ちゅ、と目尻にキスされて、カイトは笑った。

どうしようもないことに、どうしてもかわいいと思ってしまう。

うちのおとーとは、ちょっと甘えん坊です→りべんじ

「兄様」

「わっ」

弾む声のがくぽが、片手にカイトを抱えたまま器用に部屋の扉を開き、諸共に体を滑り込ませる。

「がくぽ…………んんっ」

見上げたところで、くちびるを塞がれた。がくぽは後ろ手に扉を閉めると、さらにカイトに伸し掛かる。

「ん………んふ、ぁ、あ………」

口の中を探られて縋りつくカイトを軽く抱え、がくぽはベッドへ行った。自分より遥かに華奢な体を押し倒し、パジャマに手を掛ける。

「ちょ、がくぽ………あのね」

「はい、兄様」

返事だけはいい子のまま、がくぽはカイトのパジャマを開く。開かれる袷を掻き寄せ、カイトは目元を赤くして、がくぽを睨んだ。

「おにぃちゃんは本を読むって、言ったよね?」

「はい」

返事だけはいい子だ。返事だけは。

掻き寄せられても懲りることなく、がくぽの手はカイトのパジャマの下に掛かる。片手では上着を掻き寄せ、片手ではずり下ろされるズボンを掴み、カイトは身をくねらせた。

「がくぽは、餌儀さんから借りたご本を読んでるって、言ったよね?!」

「はい、言いました」

頷いて、がくぽは悪びれもせず、にっこりと微笑んだ。

「一回終わったら」

「いっか………!」

そんな前提は聞いていない。

唖然として力が抜けたカイトから、がくぽはさっさとズボンを取り去った。露わにされた肌に、ちろりとくちびるを舐める。

「だってしたいです。さっき兄様のこと抱きしめたら、したくてしたくて我慢出来なくなりました」

「な………っ」

「あんなふうにかわいくされたら、がくぽの理性は持ちません」

「か………っ」

言葉が継げない。

くちびるを空転させるカイトの手からパジャマの上着も奪って裸に剥き、がくぽは首筋に顔を埋めた。

「あ、のね、がくぽっかわいーとか言うけど、おにぃちゃんは『おにぃちゃん』なんだよ!!わかってる?!」

「ぃたたっ」

顔を埋めたがくぽの、散る髪を掴んで兄が叫ぶ。がくぽは小さく呻いて、顔をしかめた。やさしくて甘い兄だけど、ときどき凶暴なこともある。

もちろん、そのすべての兄を愛している。

体を起こして自分の寝間着の前を緩め、がくぽは不満そうな兄へと笑いかけた。

「もちろん、わかってますよ兄様はがくぽの兄様です。誰よりいちばん、やさしくてかわいくて、がくぽのことを愛してる兄様です」

「っっ」

カイトが顔を赤くして黙る。緩められて見えたきれいな筋肉の流れに、束の間見惚れる視線を送った。

潤んで熱っぽい視線に、がくぽはこくりと咽喉を鳴らす。

こんなふうに振る舞っておいて、がくぽに我慢しろと言うなら、兄のほうがずっと理不尽だ。少なくとも、がくぽにとっては。

「……………おにぃちゃんなんだから、おとーとに、かわいーとか………………クツジョク」

「兄様………」

ややしてぼそりと吐かれた言葉に、がくぽは一瞬、くちびるを噛む。

乱暴になどしたくないが、あまりのかわいさに、暴走しかけた。兄は多分に理不尽で、無自覚で、危険だ。

「がくぽは嘘なんか言いませんよ兄様はかわいいから、かわいいと」

「それがクツジョクなの!」

カイトは頑是ない子供のように言い張る。

がくぽは困って眉をひそめながら、手を伸ばした。曝け出されたカイトの下半身へと潜りこませ、未だ熱くなっていない場所を探る。

「ぁ…っ」

「だってほんとにかわいいのに…………こことか、すっごく小さいお口なのに、がくぽのこと、一所懸命呑みこんで。それで、きゅうきゅう締めつけて、がくぽのこと、大好きだいすきって言うんです。そういうの、かわいいって言ったら、だめですか?」

