「っひっ、ぁああんっ」
びくりと一際大きく痙攣し、カイトは極みに達した。肌を晒していることで、いつもよりさらにほっそりと見える体が、余韻にがくがくと震える。
だが震える原因は、絶頂を極めたことの名残りだけではない。
うちのおとーとは、ちょっとワルイコです→裏
「ぁ、あ…………も、ぉねが、がく、…………ぅ、ぁああ…………」
「ふぁあ…………にぃさま……………」
自分のベッドに埋まるようにして横たわり、カイトは止まることなくびくびくと体を跳ねさせながら、嘆願する。
その足元に座る弟といえば、うっとりとした感嘆の声を漏らすだけだ。兄の嘆願を聞く様子はない。
――終わらない絶頂。絶えることのない快楽。
感じているのは気持ちよさのはずだが、それもあまりに長時間に及ぶと、拷問じみて苦痛に変わる。
快楽のせいだけでもなくぼろぼろと涙をこぼし、カイトは霞む視界で懸命に弟を見つめた。
「ぉねが、ぃ…………とめ、て…………はずして……………もぉ、むりぃ…………っ」
嘆願する間も、カイトはひっきりなしの快楽に襲われて、体を跳ねさせている。
掠れるうえに途切れて不明瞭になる言葉に、がくぽはあどけないしぐさで、ちょこりと首を傾げた。
「でも、にぃさま…………がくぽはもう少し、遊びたいです」
「がくぽ………っ」
しぐさに見合った、幼い言いようだ。
こんなときでもかわいいとは思うが、それはそれ、これはこれ。
「ゃ、ぉねが………っ、おにぃちゃ、も、ほんと、…………っひぁああんっ?!」
しかし懸命な嘆願の途中は、悲鳴じみた嬌声に取って代わった。
小さなベッドの上から落ちそうなほどに跳ねる兄をうっとりと眺め、がくぽは手に持ったコントローラを弄る。
「ふぁあ、にぃさまぁ………素敵過ぎます………。体中、おもちゃだらけにして、イきまくって…………はぅうっ、堪りませんん~~~~っ」
「が、がくぽぉおっ!!」
きゃぁああんっvvv――とでも効果音をつけたくなる様子で、喜色満面に身悶える弟に、カイトは涙声で叫んだ。
その、ほっそりと骨の浮く華奢な体は、がくぽ曰くの「おもちゃ」だらけだった。
そもそもは、餌儀が久しぶりに古馴染みと会って、その古馴染みが取り扱っているという「商品」のサンプルを大量に持ち帰ったことに、始まる。
どれくらいかといえば、みかん箱ほどの大きさの段ボールいっぱいだ。それもぎりぎり、蓋が閉まるか閉まらないか。
こんなものをこんなにも、いったいどうするつもりだと呆れて訊いたカイトに、餌儀は珍しくも、気まずい様子でそっぽを向いた。
「なんていうか、ねぇ………その場の、ノリ?雰囲気っていうのかい?飲まれっちまって、思わず」
しっかり者で、壱岐家の生活のあれこれを陰になり日向になりして支えてくれている、餌儀だ。そういううっかりは、ひどく珍しい。
おそらく、それほど古馴染みとの再会が愉しかったのだろうと諦めて、さて、どうするか――と。
いくらなんでも、大量のオトナのおもちゃ――アダルトグッズをぽんと捨てたりしたら、それなりに。
そう、餌儀の古馴染みが扱っているという商品は、オトナの夜のお供、アダルトグッズだった。
スキンに始まりローター、バイブといった比較的お馴染みのものから、特殊趣味向けと思われる拘束具他など、コアでニッチなものまで、手広く。
サンプルだけあって未使用品だが、問題はそういうことではない。
餌儀とカイトがリビングで頭を突き合わせ、ああだこうだと処分に悩んでいたところに、がくぽが来た。
夷冴沙とどちらがましだったかという話になると、微妙だ――夷冴沙が見たなら餌儀が悲劇で、がくぽが見たから、カイトの現状。
男だから当然真っ平なカイトの胸に、ちょんまりとある乳首には、両方共にローターがつけられた。
弟と比べるとかわいらしい色形の男性器にも、スキンを装着してその中に突っこむ形で、ローターが固定された。
そして弟しか受け入れたことのない後ろの窄まりには、電動式のバイブが。
抵抗したカイトの両手首は革製の拘束具で括られて、同じく抵抗する足を括るための拘束具と繋がっている。
四肢の自由を奪われたうえで、全身の特に敏感な場所につけられたローターやバイブが、震動を繰り返す。
カイトの意思ではなく、がくぽの好みによって。
