから、たがねを食べたりしない。味見なんて必要ないのに。
「あー。気持ちい」
うっとりした声で言われて、背筋が震えた。ぼくまで気持ちよくなる。
「えー。ずるい、たがね。俺も気持ちよくなりたいー」
お尻と胸を弄りながら、はがねが拗ねた口調で訴えた。
ぼくの背筋がまた震える。
はがねのことも、気持ちよくしたい。
そんな欲求が――ええ?!なんで、そんな欲求が?!
「ずるくないよぉ。はがねはそっちにいれたらいいんだよ。そしたら気持ちよくなるから」
困惑しているぼくをよそに、たがねは上擦った声ではがねを気遣う。
「うさぎ痛いの好きだし、もういれちゃって大丈夫だよ。はがねも気持ちよくなろ」
「そうだよねー。うさぎ平気だよねー。あ、でも一応、たがね避難しといて。噛むなって言っても聞けないかもだし」
「了解だよん。ちょっと待って」
二匹で勝手に話を進めて、たがねはぼくの頭をぐい、と上に持ち上げた。太く硬くなったオスの証がずるずると出て行く。
入っていると息苦しいんだけど、なくなるとまた口寂しい感じで物足らない。
「ぃやぁ」
思わずねだるように不満の声を漏らしたぼくの口を、たがねの舌がべろりと舐めた。
「またすぐあげるって。――はがねぇ、いいよぉ」
「ありがと、たがね」
不自然に捻っていたからだがひっくり返され、完全にうつぶせになる。
はがねは地面につぶれがちなぼくの腰を高く掲げた。
ぴた、となにかがお尻の穴に当てられ。
「ゃああああ?!」
完全に、悲鳴が零れた。
さっきまでの指より、ずっと太くて硬いものが、解されもしていない粘膜を切り拓いて侵入してくる。
脳が焼ききれそうな痛みに襲われ、全身から脂汗が吹き出た。
「うわ、きっつ。いたたた」
はがねが呻くけれど、ぼくははがねよりずっと痛い!
「ゃあああ、ぬいてぇっ、いたいぃっ」
涙を零して嘆願する。
さっきまでの、痛いけど気持ちいい、のレベルじゃない。これはほんとに痛いだけ。
なのに、二匹ときたら。
「ああもう、きっついなあ」
はがねは呻きながら、ぼくの下半身に手を回した。痛みで萎縮したものを掴むと、やさしくしごき上げる。
「はがねぇ、全部入りそう?」
たがねはのんびり訊きながら、ぼくの胸に手を伸ばす。ぺったんこの乳首をつまむと、くにくにと弄んだ。
下半身と上半身の気持ちいいところを同時に攻められて、ぼくのからだがわずかに弛緩した。
それを見計らって、はがねは最後まで押し入る。
「入ったー」
満足そうに言う。
少し上擦って気持ちよさを堪えている声を聞いて、ぼくの頭がくらりと震えた。強張りがするすると解けていき、はがねの形になろうと粘膜が蠢く。
はがねがもっと気持ちよくなるように。もっともっと、快感に溺れるように。
「ひは。やっぱうさぎ、痛くても平気なんだ」
まったくの誤解なんだけど、はがねはうれしそうに笑う。奥まで突っこんだまま、腰をゆらりと揺さぶった。
「ぁあぅっ」
少し解けただけの粘膜はまだはがねの形になりきれておらず、擦られると落雷のような痛みが走る。
それでも、ぼくの口から漏れたのは甘い悲鳴だった。
たがねが口を裂いて笑う。
「ほんと、痛いの好きなんだね、うさぎ」
「ちが、んんっ」
否定しようとした口に、たがねのものが再び突っこまれた。咽喉の奥まで入れられて、軽くえづく。
「歯ぁ立てたらひどいよ。わかってるよね、うさぎ?」
「んふぅううっ」
「そうそう、たがねに傷つけたら俺も怒るよ、うさぎ?」
「ふぅううんっ」
下から突き上げられて、上から押しこまれて。痛みと気持ちよさと息苦しさがごちゃまぜになって、ぼくの脳は一本突き抜けてしまった。
気がつくと、ぼくは腰を振りたてながら頭も激しく上下させ、たがねとはがねを追い上げることに積極的に動いていた。
「ぁあ、きもちい、うさぎ」
「たまんない、うさぎ」
たがねとはがねがうわごとのように零す。二匹も腰を振り、ぼくを激しく攻め立てる。
「「あー、もう、イくっ」」
「っっ」
二匹が同時に叫び、ぼくの口とおなかの中に液体が撒き散らされた。
そのあつさを、その味を感じた瞬間、内臓がぎゅうっと絞られ、背筋になんとも言えない感覚が駆け上がり、ぼくもまた精を放っていた。
「んっ、かはっ、けほっ」
たがねのものを口から抜き取り、ぼくは懸命に息を整える。
口じゅう全部、たがねの放った液体で満遍なく汚れた。
汚れたと思うのに、それを無駄にこぼしてしまうことがとんでもなくもったいなくも思える。
ぼくは息を整えながら、痺れたように重い手を伸ばして、零れていこうとする液体を受け止め、舐め啜った。
「あー、気持ちよかった」
はがねがつぶやきながら抜けていく。
痛くて早く抜いてほしかったのに、いざ抜けると物寂しい。
なんで、こんな。痛いのなんて、ほんとにいやなのに、もう一度埋めてほしいとか。
自分の思考に戸惑いながらはがねを見つめていると、彼は口を裂いて邪悪に笑った。
「じゃあ、次はたがねの番」
――?!
