彼はおとうと。

自分はあに。

形容するなら、きょうだい。

この感情は「好き」。

ただひとりへの、特別な「好き」。

分類するなら、恋。

求めるのは、存在のすべて。

欲しいのは、こころと体のパッケージング。

そして、自分だけのものだという、証をなにか。

something blue

「おにぃちゃん、誕生日おめでとう」

言葉とともに、ミクが贈る頬へのキス。

カイトは笑って、ミクの頬にキスのお返し。

「ありがと、ミク」

ミクがくれた誕生日プレゼントは、かわいいアイス柄のエプロンと三角巾の、キッチンワークセット。

「おにぃちゃん」

「にぃちゃん」

「「たんじょうびおめでとう!!」」

声を揃えて、リンとレンが贈る顎へのキス。

カイトは笑い声を上げて、双子を抱えこむ。それぞれの額にお返しのキスをして、ぎゅうっと抱きしめた。

「ありがと、リンちゃん、レンくん」

リンとレンがくれた誕生日プレゼントは、キットを買って自分たちで仕上げた、フェルトのアイスストラップ。

少し不恰好なそれは、携帯電話に取りつけられた。

「カイト、誕生日おめでと」

微笑みとともに、メイコが贈る頬へのキス。

カイトも微笑み返して、メイコの頬にキス。

「ありがと、めーちゃん」

メイコがくれた誕生日プレゼントは、最新式のクーラーボックス。従来のものより数時間は長く、アイスが溶けずに持つとか。

「誕生日おめでとうございます、カイトさん」

ぎゅ、と抱きしめられて、頬に当たる頬の感触。

マスターの抱擁を受け止めて、カイトもぎゅ、と抱き返す。

「ありがと、マスター」

マスターがくれた誕生日プレゼントは、有名レストランが企画している、アイスケーキの季節配送のご予約券。

季節に応じたアイスケーキが、その時期その時期に届く、一年ずっと楽しめるチケットだ。

家族みんなに祝福されて、贈り物を貰って――

「………がくぽ」

残存、一名。

お誕生日席である、リビングの三人掛けソファの真ん中に座ったカイトの前に、気まずそうな顔のがくぽが立つ。

がくぽに挨拶のキスの習慣はない。こういう場面に立たされると、それがめでたい席であっても――めでたい席であればあるだけ、いたたまれない思いを募らせてしまう。

カイトは笑って、葛藤と闘っているがくぽへ手を伸ばした。

「がくぽはいーよ。出来ないことするの、大変なんだから…」

「カイト」

「っ」

絞り出される名前。

呼ばれて、カイトはびくりと強張る。

中途半端なところで止まった腕を掴み、がくぽが顔を寄せてくる。

そっと、額に落とされるキス。

「誕生日おめでとう」

「…」

ささやかれる言葉とキスに、返すことも思いつかなかった。

胸の中に抱きこまれて、仄かに燻らせた香の薫りに包まれて、思考が途絶える。

世界が閉じればいい。

このまま、この瞬間で。

「あ……」

カイトは懸命に思考を巡らせ、身じろいだ。がくぽの胸から顔を上げて、微笑む。

「ありがと、がくぽ」

「…これを」

「あ、うん」

押しつけるように渡された小さな箱を受け取り、カイトは一度、ぎゅ、と瞳を閉じる。

そうやってこみ上げるこころを押さえつけてから、きれいなラッピングを解いた。

「…っ」

解く途中で、手が止まる。まだ箱の中身には辿りつかない。

つかない、けれど――描かれた、ロゴ。よく見慣れた字体。

「あ……」

揺らぐ瞳で見上げると、がくぽはじっと見返してきた。

「…」

なにも言えず、箱を見る。震える手で蓋を開いて、予想した通りのものを見つけた瞳に、涙が滲んだ。

『cold sweetie』

緩衝剤に包まれた瓶に、書かれた言葉。

つめたいコイビト――一昨年の誕生日にミクとリンとが贈った、カイトへのプレゼント。

バニラアイスをイメージしてつくられた、カイトのための香水に付けられた名前だ。

調香師に頼んで、カイトのために特別に調香してもらった、世界にひとつのオリジナル。

気に入ってつけていたそれが、ついこの間、終わってしまった。

新しく買おうと思ったけれど、時期を逃して――

「…………気に入りであったのだろう。ずいぶん、へこんでいたようであったゆえ」

がくぽがつぶやく。

「がくぽ………」

名前をつぶやいて、その先の言葉が続かない。

彼はおとうと。

自分はあに。

形容するなら、きょうだい。

この感情は「好き」。

ただひとりへの、特別な「好き」。

分類するなら、恋。

求めるのは、存在のすべて。

欲しいのは、こころと体のパッケージング。

そして、自分だけのものだという、証をなにか。

けれど巡る、「彼と自分はきょうだい」。

それでも、欲しいと望むのならば。

欲しいと望むこころが、止まらないなら。

カイトは顔を上げて、見つめるがくぽへと笑いかけた。

「がくぽ、だいすき」

告げた言葉に、がくぽはわずかに瞳を見張った。それから、やわらかに微笑まれる。

「ああ」

頷かれて、カイトは笑ってがくぽへと抱きついた。

「だいすき、がくぽ」

ぎゅう、としがみつく体を、がくぽがそっと受け止めて、抱き返してくれる。

宥めるように背を撫でられて、カイトはますますきつく、しがみついた。

望むなら、望むがままに。

欲しいものは欲しい。

このやさしいひとが自分のものになるなら。

このやさしいひとを自分のものにするなら――

――強欲は善です。

教えが思考を巡り、掻き消す言葉。

「彼と自分は、きょうだい」