B.Y.L.M.

ACT7-scene7

がくぽの手が無造作とも言える勢いで伸び、カイトが制止の声を上げるより先に、足首を掴む。

「ひぁっ、ぁあああぅ!」

くっと力いっぱいに掴まれて、カイトのくちびるから迸ったのはほとんど悲鳴だ。ほとんど悲鳴に近い、絶叫のような嬌声――

続く愛撫を待ってゆるゆると震え、膨れていた男性器はそのまま、感覚だけが絶頂に押し上げられる。きつく、長い。痛いほど強く、そして治まらない。

なぜならがくぽが足首を掴んだままだ。根へと意味を変えた結果、体のなかでももっとも鋭敏にして繊細を極める部位となったそこが、いのちを預ける先と定めた夫に。

カイトの煽り方が煽り方であったため、ことの初めこそ少々手間取ったがくぽだが、始めてしまえば早かった。

不慣れなのは『甘えてくれるカイト』の扱いであって、しようとしていたこと自体ではないからだ。

誓約した通り、求められた通り――がくぽは丹念に、カイトの体を舐め辿った。少なくとも今の時点で、上半身においてがくぽの舌が這わなかったところは、およそないとカイトは言いきれる。

正直カイトとしては、常に血気に逸って挑んでくる夜の少年に、そうできるだけの根気があるとは思っていなかった。いずれ昂奮が過ぎ、妻たる身を激しく求めてくるものだろうと。

