きみ/が/いる-前編-
がくぽのくちびるが首を辿って鎖骨を撫で、浮いたそこに牙を立てる。
「ふぁ、あ………っ」
びくりと震えて、カイトはがくぽの背に腕を回した。爪を立てるほどに、きつくしがみつく。
不自由にされても、がくぽは構わない。
歯型のついた鎖骨に舌を這わせ、肩へと辿って再び牙を立てる。合わせた牙の下で、カイトの体が跳ねるのを存分に味わった。
「ゃあ………っ」
カイトはか細い声を上げ、がくぽの髪を引っ張る。長い髪が肌を撫でるのにまで、おかしなふうに煽られてしまう。
時折強く引かれて眉をひそめながらも、がくぽはカイトの服を開き、隠されていた肌に舌を辿らせる。
青痣には丁寧なキスを落として労わり、白い肌には吸い付いて紅い痣花を散らす。
「んく………っ」
ちりりとわずかな痛みが走るたびに、カイトは嗚咽を飲みこむような声を上げる。
爪がもどかしくがくぽを引っ掻いて、抗議するようにも、煽るようにも受け取れる。
隈なくキスを落しながら、がくぽはつんと立った、カイトの胸の突起に瞳を細めた。
きちんと反応している――安心もするし、煽られもする。
「ひぁ………っやぁう………っ」
水音を立てながら突起をしゃぶると、カイトは一際高く啼いてがくぽの髪を引っ張った。
「んん………ぁっ……………だめ、ぇ…………そこ、ぃや…………っっ」
「厭か?」
「ゃあ……っ」
くちびるをつけたまま笑われ、カイトはさらに高く啼く。
爪の先まで整ったきれいな指が、口をつけているのとは反対の突起へ伸びた。
固くしこったそこをさらりと撫でると、次には押し潰す。反発してぷくりと立ち上がったところでつまんで、今度は伸ばす。
「が、………がくぽ………っがくぽっ」
「ああ」
「こわぃ………っ」
「っ」
漏らされた一言に、がくぽはぴたりと動きを止めた。
くすんと洟を啜るカイトの瞳は熱っぽく潤んでいるが、確かに微細な恐れを閃かせている。
「こわぃ、よぉ…………っ」
「…………カイト」
くり返される嘆願に、がくぽはくちびるを噛んだ。
早まった。
怯えさせるつもりなどなくて、けれど焦っていたことは確かだ。
募り過ぎた想いは欲深にカイトを求める。すべてすべて、なにもかも全部、今すぐにも欲しいと。
「……カイト」
「が、くぽっ」
済まない、と謝ろうとしたがくぽに、カイトは腕を伸ばした。そうやってがくぽを引き寄せて、痛いほどにしがみつく。
「ぎゅってして」
「…………ああ」
もうこれ以上、怯えさせるようなことはすまいと固く決意して、がくぽはカイトの体にそっと腕を回す。
望まれたままにぎゅうっと強く、抱きしめてやった。
「んんん……っ」
腕の強さに、カイトはむずかるような声を上げる。がくぽはますます力を込めた。
晒された白い首が目の前にあって、ゆるやかな線を描く鎖骨に続いている。
固い決意は脆くも崩れて、がくぽは舌を伸ばした。なめらかな肌を舐め、白い肌に牙を立てる。
「ひぁうっ」
噛み合わせた牙の下で、カイトの体が跳ねるのを感じた。
「ぁ、あ、ふぁあっ」
かん高い声は、あまりにも耳に甘い。
そもそも今、がくぽの理性は散り散りに砕け散っている。どんなに決意しても覚悟しても、すぐさま欲求に負ける。
望むだけ抱きしめていてやろうと思った手がカイトの肌を撫で、くすぐる。
しがみつかれて不自由な体の下から、それでもカイトを味わおうと蠢く。
「ぁ、ふぁ………っがくぽ、がくぽっ」
「…っ」
涙声で必死に呼ばれて、がくぽはきりきりとくちびるを噛んだ。
これ以上いっしょにいれば、怯えるカイトを宥めることも出来ずに、思うがままに蹂躙してしまう。
いくら、夢幻と消えそうで怖くても――証を残す方法なら、いくらでもあるはずだ。
ただ、傍らに寄り添って眠るだけでも、いいはずだ。
そう思いはする。
