呆気なく果てたカイトは、呆然と瞳を見開いて固まっていた。
「カイト」
やさしく名前を呼びながら、がくぽはカイトの顔にキスを降らせる。
濡れた手をそのまま滑らせて、奥まった場所へとやった。
きみ/が/いる-後編-
「………カイト」
「んくっ」
あからさまに欲に飢えた声で呼べば、カイトは震えてがくぽを見る。
「ぁ………っ」
「入れたい」
「ふぁ……っ」
「カイト……」
濡れた手で入口を探るがくぽに、カイトの瞳が潤む。がくぽの体を挟む足に力が篭もって、痛いようだ。
「カイト……」
拒絶する動きがないことに甘えて強請り続ければ、カイトは一度、くちびるを噛んだ。
「………がくぽ、………俺に、いれたい、の………?」
切れ切れに吐き出された問いに、がくぽは笑う。いつもの笑みとは違って、ひどく儚く、脆く。
「入れたい」
きっぱり答えて、俯いた。
「お主も男ゆえ、抵抗があるのはわかるが……」
「んくっ」
言いながら、少し強く窄まりを押す。
震えたカイトは、懸命に顔を上げると、歪むがくぽのくちびるに触れるだけのキスをした。
「いーよ」
掠れる声で、それでもはっきりと言う。
「がくぽの…………俺のなか、いれて、いーよ」
「………カイト」
強請っておいて、望み通りの答えが出されたはずなのに、がくぽは花色の瞳を気弱に揺らす。
カイトは笑って、がくぽの額に自分の額をぶつけた。
「がくぽのこと、気持ちよくしてあげられるか、わかんないけど……………がくぽが入れたいって言うなら、いーんだよ。それ、俺も、いれてほしいってことだから、んんっ」
言葉の途中で、くちびるを塞がれる。貪るように探られて、カイトは再びベッドに沈みこんだ。
力が抜けて落ちた腕が、びくりとシーツを掴む。がくぽの指が、窄まりに押し入っていた。
一本差し入れられただけだが、違和感は拭えない。
「んく……っ」
「いい子だ……」
ささやかれる言葉に、カイトは少しだけ笑った。
いい子だ、なんて。
おとうとはそっちで、自分のほうが兄なのに。
これでは、逆転してしまっている。さっきからずっと、逆転しっぱなしだけど。
笑ったカイトに、がくぽは花色の瞳を細める。指が二本に増やされて、中が探られた。
「んゃ………っふぁう………っ」
がくぽの指が濡れているせいで、そこからいたたまれない水音が響いている。カイトは羞恥に涙を溜めて、首を振った。
そのがくぽの指が、ある一点を掠める。
「ふくっ?!」
「………ここか」
「ひぁ、ゃっ?!」
大袈裟なほどに震えたカイトに、がくぽはくちびるを舐めた。カイトが反応を返したところだけを、重点的に攻める。
「ぁ、あ……っ、だめ、そこ、ぃや……だめ、だめ、がくぽっ」
「駄目ではないだろう。きちんと、反応しておる」
「ひぁっ」
違和感が拭えないままに、肌を痺れが走る。
一度は力を失ったカイトのものが再び頭をもたげて、「いや」でも「だめ」でもない感覚を感じているのだと、がくぽに教えている。
それでもカイトは、首を振った。
「ゃだ、や………っ、頭、ヘンなる………ヘンなる、からぁ………っ」
入れたいと言えば、入れていいと答えるが、そこに付随する感覚については追いついていけないらしい。
哀れに思いながらも、がくぽも止める術を見いだせない。
あまりに飢えすぎて、この体を途中で諦めることなど、とても出来ないのだ。
「カイト………」
「ん、んく……っふぁっ」
せめて声を塞げとばかりに、くちびるを自分のもので覆う。もがきながらも懸命に応える舌を、がくぽは牙を立てて啜った。
カイトの体が、跳ねているのを感じる。
それは快楽だが、カイトにとっては未知の領域で、おそろしいもの。
シーツを掴んでいた手が、再びがくぽの背に回る。責めるように爪が立つが、かえって煽られるような心地になった。
一度カイトの中から指を抜くと、がくぽは着物をくつろげた。すでに熱くなっている自分を取り出し、宛がう。
「がくぽ」
「いい子だ」
「…」
宛がわれた熱に、瞬間的に力の入った体を撫で、がくぽは騙す言葉を吹きこむ。
カイトの瞳がゆらゆらと揺れて、歪むがくぽを見つめた。
瞳を合わせられないのはがくぽのほうで、幼子にも似た無邪気な瞳を、見ないように懸命に顔を逸らす。
「………がくぽ、あのね」
