きつねうさぎ-02

今から何十年か前のこと。

月に異変が起こった。

その当時のことを覚えている一族は、「月が中表になった」っていう言い方をする。

どういう意味なのか、覚えていないぼくにはわからない。

こと説明のうまい師匠でも、このことをうまく説明できない。

ただ、なにもかもがひっくり返った、と。

異変によって月に棲めなくなった一族は、地球へと逃れた。

ただし、逃れられたのは一部の子供だけ。

多くの子供が逃れきれずに異変の中で死に、大人や老人は言うに及ばず。

そして、地球に逃れた子供たちも多くが死んだ。

理由は、先住民である人間による迫害。

知恵ある種族として地球の覇権を握っていた人間は、同じく知恵ある生き物である、ぼくたち月の一族を有害な敵と見なしたのだ。

理由はいろいろあると師匠は言う。

たとえばぼくら月の一族は本来、獣の姿で、獣として暮らす。

ただ、他種族と交流したりするときだけ、『共通語』と呼ぶ『人型』に変体する。

この変体する、というのは、地球では魑魅魍魎と呼ばれる、人間の敵である種族だけの話だったらしいのだ。

獣の姿でありながら、人間と同じ言語をしゃべるというのも、魑魅魍魎の特徴で。

さらに言えば、千年という長寿命も魑魅魍魎の…――。

ぼくたちは、とっくの昔に滅びたはずの魑魅魍魎の再来として恐れられたのだ。

空も風も水も、なにもかもが違う異界で、ちりぢりにならざるを得なかった子供たちは、次々と死んでいった。

師匠も弟を亡くしている。

そのときは、師匠だってずいぶん幼かったんだから仕方ないと思うんだけど、師匠は弟を守りきれなかった自分のことを未だにすごく責めている。

ぼくからするとちょっと、自分に厳しすぎる師匠は後悔を、一族の保護にかけている。

一族の多くは人間を避けて、最底辺のレベルで、荒んだ生活を送っている。

そんな一族に人間への擬態を教え、職業を斡旋して金銭を稼がせ、生活レベルの向上を目指すのが師匠の仕事のひとつだ。

だいたいの一族が長年の荒んだ環境のせいで、知恵の輪もびっくりの複雑怪奇なひねくれ者になっているから、師匠の仕事は並大抵の根性ではできない。

ぼくもまた、師匠に救われたひとりだ。

救われた当初はやっぱりかなりひねくれてて、恩人である師匠に辛く当たったりした。

やさしさや忍耐を試すようなことはしょっちゅうだったし、裏切ることも当たり前。

今となっては燃やして消したい過去だ。

師匠は愛情深く接してくれて、決してぼくを見捨てないでくれた。

師匠の愛情に応えたい。

そう思って。

師匠の傷を癒したい。

そう願って。

ぼくは師匠の傍で、師匠を手伝いながら、素直にまっすぐ生きることを選んだんだ。

けど。

***

どうしたらいいんだろう。

ぼくは困惑しきって、寝ていたベッドから動けずに座りこんでいる。

目を覚ましたぼくは、野っぱらから一転、どこかの部屋にいた。それも素っ裸で。

打ちっぱなしのコンクリの壁と床という寒々しい内装からして、造りかけか廃棄されたかのどっちかのビルだと思うんだけど。

だれかが暮らしている証拠に、ぼくが寝かされていたベッドのほかに、ソファやテーブル、簡易キッチンに冷蔵庫まである。

そのどれもが古びてはいるんだけど、きちんと手入れがされて清潔。ベッドのシーツだって、きちんと洗濯されている感触だ。

――残り香から言うと、あの二匹の狐の家なんだけど。

なんで、ぼくがそこに連れこまれているのかとか。二匹がどこにいるのかとか。

まるでわからない。

っていうか。

「ふぇえ…」

どうしよう。

さっきから、おトイレ行きたいんだけど!

布団があるっていっても、素っ裸にされていたせいか、もう、さっきから、むずむずと!