「んん………っ」

奥を探られて、躊躇いもなくつぷりと指が入り込み、カイトは首を振る。顔をしかめて、困っている弟を睨み上げた。

「だめ」

「兄様………」

「ぅやっ」

思わず強めに抉ってしまい、カイトが小さな悲鳴を上げた。

がくぽは拗ねた顔で、指で奥を探り続ける。カイトが普段から弱くて泣く場所だけを、執拗に弄った。

「ゃ、ぁ、あ、……っぁうっ、も、そこ、ばっかり………っや、だめ、も………っ」

「このまま、お尻だけでイきましょうか、兄様」

完全に拗ねた声で、がくぽは言う。奥を弄られただけで勃ち上がったカイトのものを眺めて、こっくりと頷いた。

「お尻だけ弄って、それも指だけで。もうそろそろ、兄様の体、それくらい出来ますよね」

「ゃ、がくぽ………っ」

出来る出来ないではない。したくない。

真っ赤に染まり上がったカイトが伸ばした両手を、がくぽは片手で簡単にまとめた。易々と抵抗を封じて、さらに弄る指の動きを激しくして、がくぽはくちびるを舐める。

「そんなふうにしたらもう、自分がかわいいって認めないといけなくなりますよね。お尻だけでイっちゃうんですよ、兄様。それも、がくぽの呑みこんでじゃなくて、指で弄られただけで」

「そ、そーいうのは、かわいいって言わないインランって言うの!!」

拗ねて連ねられる内容に、抵抗を封じられたまま、カイトは身をくねらせて涙声を上げた。恐ろしいことに、おそらく弟の思うまま、イけるような確信がある。

だが、弟を身の内に受け入れるのまでは許容しても、そこまで体を開かれるのは許容できない。なにより恥ずかしいし、いたたまれない。

望んで体を開くのはがくぽのほうだから、おそらくそういう体になったところで、兄に対して幻滅したり嫌いになったりすることはないと思うが、あまりのはしたなさに自分がいやだ。