甘く見ていた。

甘く見ていたら、上半身は舐め尽くされ、がくぽはいよいよとばかりに下半身、足へと手を伸ばした。

だから、根だ。

カイトの足は、見た形こそひとのときと変わらないが、実際は『根』だ。見た形はそのままに、意味を変えた。植生にとっての心臓部、まさにいのちを繋ぐ場所へと。

もっとも鋭敏にして繊細を極める花のそこに、触れられるのはカイト本人を除けばただひとり、根づく先と定めた夫、がくぽだけだ。

がくぽ以外が触れることは、赦さない。赦せない。が――

それはそれの、これはこれだ。

感覚器の尖り方は、花と変じたことで増えた、カイトの悩みのたねのひとつだ。

自分で触れるぶんにはまだなんとかなるが、がくぽが触れるとなると、だめだ。わかっていて、用心し、最大限に覚悟を固めても、感じてしまう。なにを感じるといって――

普段、なにげない日常のなかでたまさか触れられても、あられもない声を上げてしまうのだ。こういった、あからさまな行為の最中となれば、ひとたまりもない。

「ゃあ、ぁくっ、ぃいっ、そこ、そこは、ひぁああぅっ」

手を離してもらえない以上は、止まらず絶頂し続けるようなもので、カイトは惑乱しながら叫び、容赦を乞う。

しかしがくぽが聞き入れることはなく、びくびくと痙攣し、跳ねる足をしっかり掴んだまま、離そうとしない。

どころかくちびるが近づき、がぷりと、足首に喰らいつかれた。

たとえ手で鷲掴みはしようとも、この美貌を足蹴にするのは、カイトも気が引ける。気が引けるが、過ぎる快楽に起こす痙攣が激しく、いずれやりそうな危惧がある。

「ひ、ぅう、ぁ、あ……っ」

「赦さないとおっしゃったのは、カイトさまでしょう」

「ぁく、ぅ……っ」

もはや意識も遠く、引きつるように喘ぎ震えるカイトから、がくぽはくちびるを離さず、足首から足の甲、足指へと辿って、陶然と笑う。

ある程度、予測はついていたがやはり、ためらいもなく足指を口に含んでしゃぶられ、カイトはぼろりと大粒の涙をこぼした。

咽喉が鳴って、息が詰まる。

快楽も過ぎれば拷問だ。少なくともカイトはそう学んだ。がくぽに妻として娶られてからだが。

――この体は、男相手に淫奔だ。

何度もなんどもこころに刻んだことを、また刻む。

この体は、男相手に――夫を相手に、淫奔だ。放埓に、どこまでも淫らがましく愉しみ、悦ぶ。

食事なのだと、説明された。そうやって、夫の精を、力を喰らっているのだと。

ひとが肉を、菜を食すように、カイトは夫を喰らう。

――ちがう。

震えながら寝具を掴み、懸命に息を継ぎながら、カイトはきつく、瞼を閉じる。

閉じて、寝具を押しつけて洟を啜った。

こうすれば、がくぽからの香りがわずかにやわらぐ。花たるカイトの『食欲』をそそり、煽り立てる雄の香りが。

カイトから立ち昇る香りは抑えようがないが、いい。応えたいのは、カイトだからだ。

カイトが妻として振る舞ったことを、無邪気に歓んでくれた幼い夫に――

花ではなく、妻であることを歓んでくれた夫に、花として返すのではなく、妻たるカイトが応えたい。

未だ、妻としての振る舞いはわからない。自分がどうするべきなのか、どうしたらいいのか、どうしたいのか、なにをすべきでなく、する必要もなく、しなくてもいいのか。

なにもわからないまま、けれど、これはしたくないということだけ、はっきりしている。

花ではなく妻として愛おしんでくれるがくぽに、花として応じて返すのは、したくない。

妻としてどう振る舞うものか、未だわからないとしても、だからと花としての行為に替えたくない。

――思えばずっと、がくぽはカイトをまず妻だと、主張はしていたのだが。

「カイトさま……カイトさま」

「ん、くぅうっ、ぁ、はぅうっ」

うわごとのようにつぶやきながら、がくぽは足指から上のほうへとくちびるを辿らせていく。

丁寧な舌遣いであり、愛撫というより、奉仕といった感が強い。これ以上なく淫らがましい振る舞いのはずだというのに、なぜかひどく禁欲的にも見える。

それで感じて喘ぐのも、カイトは自らがずいぶん浅ましい気がしていたたまれないが、やられている場所が場所だ。

ほかのところなら平静を保ってもみせるが、足は無理だ。とてもではないが、喘ぐ声も身悶えることも堪えられない。

どころか、感覚がずっと追い上げられ、高みに昇ったままだ。視界が白く瞬き、意識が遠のく。

意識が遠のけば、きっとこの体はもっと放埓に、淫奔に――