しかも、おトイレを探そうにも、ぼく、立てないんだ。っていうか、こうして座っているけど、実は起き上がっているのがすっごくしんどい。

からだじゅう痛いし、だるいし、重いし。

這って移動しようかと思ったけど、とても自分のからだを引っ張れる気がしなかった。

でも、おトイレ行きたい。

――そもそもおトイレなんかあるのか、それもわかんないんだけど。

「たがねぇ…はがねぇ…」

心細さに、思わず二匹の名前をつぶやいた。それで現れたらびっくりなんだけど。

「呼ばれてー」

「飛び出るー」

「「じゃんじゃじゃーんっ!!」」

「――っ」

現れたから、びっくりだよ。

たがねとはがねは特大サイズの紙袋をそれぞれ二つずつ抱えて、扉のひとつを蹴破って現れた。

ふたりとも一族の衣裳ではなく、人間の格好。

といっても、まったく同じジーンズとシャツを着て、同じマフラー。長い髪はお揃いで、結ぶでもなくだらっと垂らしている。

そうじゃなくても同じ背格好で見分けがつかないというのに、服もまったく同じとか。

ひとに見分けをつけさせようという気皆無。

でもどういうわけか、どっちがたがねで、どっちがはがねかわかるんだけど。

「「卯の花ただいまーっ」」

テーブルに紙袋を放り出し、二匹は風のようにぼくのいるベッドサイドにやって来た。

「よしよし、いい子にしてたね」

「お留守番できてえらいえらい」

口々にぼくを褒め(?)ながら、髪を撫で、キスの雨を降らせる。

正直、からだを揺さぶられるとあちこち痛くてしんどいんだけど。

っていうか、それ以前に。

「は、はがね…、たがね…っ、…お、おトイレいきたい…っ」

「――たがね」

「――うん、はがね」

「「今すぐに!!」」

絶え絶えに叫んだぼくは、はがねに軽々と抱き上げられた。

確かに肉食獣の二匹に比べるとぼくは小さいし細いんだけど、それにしても羽のように軽々と。

たがねが風のように部屋を横切り、さっき蹴破ったのとは別の扉を開いた。ジャストタイミングで、ぼくを抱えたはがねが扉の中にすべるように入る。

なんと、トイレとバスがあった。

ここも清潔にされていて、いやなにおいとかカビ汚れなんかはない。意外にマメなようだ。

「はい、してして」

「――うそ?」

はがねはぼくを便器に座らせず、たがねもいっしょになって両脇を抱え、器用に立たせた。

二匹しておしっこが溜まっているぼくの性器を掴んで、便器に向かわせる。

って、ちょっと待って?!

「あの、ちょっと、なに」

「ほら、はやくはやく」

はがねが全然平静な声で急かす。

けど!

「座らせてくれたら、自分で」

「大丈夫だいじょうぶ」

「重くないおもくない」

違うったら!!