思いはするが、裏腹に、欲求を溜めすぎて我慢が利かなくなっているのが、残念な現状だ。
「……カイト」
懸命に感情を抑えて名前を呼べば、カイトの手はますます強くがくぽに縋りついた。
今まさに、カイトを怯えさせているのが、がくぽのはずなのに。
「………カイト、離せ。これ以上」
「ゃ、ぃや、だっ」
怯え震える声で、しかしきっぱりと、カイトは拒絶を吐いた。
「ぎゅうってしてっ。ぎゅうってしてくれたら、こわいの平気だからっ。ぎゅうってしてくれたら、全部平気になるからっ」
「…」
必死に言い募られる。
がくぽはわずかに考え、それから再び、カイトの体に手を回した。
こわい、のは、初めての行為だから当然だろう。
普段のカイトを見るにつけ、あまりそちら方面への関心が高いとも思えないし、領域が未知過ぎるのかもしれない。
がくぽのほうには基本設定で一通りの情報が入っているから、そうでもないが――
「カイト、キスはどうだ?」
「んぅ?」
抱きしめたまま訊くと、カイトは涙に潤む瞳を瞬かせた。
がくぽは微笑み、カイトを見つめる。
「キスだ。好きだろう?」
「…………ん」
こく、と頷いたカイトに、がくぽは微笑みの形のくちびるを寄せた。
「口を開け。大きくなくていい。少しだけ」
「ふぁ?」
「いい子だ」
ほんのわずかに開いたカイトのくちびるに、がくぽは舌を伸ばす。濡れた感触に震えたそこが閉じる前に、舌を押しこんだ。
「んん………っ」
押しこまれてしまえば、閉じることも出来ない。
戸惑いながらも、ここ数回で応えることを覚えつつある舌が、懸命にがくぽを迎えて受け止めようとする。
その舌を誘いだして、先端にそっと牙を立てた。
「んふぁ………ふぁう………っ」
カイトの体が仰け反り、くちびるを解こうと震える。
がくぽは素知らぬ顔で、くちびるをつけたまま、再びカイトの体を探り出した。
いやだ、と拒絶を吐いた胸を撫で、突起をつまむ。
「ふぁ………っ」
こねくり回されて、カイトは涙目で首を振り、くちびるを解く。
「そこ、だめ…………ぃや…………っヘンなる…………ヘンなるからぁ…………っ」
「どう変になる」
耳に吹きこむと、カイトはぐすりと洟を啜った。
「ぁ……ぉなか、ぎゅってなって…………あっつくなって…………」
言いながら、カイトは足をもぞつかせた。
がくぽはわずかに体を浮かせると、閉じられた膝に足を割り入らせる。奥へと進み、突き当たりに膝頭を押しつけた。
明らかに違和感を持ち出している、その場所。
怖がっているカイトが、きちんと感じている、その証。
「ゃぁあう………っ」
体の中でも特に敏感に尖った場所を膝頭で揉まれ、カイトはがくぽの背に爪を立てる。
「がくぽ………っ」
「怖くなどない」
「ひぅっ」
やわらかな声を、耳朶に吹きこむ。ささやきとともにくすぐられ、カイトは身を竦ませた。
がくぽは笑って、そのカイトの下半身へと手を伸ばす。
「それは、気持ちいいということだ。俺の愛撫に感じているだけだ。存分に乱れて、おかしうなれ」
「んぁ………っ」
布越しに撫でると、カイトは震えて仰け反った。
やさしくやわらかに撫でながら、がくぽの手はカイトの下半身を隠す布を取り去っていく。
「がくぽ……っ」
「大丈夫だ………」
騙す言葉を吹きこみながら、緩やかに反応を示す場所を直に手で掴む。カイトの体がびくりと引きつり、背中に回された腕がきつくがくぽを抱きこんだ。
「ぁ、ゃだ…………っそこ、だめ………っ」
「駄目ではない。受け入れろ」
「ふく………っひぅ………っ」
やさしく、しかし厳然と命じられて、カイトは悲鳴のような声を上げる。不慣れな体が激しく震えて、がくぽにしがみついた。
「ひ、ぁうぅ…………ふぁあっ」
「っ」
それほど間を置くこともなく、がくぽの手が濡れた。
もっと追い込んでやりたかった欲求に、がくぽは知らず、くちびるを舐めていた。