花として、交合を愉しむだろう。幼い夫を思う存分に貪り喰らって、恥じ入りもしない。

「んんぅ……っ」

「……カイトさま」

くっとくちびるを噛み、弾ける思考と視界とになんとか耐えたカイトを、がくぽが呼ぶ。喘ぎ、荒ぎながら、どこか案じる色がある。

放埓に愉しむとは対極にあるような、カイトの今の様子だ。懸命に堪えていることは、わずかに俯瞰すればすぐわかる。

とはいえ、昼の青年ならともかく、夜の少年なら気がつかず、押し流していただろう態度だ。

最中にこまごま相手の様子を窺えるようになるとは、やはりずいぶん成長してと、カイトは鈍く思いを馳せた。

以前の少年といえば、最愛の相手を貪ることに夢中で、とてもではないがその肝心の、最愛の相手の様子を慮るどころではなかった。

最低限の思いやりこそ見せても、すぐさまことに溺れこんだものだったというのに。

確かに、自儘勝手に思いを馳せる愉しみはないが、安堵はある。この絶望は、裏を返せば希望だ。

夜の少年はきっと、昼の青年と同じく、育つだろう。

少し利きすぎるほど気が利いて、過保護なほどに世話を焼き、豪放さと繊細さとを併せ持つ、見た目だけではなく中身も充実した、すばらしい男に。

震えながら、カイトは涙に滲む視界を凝らした。ほんのわずかに足を放し、無体を敷きすぎていないものかと窺うがくぽへ、弱々しい手を伸ばす。

「は………」

垂れる長い髪に触れて、カイトのくちびるからは吐息がこぼれた。知らず、微笑む。

自覚もなく、陶然と笑って夫を見やり、カイトは戦慄くくちびるを懸命に開いた。

「わたし……が、ねだった……の…から………わたし、が、……………した、い」

「………」

涙に霞んでよく見えないが、がくぽは瞳を瞬かせたようだ。おそらく、カイトの断片的にも過ぎる言葉がなにを指しているものか、理解できないと。

青年の、すっと切れたそれと比べればまだ丸く、あどけないとも言える瞳が、カイトを見つめ、――

ふわりと歪むと、うつむいた。

うつむき、がくぽは小さく、首を振る。それで髪を掴んだカイトの手をほどき、自由を取り戻した。

一度は離した足へ、がくぽは再度、手を伸ばした。素早く掴むと割り広げ、カイトがなにを言う暇もなく、大きく開いた口ががぷりと、太腿に牙を突き立てる。

「ゃっ、っっっ!!」

びくりと大きく跳ね、カイトは仰け反って震えた。ぼろりと、新しい涙が溢れるのがわかる。

普段、なにもないときなら足首のほうが鋭敏であり、膝上の感覚は言っても、そこまでではない。しかし今、こうしている最中なら、太腿の鋭敏さも図抜けている。

大きく開かれた足の間、次の愛撫を待っていたカイトの男性器が痙攣しながら、とろとろと体液をこぼす。男性器に因らない絶頂をくり返したせいで、らしく勢いをもって噴きだすという段階にはない。止める手立てもなく、ただこぼれる。

太腿には軽く牙を立てただけですぐ離れ、がくぽはその、自前勝手に体液をこぼすものにしゃぶりついた。

「ん、んん……っんちゅ、んぷ、ふ……っ」

「ゃ、ぁく……っ」

ちゅぷぴちゃと、小さな動物が水を飲むにも似た音を立てながら、がくぽはカイトの男性器を吸い、しゃぶり、頬張って味わう。

じゅるりと吸い上げ、少年の咽喉がこくりこくりと嚥下に動いた。

余すことなく飲み干すさまがわかって、カイトは首を振る。横だ。

「が、くぽ」

「最前から言っていますが、花の蜜です。こぼすほうが、どうかしている」

「………」

「その、…」

制止する意図の声に、わかっているがくぽは素早く、いつもの答えを返す。

それはお決まりの問答というものだったが、複雑なこころ持ちから口を噤んだカイトに、わずかに顔を上げたがくぽもまた、ためらうようにくちびるをもごつかせた。

幼い美貌が羞恥に歪んで、カイトから視線を逸らす。

紅を塗らずとも朱を刷くくちびるが、今はさんざんにカイトの肌で擦ったせいで、罪なほどに染まっている。さらには体液をまとわせて潤み、これ以上ない淫靡の光景だ。

いけないと思っても目が離せず見つめるカイトに、がくぽはようやくくちびるを開き、清冽を吐き出した。

「そう、あらずとも………あなただ。なにもかも、愛おしいあなただ。俺の愛撫に応えてくれた証を、どうして味わわずにおれるものか。たとえ野蛮と謗られようが、これはあなたが俺に応えてくれている証だ。うれしくないなら、愛情などない」