たがねとはがねの手が熱い。裸のからだに長い髪の毛がさわさわ触れて、くすぐったい。

そう、たがねもはがねも全然そんなつもりじゃないってわかってても、ぼくが変なふうに反応してしまう。

だって、こんなところをたがねとはがねに触られると。

ただ持たれてるだけなのに、ぴりぴりと雷でも走っているみたいに痺れて、熱くなってきてしまうんだ。

それに、こんなふうに見られながらおしっこをするなんて。

確かにぼくだって男だから、公衆便所なんかでは並んでやるよそのときに、隣に人がいるなんて恥ずかしいやだ、とか考えたりしない。

でも、この状況は。

後ろから抱えこまれて、肝心の場所を持たれて、じっと凝視されてなんて。

なんの罰ゲームでこんな。

「ほら、我慢すると病気になるよ」

「病気になんかなったりしたら、泣くよ?」

「ひぁ」

たがねが耳を齧り、はがねが首に軽く牙を立てた。

背筋が粟立つような快感が走り抜けて、緊張に固まっていたからだが一瞬、弛緩する。

溜まりに溜まっていた尿意を堪えられなくなるのに、その一瞬は十分だった。

「――ひぁあん…っぁあ、ふぁああ………っ」

たがねとはがねに持たれたまま、ぼくは勢いよく漏らした。

我慢しようにも、一度出だしたものは止まらない。

ただおしっこをしている、というのとは明らかに違う種類の、ぞくぞくとした悪寒に襲われ、ぼくは感覚だけの軽い絶頂を迎えていた。

最後まで放ったからだが、ぐにゃりと弛緩する。

二重の意味で力が抜けた…。

「終わった?」

「終わったおわった」

たがねもはがねもどこまでもふつうに、出すものを出して弛緩したぼくのからだを支えている。

交互にぼくを抱えて手を洗うと、今度はたがねがぼくを抱えあげてソファに運んだ。

すとん、と座らされたぼくの剥き出しのお尻に、ソファのごわっとした布地の感触。

「――あの、服…」

ぼくの衣裳はどこへ行ったんだろう、とおそるおそる訊く。

あれがないと、兎に戻れない。天女の羽衣っていう話が地球にあるけど、そんな感じで。

獣から人型に変体したときに着ている衣裳は着脱可能なんだけど、脱ぐと獣の姿に戻れなくなってしまう。

地球にいる以上、ほとんどの時間を人型で過ごすといっても、ぼくたちにとって獣の姿こそが本来の姿。

もし戻れなくなったら、なんて、考えることもおぞましい。

ぼくの両脇に座ったたがねとはがねは、顔を見合わせてにったりと笑った。

「そうそう、服だよね」

「着なきゃ風邪引いちゃうよね」

ご機嫌で言い、テーブルに置いた紙袋のうち二つを逆さにする。どさどさと、カジュアルな服が大量にぶちまけられた。

「まずはシャツシャツ」

「ジーンズにチノパン」

「「なにがいっかなー」」

――えっと、そっちの服じゃなくて、ぼくのあの、金色がかった銀色の…一族の衣裳…。

「――っていうか…下着、は?」

楽しくぼくを着せ替えしようとする二匹の買ってきたものの中に、どうしても下着が見当たらない。

二匹はTシャツやらジーパンやらを持ったまま、すてき笑顔で固まった。

「「――わすれてた…」」

「――ああ…」

まあ、そんなもんだよね…。

だが、ここでめげたりへこんだりしないのが、たがねとはがねだった。

「まあ、下着なんかなくてもだいじょぶだいじょぶ」

「上着着ちゃえばわかんないわかんない」

明るく言い放ち、ぼくに服を着せる。

ちっちゃい子じゃないんだから自分で着られるっていうのに、手取り足取り。

「――ちっともだいじょうぶじゃないよぉ…っ」

直接肌に当たるジーンズの感触は落ち着かない。なんだかやたらすかすかする。

それに今はまだ座っているからいいけど、これ、歩いたら、あそこが相当落ち着かないんじゃ。

「細かいこと気にすると病気になるよ?」

「病気になったら泣くよ?」

言いながら、またもキスの雨。

ソファの両サイドに座ったたがねとはがねは、ぼくを膝の上に乗っけて、髪に額に頬に、くちびるを落とす。

「ふゃ」

なんか、細かいこと気にしなくていいような気がしてきた。

緊張が緩んだのか、ぼくのおなかが、ぐぅう、と鳴る。

ぼくが赤くなるより先に、たがねとはがねは機敏に立ち上がった。

「おなか空いたよね、卯の花」

「ちょっと待ってて、すぐつくるから!」

「えって、ぼく、食べられるものと食べられないものが…」

兎のぼくは、基本的に野菜しか食べられない。できれば煮たり焼いたりしたものじゃなくて、生の野菜。味付けはNGで、肉や魚なんかもだめ。加工食品なんてぜったい食べられないし。

――っていうのを、狐の二匹がわかっているとは思えなかったんだけど。

「だいじょうぶだいじょうぶ」

「兎の食い物なら、ちゃんと訊いてきたから」

訊いた、って、だれに?

しかし訊く暇もなく、たがねとはがねは残りのふたつの袋の中身をテーブルにぶちまけた。

ごろんごろんと転がり出てくる、新鮮な野菜の数々。

にんじん、きゃべつ、菜の花、レタスに…。

二匹は狭い簡易キッチンに並んで立ち、ケンカをすることもなく、お互いに邪魔しあうこともなく、器用に野菜を刻んでいく。

十分もしないで、ぼくの目の前には大きなサラダボウルに山盛りのサラダが出てきた。

香りがいいから、この野菜はすごく新鮮なんだってわかる。

「わあ…!」

思わず歓声が零れた。

街に住んでいてなにが不満って、ぼく本来の食事である新鮮な野菜が食べられないってことだ。

師匠はかなり気を使ってくれて、できるだけ新鮮なものを探してきてくれるんだけど。

たまには摘み立てのものが食べたくて、野っぱらなんかに出かけるのだ。それで今回はこの狐たちに捕まったんだけど。

「かわいいな、卯の花」

「目ぇきらきらしてんよ、卯の花」

たがねとはがねがうれしそうに言い、ぼくの隣に座る。二本用意したフォークを――あれ二本?

疑問に思うぼくの目の前に、たがねが野菜を刺したフォークを突き出す。

「はい、あーん」

「――」

思わず、あーん、と食べた。

次は、はがね。

「はい、あーん」

「――」

またも、あーん、と食べる。

二匹はそんな感じに交互にフォークをぼくの前に差し出し、ぼくは口を開けてひたすら給餌待ち。

なに、この状態?

