B.Y.L.M.-ExtraEdition
Melody-scene1
「そういえば、がくぽ…今年のおまえの生まれ日の祝いだが」
「去年と同じがいいです」
「………」
カイトが皆まで言い終わるのを待つこともなく、少年の夫はきっぱりと言いきった。押し被せるような言いだ。決して譲らないという、強い意志が透けて見える。
寝台上のカイトを見据える花色の瞳にも――
否、そう、『見据える』だ。
娶って数年を経ても、褪せず強まるばかりの溺愛を捧げる妻を相手に、目を据わらせて夜の夫は言う。
よほどに意志が強いわけだがしかし。
「がくぽ…」
「さもなければ、昨年と同じがいいです。だめなら前年と同じか、でなければ先年と同じ…」
「がくぽ」
強い口調まま言い募るがくぽに、とうとうカイトは額を押さえた。覆う手のひら、その指の隙間からわずかに窺える表情は眉をひそめた渋面で、がくぽの答えがよほどに悩ましいと、そう――
ややして、なんとか感情を抑えたカイトは顔を上げ、なにかしらの覚悟を固めている様子の夫を再び見た。
「私がおまえの妻となってから、生まれ日の祝いは、幾度かあった。初めの年はなんだかんだの結果、知らぬままに過ぎ越してしまい、祝ってやれなかったが…」
「そんなものは」
「だがいいか」
反駁しようとしたがくぽの言葉を、カイトはより以上に強い声を押し被せ、潰した。
微妙に怯んだ顔の少年を見据え、カイトはひたひたと告げる。
「今、おまえが強請ったものは、どれもこれも同じだな?選択できる態で言っているが、実際、選ぶ余地などまるでないではないか。なにを選んでも同じ、一択だろう!」
「…っ」
その糾弾には、さすがに気まずい思いが募ったのだろう。少年は軽く、目を泳がせた。
目を泳がせ、声からも強さがなくなって、どもり閊えながら、譲歩をつぶやく。
「ならば、一昨年と同じ…」
「がくぽ」
渋面というより、諦念に染まって、カイトはため息を吐きだした。ため息とともに、言う。
「『選択肢』の意味を、もう一度、学び直しなさい…」
ENDorTOBECONTINUED...