「……っ」

口早に言いきられたことに、カイトは瞳を見張った。

しばし呆然と少年を眺め、やがてその頬が、昂奮とは別の朱を刷く。熱は頬のみならず、カイトの全身をかっと火照らせ、染め上げた。

――通じていた。

第一は、それだ。

カイトがつぶやいた、どうにか吐きだした断片の想いは、きちんと幼い夫に伝わっていた。理解してくれた。

花が、食事に勤しんでいるのではない。いのちを繋ぐため、仕様がなしに、しているのではない。

カイトが、がくぽに応えたいのだと。

未だ至らぬ妻なれど、底深い愛情を注いでくれる夫に応えてやりたくて、いるのだと。

わかってくれたからこそ、がくぽはいつもの切り返し――花の蜜だからという、それだけで終わらせなかった。

花ではなくカイトそのものを想えばこそ、していることだと付け加えて返してきた。

その是非はともかくとしてだ。

断片しか差しだせない自分の不甲斐なさに歯噛みしながら、カイトはどうにかわかってほしいと、希っていた。

気がつけばきっと夫は、自分の想いがひとりよがりなものではないと知れるだろう。

報われる想いなのだという実感は、先を担う肩を軽くするはずだ。

未だすべてではなく、多少でしかないとしても、希望は希望だ。なによりその希望は、――

カイトのこころを過った第二にしても第三にしても、同じだ。これに尽きる。

通じていた。

――と、改めてわかると、やたら気恥ずかしいという。

もちろん伝わらなかったら、それはそれで複雑だ。きっと、昼の夫なら敏く拾ってくれただろうにと、カイトは口惜しく思うだろう。

夜の少年にも伝わるやり方が取れなかったものかと、年長者たる自分の余白のなさを、責めるはずだ。

とはいえ、だからといってこうも曲がらずまっすぐ拾われ、返されると、またそれはそれというもので、やはり自分の余裕のなさが身に沁みて、いたたまれない。

いたたまれず、羞恥の極みではあるが、こぼさず拾ってくれた少年が、まっすぐと返してくれたことが、うれしい。

カイトが想いを返してくれることは、報いてくれることはうれしいことなのだと、まっすぐに応えてくれた。

想像のまったく埒外にあった状況に、未だ思いきれず、引いた一線を越えきれないカイトだ。

けれどそうやって想ってくれるなら、返してくれるなら、いずれ足を踏みだすきっかけになる。踏みだそうというときに、背を押す勇となる。

実際にはカイトの足は、もはや滅多なことでは動かないのだが――しかし、そう。

彼のもとになら歩いていけると、証立てたばかりだった。

お高く留まって、よほどのことでもない限り動かないこの足だが、がくぽのもとへなら最後、歩くことも選択する。

「ん、ぅ……っ」

なんともし難い間を挟んでから、カイトはとろとろと手を伸ばし、がくぽの長い髪をひと房、掴んだ。

体の一部とはいえ、髪に温度はない。夜も昼もで蒸し暑い南方での、ひたすら熱されるばかりの行為のなか、ひやりとした感触は心地よく、カイトの表情は自然、緩んで蕩けた。

隠し立てのいっさいもなく感情があらわとなったその顔で、カイトはがくぽを見つめる。

「もう………お、ぃで、が、くぽ――もっと、深、く………おまえだけ、に…ゆるした、ところ、に………ゆるす……の、は……おまえだけ、……だ、から」

「…っ」

羞恥に閊えながらも懸命に誘うカイトに、がくぽはこくりと咽喉を鳴らした。

手が伸び、長い髪を弄ぶカイトの手に重ねる。そっと剥ぎ取られ、繋がれ、甲にくちびるが落ちた。誓約であり、忠誠であり、なによりの情愛を顕すものだ。

次の瞬間には手がほどかれ、カイトはさらに大きく足を割り開かれた。妻として躾けられた場所に夫の雄たるが宛がわれ、捻じこまれる。

「ぁ、ふぁあっ!」

「かい、と、さ……っ」

悲鳴に似た嬌声を上げるカイトと、苦鳴にも似た享楽の呻きをこぼすがくぽと――

「ん、く、ふ……っぅ、っ」

現金な足はすでにがくぽの腰に絡みついていたが、カイトはそっと注意深く、手をも伸ばした。伸し掛かる幼い夫の背に回す。

昼の青年に比べれば敵わないが、きっと同年代の少年と比べれば遥かに筋肉質で、硬いそこだ。

筋肉質で硬く、よほどに頑丈だとわかっていても、カイトは肌をよく辿り、しがみつく場所を選んだ。

成長期のただなかにある少年の背には今、瘤がある。これから出てくるだろう、翼の萌芽だ。なかなか皮膚を破れず、腫れ上がって、痛々しい。

気がついて以降、夜、寝る前に必ずカイトが舐めしゃぶって――口づけを与えてやるせいで、痛みはずいぶんと治まっているらしい。が、成長が早くなるわけではない。遅々として進まず、ひたすらもどかしい。