サラダはおいしかったのだけど、ぼくの頭の中はハテナマークでいっぱいだった。

「もっと食べる?」

「おかわり作るよ?」

サラダボウルを空にすると、二匹は細い目をますます細くして訊く。

ぼくはぷるぷると首を振り、おなかいっぱいだと主張した。

実際、ぼくのおなかはかなりぱんぱんだった。

二匹の勢いに押されて、ついぱくぱく食べちゃったけど、ぼくは本来小食なのだ。

「そ、じゃあ」

「俺たちも食事するね」

言って、二匹はまた身軽に立ち上がり、冷蔵庫から羽をむしっただけの丸のままの鶏肉を――眩暈が。

そうだった、忘れてたけど、たがねもはがねも狐。基本は肉食なんだった。

ぼくを間に挟んで座り、ってすみませんごめんなさい、生肉なんてぼくの目の前に持って来ないでえ!

青褪めるぼくに構わず、さっくさっくと器用にナイフを入れて鶏肉を解体してはフォークで口へ運びながら、たがねとはがねはため息をつく。

「あーあ。肉はやっぱり、つぶしたての新鮮なのが食べたいよねー」

「肉屋で売ってる時点で、かなり時間が経ってるもんねー」

「ましてや冷蔵庫なんかに入れたら一巻の終わりだよ」

「でもさあ、セールのときに買わないと、財布がきついし」

――まあ、肉食と草食の違いはあれ、食に関する悩みは一族共通ってことだ。

人間が食べるために加工したものは、ぼくたち月の一族にとっては鮮度が足らない、風味が足らない。ついでに栄養も足らない、と。

「やっぱり、たまには狩りで補わないとだけど」

「獲物がねえ。どんどん少なくなってるんだよね」

そう言って、二匹は間に挟んだぼくを見た。

って、ぼくを見た?!

「「ほんと、うまそうなにおい…」」

「ひぃい?!」

もしかして、もしかして。

ぼくがここにいるのって、太らせて食べよう作戦?!

「堪んないよね…」

「悲鳴とかもクるよね…」

「…っ」

切ない声で、言ってることがこわすぎる!

身を縮めて震えるぼくに対し、二匹はあくまで切ないため息。さっくさっくと鶏肉を一匹片づけると、食器を流しに放りこんで、ぼくの隣に座った。

「ああ、堪んないにおい」

「ほんと、いいにおい」

「…っ」

鼻面を押しつけられて、くんくん嗅がれて。

肉を食べたばかりの口なんて近づけられたら、気持ち悪さに卒倒してもおかしくないのに。

ぼくの心臓は恐怖に震え上がりながら、意味不明の動悸を刻んでいる。

あの、味見される感触とか。

口の中に、お尻の中に押しこまれた肉棒の感触とか。

なんでこんなに恋しいんだろう。

「我慢できないよね…?」

「しなくていいんじゃない…?」

二匹が両耳に囁き、ぼくの産毛が逆立った。今度こそ、食べられる。

こわいのに、はやく食べてほしいような。

「たがね…はがね…」

震える声で名前を呼ぶと、べろんと舐められた。

「「いっぱい、食べてあげるからね、卯の花」」

残酷なのにやさしい囁きに、頭がふんわり浮いた。

「たべて…っいっぱい…っ」

ぼくは今、ありえないことを口走りました。

食べられたくなんてないったら!

だけど案の定、二匹はこの応えがお気に召したらしい。ご機嫌に口を裂いて笑うと、交互に口づけてきた。

乱暴さも性急さもない、労わられるような、やさしくやわらかいキス。肉の味が残る生臭いキスで、本来なら吐き気を催してるはずなんだけど。

「もっと…」

舌を伸ばして強請るぼくに、二匹は紳士みたいなやさしいキスをくり返した。

たがねとはがねの手が、片一方ではぼくのからだを支え、片一方ではさっき履かせたばかりのジーパンを脱がせる。

剥き出しになった下半身がまさぐられ、はがねの手が壊れものでも扱うみたいに、反応しだしているぼくを握った。

「ちょっと、卯の花。これ舐めて」

「んんぅ…むふ」

キスを止めて、たがねは指をぼくの口に差しこむ。訳もわからないまま、ぼくは丁寧に指を舐めしゃぶった。舌ほどやわらかくも熱くもないそれは、また別の意味でぼくを虜にする。

