カイトは軽く天を仰いだ。

「…………あのね。疲れたって言ってなかった?」

ぼそりとつぶやく。

うちのおとーとは、とっても頑張りやさんです→

呆れた響きに、答えたのは密やかな笑い声だ。

「吹っ飛びました」

「あー………元気だね、がくぽって………」

返しながら、カイトは落ち着かずに腰をもぞつかせる。

せっかく膝枕してやった弟は、少しもおとなしく寝なかった。ぐいぐいと顔をすり寄せてきて、今は際どいところをせっせと甘噛みしている。

スラックスを脱がされるのも、時間の問題だ。

「ね、がくぽ……ちょっとだけ、おとなしくしてみない………もしかしたらまた、眠くなるかも………」

髪を梳きながら言うと、がくぽはちらりと視線を投げた。指が伸びて来て、スラックスに掛かる。

「がくぽは十分、大人しくしていますよ?」

「………わーあ………」

『大人しく』の定義が違った。わかっていたが。

ボタンを外し、がくぽはジッパーを口に咥える。じ、と軽く引かれて下ろされ、カイトはまた、腰をもぞつかせた。

「ん………っ」

がくぽは下着の上から、べろりと舐める。形を変えつつある場所を軽く咬んで、布の上から吸う。

もどかしい。

が、ここで負けると、本気で弟は休まない。

「が、くぽ………」

「兄様、がくぽのこと、甘やかしてくれますよね?」

「………」

求められるなら、甘やかすことに否やはない。甘やかすことには。

ただこの場合、求められている『甘やかす』という、その方法が。

「あのね…」

「兄様、がくぽのこと、甘やかしてくれないんですか?」

「………」

「がくぽは兄様にいっぱい、甘やかして欲しいです」

衒いも躊躇いもなく、がくぽは言う。

それもそうだ。衒いも躊躇いもあるわけがない。

がくぽは弟で、カイトは兄だ。

マスターの夷冴沙がおとーと至上主義であるために、カイトにしろがくぽにしろ、兄が弟を『甘やかす』ことに違和感がまったくない。

ないことはないのだが。

「………もー……」

そうは言っても、がくぽは疲れているはずなのだ。

ふたりのマスターである夷冴沙はマイペースキングで、滅多に他人の言動にむっときたりしない。

その夷冴沙がむっと来たような人物と一日渡り合ってきたなら、さすがのがくぽだとて、その疲労はかなりのものになるはずだ。

カイトに会ったことで多少は癒されたとしても、基幹が疲れていることに変わりはない。できれば大人しく休んで欲しいのに。

「仕様がない子……」

「にーさまふがっ?!」

ぼやくカイトに再び鼻をつままれ、がくぽは悲鳴を上げる。

浮いた頭から膝を抜き出すと、カイトは体を移動させた。がくぽの足の間に座る。

「兄様?」

「寝てなさい」

「えっと」

戸惑いながら身を起こそうとするがくぽに、カイトは目を据わらせた。

「ねーてーなーさーい」

「はい」

いつもは甘くさえずるだけの兄に凄まれて、がくぽは仕方なく横になった。それでも、ちらちらと視線を投げる。

そんな弟に、仕様がないともう一度肩を竦めて、カイトは体を屈めた。

布の上からがくぽの股間を撫でると、ちゅ、とくちびるを落とす。

「にーさま」

「寝てる」

「はい」

喜色に輝く弟に厳命し、カイトは着物を開いて行った。期待に震えるものに辿りつくと、くちびるで挟んで取り出す。

「ん…………んん」

唾液を乗せた舌で舐め、咥えて啜った。

疲労のせいか、いつもより早く、がくぽのものは勃ち上がっていく。その熱を夢中になって味わいながら、カイトは自分の下半身に手をやった。

「んぷ………っ」

ややして、がくぽのものが十分な硬さを持ったところで、カイトは体を起こした。

「兄様……っ」

「寝ててったら」

苦しげな声で追ってくる体を押して横にならせると、カイトはスラックスと下着を脱いだ。濡れそぼるくちびるを舐め、がくぽの腰に跨る。