もどかしくはあるが、少年の成長に関われることはカイトにとって愉しく、とてもうれしい経験だった。

これが終わったなら、忘れずまた、舐めしゃぶって――口づけを与えてやりたいが、余力は残るものだろうか。

昼は道理をわきまえているのだが、夜は未だ、みっともない、不甲斐ないと言って、見せるのを嫌がる。ここぞとばかり、抱き潰される可能性も高い。

「カイトさま」

「ひっ、ぁうっ、ぁ、つよ……っ!」

思い企むカイトの気配を感じたか、がくぽがひと際強く、内部のもっとも弱いところを抉った。

衝撃に縋る力が強まり、爪が肉に食いこむのを感じる。次の瞬間には、カイトの顔が反射の怯えに歪んだ。めりこみかけた指が、咄嗟に浮く。

が、怯えは続かせられない。

「カイト、さま…カイトさま………はなさない、で、かいて………もっと、刻んで、あなたを、おれに、カイトさまぁ…」

「ぁ、ぅ……っくっ………っ」

こういうときに限ってやたらと幼く、甘ったれる声を熱とともに切なく吹きこんでくるのが、夜の少年だ。逃げかけたカイトの手にも、力が戻る。

傷つけたくはない。痛みを与えたくもない。けれど、こみ上げるものが堪えられない。

いとけない声で、よくもこれほど淫靡なおねだりを吐きこぼしてくれるものだと思う。

否、いとけないからこそ、背徳感も増してなおのこと、淫靡だ。併せて庇護欲をも刺激してくるから、始末に負えないという。

「ぁ、がく……っ」

腹の内が、じゅくじゅくと疼いて切ない。

硬く熱いもので激しく掻き混ぜられているというのに切なさが治まらず、どころか募っていき、カイトはきゅっと瞼を閉じて首を振った。横だ。否定であり、拒絶だ。

欲しいものは、わかっている。夫の精だ。おいしいもの、とてもとてもおいしい――

ちがう、と。

カイトは首を振って、諸共に思いも振り払い、懸命に夫に縋りつく。

蠢く肉襞に煽られ、促されたがくぽの背が、ぶるりと震えた。同時に腹の内でも大きく脈動し、膨張したものの感覚がある。

「ぁ、あ……っ、ぅ、カイト、さま……カイトさま、ぁ………っ」

「ひ、ぁあ、ぅっ………っ」

かん高く、ひと際甘い声に呼ばれ、カイトは身を強張らせた。直後、腹の内に熱が噴きだすのがわかる。

膨れていく感覚とともに、満たされたという安堵感がこみ上げ、カイトはひたすら懸命に、がくぽにしがみついた。

やがて腹の内でびくびくと痙攣していたものが治まると、カイトは小さな息をつき、腕から力を抜いた。

酩酊感がある。強い。

最前に、がくぽが言っていたことがある。どうにもカイトはがくぽの体液で酔うようだと。

そのせいもあって、カイトは一度、体内への放出を受けると際限なく、何度となく強請ってしまう。

花ではなく妻が応えたいと思っても、結局、花だ。まず妻ではない。まず、花だ――

くすんと洟を啜って、カイトは間近にあるがくぽの顔を覗きこんだ。さすがに息が荒い。焦点もぶれている。

すぐにも次を強請りたい気持ちが募ったが、カイトはこくりと咽喉を鳴らし、呑みこんだ。

「かい……」

なにか言いかけた夜の夫へ、カイトは残る快楽に震える手を伸ばした。そっと、頬を撫でる。弱々しい笑みが、浮かんだ。

「背、を……翼」

「っ!」

――皆まで言わせることなく、放出の余韻に蕩け崩れていたはずのがくぽは、がばりと起き上がった。くったりと蕩けきったまま、力なく横たわるがせいぜいのカイトの腰を、しっかり抱え直す。

「がくぽ」

「ぁ、そのっ、…っ」

見つめるカイトに、がくぽはにっこりと笑い返した。引きつって、歪んだ笑みだ。戦慄くくちびるが空言をこぼそうとして叶わず、虚ろに開閉をくり返す。

気難しい年頃の少年だ。言いたいことを言うどころか、日常の必要なことですら、言葉に詰まる。

こういったことを咄嗟にうまく誤魔化す言葉など、すんなり出てこないだろう。

理解して目を眇めていくカイトに、がくぽは結局、言葉を諦めた。

視線だけで軽く天を仰ぐようにしてから諦めて、カイトへ顔を寄せる。引きつりながらも蕩けるという、複雑かつ器用極まる笑みを浮かべた顔だ。

「がく…」

「もう――ひとたり」

精いっぱいの言い訳をささやいたがくぽはカイトの答えを待つことなく、首筋に顔を埋めた。すんと、鼻が蠢き、香りを内へと取りこむ。

がくぽは抱え直したカイトの腰に、力を取り戻した自らの雄を再びきつく、抉りこませた。