「ん、いっかな」

手首まで滴るほどに唾液まみれになったところで、たがねは指を抜いた。

「ゃあん」

「はいはい、いい子いい子」

舌を伸ばすぼくに、たがねとはがねはまたキスをくれた。

たがねの濡れそぼった指が下半身に伸び、後ろの窄まりに当てられる。

痛みを思い出して反射的に固まるそこを、たがねはやさしく、だけどしつこく揉んだ。

はがねははがねで前をやわらかく刺激し続けて、ぼくのからだから強張りを解していく。

しばらくそんなふうに愛撫されて、ぼくのからだが弛緩したところで、たがねの指が差し入れられた。ただし、あくまでもゆっくりと、穏やかに。

「ひぁあん」

きゅ、と締めつけたそこを、たがねが無理に拓くことはなかった。キスの雨でぼくが弛緩するのを待って、弛緩したら探って。

くり返されるうちに、ある場所を刺激され、ぼくのからだが大げさに跳ねた。

「ぁあんんっ」

「ここかな、卯の花」

「気持ちいいんでしょ、卯の花」

二匹はうれしそうに口を裂き、わずかに愛撫の手を強くした。

「たがね…ぇ…っ、はがね…ぇ…っ」

頭の中が沸騰する。

こんな、気持ちいいだけなんて。どうしたらいいかわからない。

「イっていいよ、卯の花」

はがねが囁き、耳を齧る。同時に、ぼくを握る手がおしっこをするところを押し開くように動いた。

「ひゃぅううっ」

わずかに感じた痛みが強い快感にすりかわって、ぼくは精を放った。

「あ、もったいな」

たがねがつぶやき、シャツに散った精を舐め啜る。

「えー、たがねずるっ」

はがねがくちびるを尖らせ、濡れた手を舐める。

「ずるくなーい。はがねがずるーい」

「ずるくなーい。たがねがずるーい」

二匹は子供の口調で言い合う。でも本気でケンカをする気なんてないのか、あくまでも軽い調子なんだけど。

「二匹ともずるい…」

「「あれ?」」

ぼくが低い声で割って入り、二匹はきょとんとした。

ぼくはその服を掴んで、引っ張る。

「ぼくもなめたい…」

白く霞む頭でなにを考えたのか、わからない。でもぼくだって、舐めたくって。

たがねとはがねが破顔した。

「もちろん、卯の花」

「卯の花が望むならね」

お尻から指が抜かれ、たがねとはがねがジーパンから自分のものを取り出した。

「「はい、舐めてどうぞ」」

両脇でソファに膝立ちになった二匹のものをいっぺんに差し出されて、ぼくは一瞬惑う。

けれど両手を出してそれぞれを掴むと、片っぽずつ交互に咥えてしゃぶった。

「んん、いい子」

「かわいい、卯の花」

笑い声が降ってきて、たがねとはがねの指がお尻に伸びた。だいぶやわらかくなっている窄まりに、指が二本、差しこまれる。

「結構やわらかいかな?」

「まだまだ、もうちょっと」

二匹が笑いながら中を探る。

気持ちいいポイントをしつこく刺激されて、ぼくは二匹のものを掴んだまま喘いだ。舐めるどころじゃない。頭の中がどうにかなりそう。

「こら、お留守じゃん」

「自分でほしいって言ったんでしょ」

軽く耳をつねられて、ぼくはよだれを垂らしながらたがねとはがねを舐めた。

唾液を伸ばすように手を動かしていくと、二匹のものはびっくりするくらい太くなる。

――これが、お尻の中に入って。

探られているせいだけでなく、ぼくのお尻がむずむずと蠢いた。

痛かったんだけど。ほんとに痛かったんだけど!

「はがねぇ、たがねぇ、…も、…いれて?」

唾液まみれの顔を上げて二匹にお願いすると、まぶたをべろんと舐められた。

「そんなこと言われたら」

「いれちゃうに決まってる」

からだが軽々と抱え上げられて、ぼくはたがねの上に座らされた。お尻の隙間で、勃ち上がったたがねが擦れている。

「…はやく…ぅ」

「かわいいなあ、卯の花」

笑いながら、たがねがぼくの中に入ってきた。いくら解されても馴れていないそこは引き攣れるような痛みを脳天に伝える。

「ふぁあう…っ」

仰け反るぼくに、はがねが宥めるキスをくれた。曝け出されたぼく自身に手を沿わせると、やさしく撫でてくれる。

「あーもう。ほんと気持ちいいわ、卯の花」

たがねの呻き声が後頭部をくすぐって、ぼくの背筋は粟立った。

もっともっと、たがねを気持ちよく。

心が暴走して、からだが応えようと蠢く。毒のような痺れが全身に走った。

「卯の花ぁ」

はがねに甘く囁かれて、ぼくは目の前に来ていたはがねを口に含んだ。

はがねのことも、うんとうんと気持ちよく。

暴走する心のまま、ぼくは二匹にからだを任せた。