何度絶頂を迎えたかわからないし、しかもその間、がくぽは見ていただけだった。自分のことはほったらかしで、なにをどう組み合わせると、兄がもっとも悶えるかを追及することに夢中になっている。
見上げた探究心といえばいいのか、しかし兄相手にそんなことを探求して、どうするというのか。
「がくぽぉ………ゃだぁ…………こん、こんな………おもちゃなんかで、……こんなに、イっちゃって………っ」
裸に剥かれたカイトの全身をしとどに濡らすのは、自分で吹き出した精液だ。一度や二度のことでもなく、膨れ上がる性器ももう、ほとんど吹き出せるものがない。
それでも感覚を刺激され続け、煽られ、体は馴れることなく反応させられる。すでに苦痛だ。
「こん、なのぉ…………おにぃちゃん、えっち過ぎる………なんでもいい、インランみたいで、ゃだぁ…………」
「いんらん…………」
べそべそと泣きながら嘆願するカイトの言葉を、がくぽはぽつりとくり返した。
その手が、離すことのないコントローラをぎゅうっと握り締める。
「素敵ですっ、にぃさま…………っっ!!淫乱な兄様なんて、最高過ぎます…………っっ!!」
――兄も弟がかわいかったが、補記すると、弟もまた、兄をかわいいと思っていた。
兄が弟かわいさになんでも我が儘を聞いてやるのに対し、弟は兄かわいさに、とことんまで甘ったれる。
弟に甘えられたときの兄のかわいさが、言葉にもならないほどだからだ。
「が、がくぽ………っ」
きらきら度が増してしまった弟に、カイトはひくんと引きつった。
そうでなくても、きらきらしい美貌の持ち主だ。威力のほどは計り知れず、呼ぶカイトの声は力なかった。
「全身おもちゃだらけにして、がくぽに見られながらひとり、イきまくってしまう兄様…………!確かに淫乱です!最高ですけど、さらにまだ、なにか出来そうな余地が!」
「ないっ!!余地はないよ、がくぽっ!!」
餌儀が持ってきたおもちゃは、段ボールいっぱいだ。ローターもバイブもそうだが、拘束具もそこから出した。
それでもまだ、カイトには用途の不明なものがたっぷりと入っている。
その気になったがくぽが試そうと思えば、それこそいくらでも。
慌てて叫んだカイトになにか言い返しかけて、がくぽはぴたりと口を噤んだ。わずかに考える間があって、納得したように頷く。
「それもそうですね。なにも今日一日で、全部試さなくても。ちょっとずつ試していって、そこからよかったものを選んで、最終的に」
「試すの?!どうしても?!っん、ゃ、だめっ。も、おっぱいの、つよくしたら、だめぇ…………っ」
「だめですか?じゃあ、お尻のほう?」
「そ、そっちはもっとだめ、ゃ、だめって…………だめったらぁあんっ」
再び、兄をもっとも悶えさせる組み合わせの探求に戻ったがくぽは、強弱を変えた全身のローターに震えて悲鳴を上げる兄と、床に置いた段ボールとを見比べる。
「そういえば、いぼいぼしたのも入ってましたよね………太いのといぼいぼなら、兄様ってどっちのほうが」
真面目な顔だ。もう少しやに崩れていてくれたなら、カイトにも救いがあるというのに。
どうしてそんなに真剣な、求道者の顔になってしまうのだろう。
「ゃ、そんなの、りょうほう………っぁああんっ!」
カイトは意図したわけではないが、がくぽは訊きながらもコントローラを弄っている。刺激が変われば驚いて、言葉も続かずに切れる。
言いたかったのは、両方ともいやだ、だ。
しかし肝心要のいやだが言えず、嬌声に飲み込まれた。
がくぽはこっくりと頷いて、拘束具によって大きく割り開いて晒したカイトの恥部を見つめた。
「なるほど。両方ですか。…………兄様のお尻、こんなにちっちゃくて狭いのに、あんなに太いのが両方欲しいなんて………兄様ったら本当に、えっちなことに欲張りで、淫乱なんですね」
「ちがぁ………っぁあん、ゃ、なでなでしなぃ………さわっちゃ、ぃやぁ………っ」
コントローラを置いたがくぽは、バイブを飲み込んでひくつく場所の入り口に、試すように指を這わせる。
通常サイズと銘打ってあったものだが、いっぱいいっぱいだ。そもそもカイトのそこは、狭い。