そんながくぽに、カイトは顔を上げると、触れるだけのキスをした。反射的に見返してきた瞳に、笑いかける。
「だいすき」
「っ」
告げた言葉に、がくぽはくちびるを噛んだ。
カイトは笑って、そんながくぽを見つめる。
「だいすきだから、だいじょうぶ」
「………っ」
「ひぁっ」
窄まりを押し開いて、がくぽが入って来る。カイトは仰け反り、突き上げる違和感を堪えた。
反射でこぼれる涙の感触に、首を振る。
泣いたらだめだと思う。
がくぽはきっと、誤解してしまうから。
がくぽが「気持ちいい」と言う感覚は、まだ馴れなくて怖いけれど――それと、がくぽを身の内に受け入れることは、また別で、いやではないのだ。
それでも、こんなふうに涙をこぼしたりしたら――
「カイト………」
「んくっ」
がくぽの舌が、涙の跡を辿る。怯えるように震える声に、カイトはせめて、がくぽにしがみつく腕に力を込めた。
いやじゃないから、止めないで。
言葉にもならずに訴えかけ、がくぽのくちびるへとくちびるを寄せる。
「んん………っふく………ぁっ」
触れたくちびるから舌が伸びて、カイトのくちびるを舐める。押し入る舌を受け入れてベッドへと沈みこみ、カイトは自分からも舌を伸ばした。
「…………がく、ぽ……………きもち、い?俺のなか……………ちゃんと、きもち、い?」
「………」
くちびるが解けて訊くと、がくぽはようやく笑った。締めつけられるそこを、軽く揺すり上げる。
「ひぁっ」
「気持ちいい」
悲鳴のような声を上げるカイトの耳朶にくちびるを寄せ、激情を堪えるように抑えた声でささやく。
「最高だ」
「ゃああ………っ」
吹きこまれて、カイトはびくびくと震える。
この声は反則だ。それだけで、肌が痺れるような心地がする。
震えるカイトの中を、がくぽはゆっくりと、抜き差し始めた。馴染ませるように、丹念に味わうように。
どちらとも取れるゆっくりとした動きは、次第に早く、強くなる。
「んゃあ、ひぅう………っんくぁっ」
「カイト………っ」
堪えきれずに涙をこぼしながらしがみつくカイトに、がくぽの苦しそうな声が吹きこまれる。
霞む視界を懸命に凝らして、カイトはがくぽを見上げた。
その顔が、欲に歪んでいるのがわかる。夢中になってカイトを貪り、堪能しているのが。
「ふ、ぁ………っ?!」
「っ」
カイトの体の中をなにかが走り抜け、がくぽを締め上げた。
びくびくと激しく痙攣する内襞に、がくぽは堪えきれないとばかりに眉をひそめ、くちびるを噛む。
「ぁ、ひ……っぃう………っ」
「カイト…っ」
感覚が制御を離れて、勝手にがくぽを味わいだす。
カイトは瞳を見開いて、仰け反った。
がくぽが苦しげな声を上げて、さらに激しく腰を打ちつけてくる。制御を離れた感覚が、痛いほどのそれにすら懸命に応える。
「く………っ」
「ひぁあっ」
一際大きく膨れ上がったものが、カイトの中に熱をぶちまけた。その感触で、カイトも絶頂へと押し上げられてしまう。
処理の限界を超えた感覚に、瞬間的に意識が飛んだ。
***
「…………カイト」
「………ぁ」
意識を取り戻せば、がくぽが雨のようにキスを降り注がせていた。その幸福な感触に、カイトの顔が綻ぶ。
しかし、すぐにびくりと強張った。
がくぽがまだ、中に入っている。
「ぁ、がく、ぽ………」
「………」
落ち着かずに腰をもぞつかせると、がくぽは困ったように微笑んだ。
どこか甘えるようでもある光を宿してカイトを見つめ、首を傾げる。
「もう一回」
「え?」
「もう一回…………」
強請ると、カイトは瞳を見開く。がくぽは手を滑らせて、腰を挟むカイトの足を撫で上げた。
「ゃ……っ」
「カイト、もう一回………なあ、頼む………」
「………っ」
甘えを前面に押し出した声で強請り続けると、意識を失って落ちた腕が、そろそろとがくぽの背に回された。
「………いー、よ」
吐き出される、許諾。
どこか惑いながらも、カイトはがくぽを受け入れて、頷く。
「がくぽが、したいだけ………して、いーよ」
「…」
答えに、がくぽは莞爾と笑った。
あまりにうれしそうな笑顔に、カイトは見惚れて言葉を失う。
その体の中で、力を失わないものが、ゆっくりと動き始めた。
震えるカイトが、がくぽの「もう一回」に付き合わされたのは、それからさらに数回。