「にいさま」

喜色を含むがくぽに、カイトはわずかに朱に染まる。

部屋が暗くてよかった。おにぃちゃんなのに弟に跨る姿など、あまりつぶさに観察されたくない。

どうしてこんなことをしたいのか未だに理解の範疇外なのだが、がくぽにとって『なによりのご褒美』と言えば、カイトの体だ。

疲れているときにこんなことをすれば、さらに疲れるとしか思えないのだが、とりあえず一回吐き出させないと、いつまで経っても大人しくしない。

「大人しく、してて……」

「はい、兄様」

うれしそうに弾む声で、がくぽはいい子に返事する。

カイトは硬くしたがくぽのものを掴み、自分の秘所へと宛がった。太く反り返るものを、そっと飲みこんでいく。

「ん………く………っ」

休みやすみ、どうにか飲みこんで、カイトはがくぽの腹に手をつく。

がくぽの手が伸びてむき出しの太ももを撫で、軽くつねった。

「兄様……」

「ん、うごく………から」

頷き、カイトはゆっくりと腰を揺らめかせる。

あまりしない角度なうえ、自分だけが動くということが滅多にない。感覚が不慣れ過ぎて、カイトはくちびるを噛んだ。

「にいさまぁ……」

「ぁ、ふ………っだぃ、じょぉぶ………ちゃんと、おにぃちゃんが、してあげる、から………」

切れ切れに言い張り、カイトは怯える体を無理やりに動かした。

「ぁ、く、ふぁ………っ」

「兄様………腰、回してみて………」

「ん、ぁ………ぁううっ」

ともすれば止まりそうになる体を、懸命に振り立てる。がくぽの手が腰に伸び、掴んだ。

「我慢できないです、兄様……っ」

「ふぁあっ」

掴まれて、下から激しく突き上げられる。疲れているせいか、いつもより加減がない。

「は、げし………ぁううっ」

「く……っ」

つい締め上げたカイトに、がくぽは素直に精を放った。腹に吹き出す熱の感触に煽られて、カイトも精を吐き出す。

「ぁ………っはふ………っ」

「ん………っ」

腹の中が、熱で満たされる。カイトはぐったりと、がくぽの体に倒れた。

腰を撫でていたがくぽの手が、ふわりと落ちる。

「…………ふにゅー……」

「………もー………」

ようやく寝落ちた弟に、カイトはやれやれと凭れた。

やっぱり疲れていた。

普段なら、一回かそこら吐き出したくらいで、寝落ちたりしない。

「手が掛かるんだから………」

ぼやきながら、カイトは体を起こした。その声が甘く溶け崩れていることに、本人は気がついていない。あくまでも、呆れているだけだと思っている。

カイトは腰を浮かせ、入れたままだった、力を失ったものを抜いた。

自分が弟の体に吐きこぼしたものを、ティッシュで軽く拭い去る。

着物に染みた分はもう、仕様がない。寝てしまった、自分より遥かに大きな体の弟を脱がすことは、カイトには出来ないし――

「……」

少しだけ考えて、カイトは身を屈めた。力を失ったがくぽのものに口をつけ、ぺちゃりと舐める。

ぺちゃぺちゃと水音を立てて舌を這わせ、濡れそぼるものをきれいに舐め取った。

それだけ舐め回しても、がくぽのものが再び力を持つことはない。ロイドの就寝とはそういうものだ。弟は完全に寝落ちている。

「んちゅ……」

先端を啜ると、わずかに残滓がこぼれた。

啜り取って、口を離す。濡れたくちびるを舐め、指をしゃぶった。

「んく………」

指についた残滓も舐め取ってしまうと、カイトは最後のキスを弟のものに落として、着物の中に仕舞った。

「あとでちゃんと、お風呂に入るんだよ」

やさしく微笑んで告げて、カイトは立ち上がった。

寝ている弟の傍についていてやりたいが、中をきれいにしないと落ち着かない。いつまで経っても煽られたままになる。

下着とスラックスを穿き直すと、カイトはそっと部屋から出た。