本来的には男を受け入れる場所ではないがしかし、そこは太いものを飲み込むことに馴れていた。なによりも、受け入れ続けた弟のものが、「通常サイズ」ではない。
おそらくこれだけなら物足らないと訴えたかもしれないが、カイトの体を攻めるのは、これひとつではない。
「この太さでも、ぎちぎちに締め上げますものね、兄様…………よく、がくぽのもの、食べられますね。ここ、こんなに上品に見えるのに、ほんとはスキモノなんですね」
「ちがぁ…………っ」
「あ。きゅうって、締まった…………スキモノって言われて、兄様、感じちゃうんですね…………」
「ちがぅうう…………っ」
身悶えながら懸命に否定するカイトを、がくぽは蕩けた瞳で眺める。
いやだと言いながらもバイブを飲み込んで、離さないとばかりにきゅうきゅうと締め上げるそこを、きれいな指でぐにぐにと揉んだ。
「………知ってますよ、兄様。兄様、ここにがくぽのもの飲み込んでるときに、入り口触られるの、弱いんですよね。がくぽのものも、食いちぎるんじゃないかってくらい、締め付けますから、いつも」
「ぅ、ひぁあ………ぁあん、も、も、だめぇ…………っ、また、また、イっちゃぁ…………もぉ………っ」
「にぃさま…………知ってるんですよ、がくぽ………」
がくがくと限界の痙攣を見せるカイトに、がくぽはうっとりと蕩けた表情だ。
震動するバイブを飲み込む場所を揉みながら、体を倒した。閉じられないせいで涎をこぼすカイトの口元に舌を伸ばすと、垂れるそれを舐め啜る。
「ぁふ…………っ」
堪えきれないように悦楽の呻きをこぼし、がくぽは放り出したコントローラを手探りで持ち直すと、カイトの口元を舐めまわした。
「ね、兄様…………兄様は、がくぽのものを飲み込んでるとき、限界いっぱい広がった下のお口を触られるのと………上のお口をキスで塞がれるの、大好きなんですよね」
「ぁ、がく……………っっひ、んんんんんっっ」
「んん…………っっ」
威力を最大にされて大きく跳ねたカイトに伸し掛かり、がくぽは悲鳴を迸らせる口をキスで塞ぐ。
暴れる体を押さえ込まれ、口も塞がれて、カイトは激しく痙攣した。
その体が一際跳ねてえび反りとなり、一瞬後にはがっくりと力を失ってベッドに沈む。
それでも痙攣をくり返す体から離れつつ、がくぽは最大にしていたバイブの威力を微力に変えた。
「両方されると、兄様、すぐにイっちゃうんですよね」
笑って言って、がくぽは別のコントローラを持つ。愉しそうに威力を変え、悶える兄を満足げに見つめた。
「がくぽの兄様は、ほんと淫乱で、かわいい兄様です…………」
***
「ぁ、ええと…………………」
「………………」
じと目で睨み上げる兄に、がくぽはうろうろと視線を彷徨わせた。
沈黙数秒。
がくぽはしゅんと項垂れると、胸を張っても自分より小さい兄から身を引き、わずかに上目遣いとなった。
「その、確かに…………がくぽが、やり過ぎました。兄様があんまりにもいんら………いえ、ええと、かわい………………その、素敵な反応をするので、夢中になって、加減を忘れました………」
「問題はそこじゃないの!」
「ええ?!」
昨晩の自分の行状を思い起こさせられたがくぽは、とりあえず素直に謝った。悪いとは思っている、本当に。興奮し過ぎて、見境を失くしたことは確かだ。
しかしいつになくおかんむりの兄は、弟の反省をばっさりと切って捨てた。
思い出せと言われて思い出し、そして素直に反省したというのに、違うという。
思い出したことすべてに駄目出しされ中のがくぽは、ほとんどパニック状態で、涙目となってカイトを窺った。
カイトのほうは胸を張り、腕まで組んで兄としての威厳を保ちつつ、反省未だ至らない弟をきっとして見返す。
「そのあと!寝るとき!!」
「寝る、とき…………ですか?がくぽ、なにをしましたか?!」
「がくぽっ!!」
「ぇええ?!」
毛を逆立てて迫ってくるという、いつになくお怒りの兄の様子に、がくぽは本気で泣きが入った。
やさしい兄がこうまで怒る、寝る前の出来事――と、言われても。
存分におもちゃで遊び、カイトがぐったりとして反応も出来なくなったところで、昨夜はお開きとなった。
汚れた体はがくぽがきれいにしてやって、もちろん、自分の部屋に引き上げることなく、そのままぐったりした兄を抱きしめて、同じベッドに眠った。
