Sing a Song of Sixpence
がくぽが口を開く寸前、カイトはその眼前に小袋を突きつけた。
「お菓子です、がくぽ。………どうぞ」
「…っ」
かぼちゃにコウモリ、オバケにドラキュラ城、――
定番のイラストが描かれた透明な袋の中には、同じテイストのイラストが描かれたパッケージが見える。
お菓子だ。
ハロウィンである。
お菓子だ。
まだがくぽがなにを言う前から、眼前にお菓子が、奥さんの手によって差し出された。
「………っ」
「がくぽ」
震撼するがくぽに構わず、カイトは端然とした風情で早く受け取れと急かす。
最愛の奥さんがくれるものだ。がくぽが今日、なにを求めるかわかっていて、そのために先回りして用意しておいてくれたのだ。
ただの『奥さん』ならともかく、がくぽの『奥さん』はカイトだ。『カイト』だ。
→頭がおかしいと結論してようやく安定できるようなマスターに、全力で歪んだ愛情を注がれた結果、箱庭のうたうたい人形と化したカイトが、がくぽのことを考え、がくぽのために――
たとえがくぽがそう、甘いものが好きではないとしても、これを受け取らないという選択肢はないし、食べないという選択肢もない。
もしも食べないとしても、その理由は『嫌いだから』ではなく、あまりにもったいなさ過ぎてという。
「…………………っっ!!」
しかしがくぽは眼前に突き出された小袋へ、拝領するための手を伸ばせなかった。
まず震撼し、愕然とし、それから光速で思考を空転させる間を取り、――
「………………がくぽ?」
敗北感に塗れ、がくぽは頽れるように床に両手をついた。それでも支えきれずにあえなく折れた体は、額が床にぶつかることで、ようやく止まる。
図らずも、――否。
がくぽは完全に、土下座していた。
たとえひとから天女と仇名されようと、その愛情だけは疑うべくもない相愛の奥さんに向かい、がくぽは美事なまでに躊躇いのない土下座を極めた。
「がくぽ、あなた………なにをしているんですか」
差し出していた菓子の袋を膝に置いたカイトは、代わりとばかり、山盛りの不信感を差し出す。
恥も外聞もない土下座を極めたがくぽは、床に突く手に力を込めた。うつくしい指先が無惨なまでに節くれ立ち、形が歪んで見えるほどに力をこめて土下座し、吐きだす。
「カイト、頼む…後生だ。『悪戯』、させてください」