「じゃあ、次ははがねが上ね」
通じ合っている二匹は勝手に納得して、凝固するぼくを置き、場所を交換した。
たがねがぼくの腰を抱え上げる。はがねが撒き散らしたもので濡れそぼったそこに、達したばかりのはずのオスがあてがわれて。
「うそ?」
「俺が拡げたから、今度はすんなりいくんじゃないかなあ」
はがねがのんびり言いながら、ぼくの頭を抱える。
持ち上げて目線を合わせると、糸のような目をますます細めて、怯えと期待に揺れるぼくの瞳を舐めた。
「ほんと、なんておいしいうさぎなんだろ。堪んないよ」
***
意識を失って倒れるまでに、何度精を放って、何度精を受け止めたか知れない。
もはやなにがなんなのかわからなくなっているぼくの頭に、たがねとはがねの笑い声がこだまする。
「ねえねえ、たがね?」
「うんうん、はがね」
「このうさぎって、すっごく弱っちいから」
「一匹でいたら、間違いなく誰かに食べられちゃうね」
「「こんなにおいしいうさぎだもの!」」
たがねとはがねの鼻面が、ぼくの肌を撫でる感触がする。
意識が混濁していても、そんな些細な刺激にすら、ぼくのからだは粟立った。
「じゃあさ、たがね。ここはやっぱり」
「そうだね、はがね。だれかに奪われるなんて真っ平ごめん」
「「こんなにおいしいうさぎなんだから、俺たちが守ってあげなくちゃ」」
――あれ、今なんか、すごく変なセリフ聞いた…。
ゆらりと意識が浮上して、ぼくは薄目を開けた。
たがねとはがねが牙を剥き出して笑っている。心底から楽しそうだ。
ぼくが意識を取り戻したと見るや、ぐったりと力の入らないからだが抱え起こされた。
「さあ、うさぎ?」
「きりきり吐くんだよ、うさぎ?」
「「おまえ、名前はなに?」」
ぼくは答えようとして、ちょっと噎せた。咽喉が痛い。
「――卯の花」
掠れた声で、なんとかつぶやく。
師匠がつけてくれた、大好きなぼくの名前。
たがねとはがねの細い目が、ますます細くなった。
「「卯の花」」
ぼくの背筋が震えた。
うっとりとつぶやかれた名前が、これほど気持ちよく響くなんて!
「俺ははがね」
「俺はたがね」
「うん…」
頷くと、両側から耳を引っ張られた。
「「呼べ」」
咽喉が痛くて、しゃべるの大変なのに!
ぼくはもう一回噎せて、それから掠れ声を振り絞る。
「はがね…たがね」
呼ぶと、極上の笑顔が返ってきた。ぼくの胸がばっくんと跳ねる。
二匹はぼくの顔に鼻面を押しつけると、よだれやら何やらで汚れたぼくのほっぺたを、べろんと舐めた。
「「これからは俺たちのものだぞ、卯の花」」
そして、くちびるに舌が押しこまれる。
交互に激しく探られて、ぼくの朦朧とした意識はまたもや途切れた。