それこそ自分で言ったように、そういう『淫乱』な性分は許容範囲外だ。

だというのに、がくぽはかえって、うっとりした顔になった。

「淫乱な兄様…………それこそほんとに、かわいいの極みじゃないですか!」

「ゃ、ばか………っっ」

めげることのない弟に、カイトはぐすりと洟を啜った。

このままだと、本当にイかされる。現在で、かなりまずい状況なのだ。拗ねたがくぽだから焦らされているが、本腰を入れ出したら、抵抗しきれない。

「ぁ、もぉ…………認める、認めるから………っ。おにぃちゃん、自分がかわいーって、認める、から………っだから、がくぽ………っ」

「兄様……」

降参したカイトに、がくぽは瞳を見張った。涙目で強請るように甘く見上げられ、ごくりと咽喉が鳴る。

がくぽはカイトの手の戒めを解くと、奥からも指を抜いた。

「はふ……っ」

しかし、ほっと安堵して緩んだカイトは、甘かった。

がくぽは寝間着から帯を取ると、さっき解放したカイトの手を素早く縛り上げた。

「が、くぽっ?!」

「暴れちゃだめです、兄様。兄様が傷ついたら、がくぽは泣きます」

「ちょ!」

泣くくらいなら、そもそも縛らなければいい。

もっともな論理はあっさり無視されて、カイトの手はそのまま、ベッドヘッドに括りつけられた。

そうやってきっちり抵抗を封じたうえで、がくぽはカイトの下半身へと屈みこむ。

「とうとう兄様がかわいいって認めたんですからね。さらなるかわいさを追求して、お尻だけでイってください」

「うそぉっ?!」

叫ぶカイトに、ちらりと目線を上げたがくぽは、どこまでもまじめな表情だった。

「だって、お尻だけでイっちゃうの、淫乱なんでしょう淫乱な兄様、すっごくかわいいです。せっかくなので、すっごくかわいい兄様が見たいです」

「ゃ、うそうそうそうそうそ!!っぁあうっ」

暴れる足も、がくぽに易々と押さえこまれる。指で解されたところをぴちゃりと舐められて、カイトは震えて仰け反った。

「や、がくぽがくぽがくぽ、いーこだからっぁ、ふぁあっ」

「ちゃんと悦くしてあげますから」

「ちがぁうっ」

「そうですね。悦くないとイけませんもんね。悦くしてあげるじゃなくて、悦くしなきゃいけないんですよね。あんまり焦らさないで、すぐに悦くします」

「ゃあっ、も、うそっ、ぅそうそ、がくぽっ」

言葉が通じない弟は、どこまでも探究者で求道者の顔だ。せめてもう少し、欲に歪んだ顔をしていてくれれば、乱れる自分にも言い訳が立つのに。

これでは自分だけが乱れているようで、本気で好きものの淫乱だ。

「ぁ、あっ、ゃう、がくぽ………ぉねが、弄って………前、まえ、弄って………しびれて、ぃたい………っイきたいぃ………っっ」

惑乱して強請るカイトに、がくぽは濡れるくちびるを舐める。差しこんで掻き回す指を、さらに強くした。

「兄様、ほんとかわいい………!」

言葉が通じない。

「ぁ、あう、がくぽ………がくぽ、ゃ、ぉねが、ぁ………イっちゃ……イっちゃぅ、ゃだ、やだ………も、ぉねが………っ」

「はい、兄様」

いい子の返事とともに、奥に入っていた指が複雑にくねった。大きく広げられ、節ごとにごつごつと粘膜を押され、さらには弱いところを爪で抉られて、カイトは仰け反る。

「ゃ、ぁ、ぁああっ!」

悲鳴とともに、弄られることのなかった性器から、快楽の頂点を知らせる白濁した液体が吹き出た。

いつも以上に深い快楽に震えながら、性器からは間歇的に愉悦が吹き出す。カイトの思惑とは裏腹に、その絶頂はなかなか治まらなかった。

いつもならすでに治まっているはずの性器から、だらだらと蜜がこぼれる。すでに愉悦を通り越して痛いような気がするそれに、カイトはぼろりと涙をこぼした。

「ぁ、や、ど、して………っも、やぁ………っとまってぇ…………っ」

「兄様………」

啜り泣きながら快楽に染まって震える兄に、がくぽはうっとりと見惚れる。吹き出したもので濡れる肌を撫で、その感触にまた啼くカイトに、微笑んだ。

「兄様、指でお尻弄っただけでイっちゃって………それも、こんなにいっぱい、いつも以上に気持ちよくなっちゃうなんて……………すっごい、淫乱ですね………」

「ひ、ひぅう……っ」

うれしそうにこぼされる言葉に、カイトは瞳をぎゅっと閉じた。出来れば耳も塞ぎたいが、手が縛られていて無理だ。

「兄様、もう、お尻だけでいいんですね。こっち弄らなくても、よっぽど気持ちよくなれるんですね」

「っがくぽ、ぉっ」

いつも以上に濡れる性器を撫でながら、うっとり連ねられる言葉に、カイトはさらに全身を朱に染めた。

もう黙って欲しいが、沈黙は沈黙でいたたまれない気もする。

惑乱して身を竦めるカイトに、伸し掛かって来たがくぽは笑い声を吹きこんだ。

「一回だけのつもりでしたけど、こんなにかわいい兄様見たら、治まりそうにありません。治まるまで、付き合ってください」

「んぅっ」

耳をくすぐられて、カイトは震えた。涙に濡れる瞳を開くと、至近距離で笑う、きれいな顔を見つめる。

続く体の線も流麗で、腰には硬い熱の感触が押しつけられている。それだけで、確かに疼く、その場所は。

「…………ぁ、足んない、もん…………っ、ゆ、指だ、け、じゃ、………足んない、もん………っがくぽの、太いの、入れて、いっぱい、掻き混ぜなくちゃ………っ」

洟を啜りながらの主張に、がくぽは莞爾と微笑んだ。音を立てて耳元にキスを落とすと、そのまま耳朶を咬む。

「ほんとに淫乱で、かわいい兄様………」

ささやきにまた感じて、カイトはかん高い悲鳴を上げた。