だがそんなことは、いつものことだ。今さら怒られるようなことなど。
「がぁくぅぽぉ……………本気?本気なの?本気で言ってるの?!」
「えっ、えっ、えっ……………だ、だってだってだって、もともとがくぽは兄様といっしょに寝るつもりで」
「違うでしょ!いつもと違うことがあったでしょ?!!」
「ぅ、ひぃいんっ?!」
とうとう泣き声を上げたがくぽは、あろうことかじりじりと、兄から逃げだした。そんなことはこれまで一度もなかった。
もちろん、カイトは逃がさない。ダイニングの中へじりじりと後ずさっていく弟を追って、ずいずいと迫る。
がくぽの腰がダイニングテーブルに当たって後退出来なくなったところで、カイトは爪先立って、泣きべそを掻く弟へとずいっと身を乗り出した。
「い、入れっぱなしに、したでしょ!」
「い、いれっぱな…………?」
「そうだよ!」
パニックに陥るあまり、言葉を理解できずにくり返すだけのがくぽに、カイトは真っ赤になって頷いた。
「入れっぱなしにしたでしょ、おにぃちゃんの……………お、………ぉしり、に……………ばぃぶ…………」
「………………………………………………………………………………………ああ。そういえば…」
さすがに勢いを失って消えていった語尾だが、必要なことは聞こえた。
しばらくぽかんとしていたがくぽだったが、ようやく納得して頷く。頷いたが、ぽかんとしたまま、真っ赤になって俯く兄のつむじを見つめた。
「え?だめなんですか?」
「っっっ!!!」
「えええっ?!!」
おそらく目からビーム機能があったら、がくぽは完全に黒焦げにされていた。
あとあと激しく後悔することが目に見えているので、双方のためにもそんな機能がなかったことは幸いだったが、それくらいに威力のある、カイトの抗議の視線だった。
――そう、疲れきってぐったり沈み、もはや拘束されずとも抵抗がままならないカイトに、がくぽは入れたまま寝ろと強いたのだ。
なにを入れたままと言って、さんざん遊んだバイブを、どこに入れたままと言って、もちろん。
スイッチを入れられるわけでもなし、突っ込まれただけといえば、突っ込まれただけだ。
極度の疲労状態にあったカイトは、そのまま意識を失って、朝。
弟のほうは疲れきった兄を癒す、おいしい朝のお茶を淹れるべく、先に起きた。「入れっぱなし」のまま。
カイトの目覚めは、実に刺激的だった。
朝からそこが、解かれている。のみならず、開かれて飲み込んでいる。
突っ込んだだけの無機物だし、カイトのいいところを殊更に抉ってくれるわけでもない。
それでも朝からこんなものを咥えていては、昨夜の残り火が簡単に息を吹き返してしまう。
どうにかこうにか苦労して、あまり刺激しすぎないようにと自分で抜き取ったが、下半身はがくがくだ。パジャマの衣擦れだけでも、声が上がりそうになる。
「に、にぃさま……………」
「タイヘンなんだから……………っ!!」
わなわなと震えるくちびるで、羞恥に気を失いかけながら説明したカイトを、がくぽは呆然と見ていた。
しかしやにわに自分を取り戻すと、引き気味だった体を兄へと戻す。
言われてから見てみると、微妙にぷるぷる震えているような気がする体を腕に抱き上げ、大股でダイニングから出た。
「ちょ、がくぽっ?!おにぃちゃんの話、聞いてたっ?!」
反射で首に手を回しながらもそう叫んだカイトに、がくぽは淀みなく足を進めながら、まっすぐ真剣に頷く。
「はい、聞いてましたわかりました!がくぽが悪いです。がくぽがひどいです!そんな、朝からムラムラの兄様を放って起きてしまうなんて、怒られても仕方がないです!!」
「むらむ?!!ちょ、がく、っ」
意思の疎通が図れていない予感に引きつったカイトに対し、がくぽの顔はあくまで誠実で、真剣そのものだった。
「大丈夫です、兄様!がくぽがきっちり責任を取って、兄様のお体を鎮めて差し上げますから!!」
いつもの甘ったれさんが嘘のように力強く請け合う弟に、カイトはぱくぱくとくちびるを空転させた。
責任を取って、鎮めてくれるという。ムラムラする体を。
それはつまり――
「ちがうでしょぉおおお?!!!」
カイトはがくぽの首にしがみついたまま、絶叫した。