あんじぇりあ・くあまりん-03-
「ん、んん………んちゅぅ…………ぅ、ふ、………ん、んんっ、ぷはっ!」
ぶるりと大きく震えて、カイトは含んでいたがくぽのものを口から抜き、背中を仰け反らせた。
「んっ、ぁ、あっ………っ、ゃぁあんっ、がくぽさまぁ………っ」
「カイト」
甘く啼くカイトに、がくぽは濡れそぼったくちびるをちろりと舐める。掴んで引き上げた腰に、わずかに指を食いこませた。
「啼くも良いが、口を留守にするな。出来ぬと言うなら、やはり薬を」
「ゃっ!!!」
がくぽが言い差した途端、蕩けきっていたカイトの背がびくんと跳ねて固さを思い出し、逃げを打つ。
この反応がわかっていたがくぽだから、むざむざと逃すことはない。膂力の差に物言わせて、カイトを自分の体の上に跨らせた状態に戻した。
「が、がくぽさま………」
潤む瞳で振り返るカイトに、がくぽは歪んだくちびるを舐めた。
「使われたくないなら、きちんとやれ。そなたの唾液で、たっぷりと我の雄を濡らせ」
「ん………っ」
命じられて、カイトはこくりと咽喉を鳴らす。
自分の体の上に伸びる、なだらかにしてなめらかなカイトの背を目で辿り、がくぽはため息を噛み殺した。
――あれでいて、がくぽは精いっぱいにカイトを思いやったのだ。
馴らしてはいても『初めて』のカイトに対し、がくぽは積年の思いを堪えることが出来なかった。
確かにがくぽは武将で、おそらく常人より多少は、旺盛だ。だからといって四日の間、閨に篭もりきりになるほどではない。
あからさまに、カイトに溺れたのだ。
ようやく晴らせる想いに、がくぽの体はこれまでになく亢進し――結果として、初めての相手に無茶をやった。
いくら愛しくても、うれしくても、怖いものは怖い。
初めてでありながら有り得ないほどの無理を強いられたカイトは、行為への恐れを抱いただろう。性格的に考えて、意識もしないまま、できないままに。
それまでに関しても、がくぽは酒酔いの力を借りて、無理やりにカイトの体を馴らしてきた。
愛しているとささやかれて弾む心と、行為への恐怖とは、別だ。たとえ心底から、愛している相手であっても。
二度目が、正念場となる。
カイトの体の回復や、がくぽの都合諸々があり、かなりの日数が空いての二度目だ。
ここで組み伏せたときにおそらく、カイトの心に知らず降り積もっていた恐れが表出し、がくぽを拒むことになるだろう――
がくぽ自身も辛いが、本当に辛いのはカイトだ。
その二度目は、念願叶っての祝言の夜、いわば『初夜』で、幾重にも特別な意味を持っている。
だというのに、大好きながくぽさまを受け入れられない――自分には、制御も出来ない恐怖によって。
カイトの悲哀も混乱も察して余りあったし、だからといってつきっきりで慰めてやることも出来ない。
思い悩んだ末に、がくぽは薬を使うことにしたのだ。
根本的な解決にはならないし、一時凌ぎだとわかってもいる。薬で無理やり亢進させるなど、誤魔化しだ。
しかし時間がないというのに、四の五の悩んでいるわけにもいかない。
カイトの心が負ったであろう傷を癒すことは、祝言が終わり、日常が戻って来てから存分にやればいい。
今はとにかく、新たな傷を作らないようにすることが先決。
――だからがくぽとしては、精いっぱいにカイトを思いやったうえで、媚薬などを使ったのだ。
多少、騙し討ちになったことは、認める。だがそのおかげでカイトは、己の心の裏切りに戸惑うこともなくがくぽを受け入れ、無事に『初夜』を済ませた。
次からに関しては、がくぽも覚悟を決めて、『カイト』に存分に付き合うつもりで――
「いやです!」
次の夜、カイトが逃げを打ったときにも、がくぽはやはりと思っただけだ。
瞳を堪えきれない涙に潤ませて、怯えに震えながら逃げを打ったカイトに、がくぽは心中激しく項垂れつつも、平静な顔を装った。
それだけのことを、自分はしてきた。
自覚もあるがくぽだから、夫を拒むのかと憤ることもなく、身を引く新妻を眺めた。
そのカイトは、ぷるぷると哀れなほどに震えつつ、涙を懸命に堪えてがくぽの手を――いや、がくぽの手が持つ、塗り薬の壺を見ていた。
しばらくしてカイトは、ぐすぐすと盛大に洟を啜りつつ、縋るような視線をがくぽへ向けた。
「お、おくすりは、お薬は、いやです。それは、使いたくありません」
「………これは、この間のものとは違う。単なる軟膏、潤すだけのものだ。亢進はさせん」
カイトの言葉に、がくぽは軽く眉を跳ね上げて、壺を振った。
それでもカイトは、ぷるぷると激しく首を横に振る。
「いやです。お薬は、お薬は、いやです。ね、がくぽさま、お願いです………お薬は、使わないでください。カイト、なんでもしますから、お薬だけは……」
「………」
今にも平伏しそうな風情で嘆願するカイトに、がくぽは苦虫を噛み潰したような顔になった。
思いやりが裏目に出ている。
――残念なことに、よくあることだ。
もうひとつ悩ましいのは、これが単に『薬がいやだ』という訴えなのか、そこから踏み込んで、行為そのものがいやだと言っているのか、判別つき難いということだ。
「しかし、潤さんことには、とてもではないが……」
とりあえず鎌をかけたがくぽに、カイトはぐいっと身を乗り出した。
「あ、あのっ!ね、濡れていたら、いいんですよね?びちゃびちゃだったら」
「……カイト。だからといって水をかけるというのは、無意味だぞ。ある程度、粘性があって……」
言い聞かせつつ、がくぽは微妙に頭痛を覚えた。どういう説明をしているのかと思う。
カイトのほうは、夫の苦悩に構わない。乗り出した身はそのままに、ちろりと舌を出した。
「あの、舐めるのでは、だめですか?カイトの唾液を、がくぽさまのに、いっぱい………」
「………」
間違いなく、頭痛が激しくなった。
どうしてこうも無邪気な表情で、そういうことを言うのだろう。
カイトの口淫なら、がくぽがしっかりと仕込んだ。巧みとまでは言い切らないが、まったくの下手ではない。
なにより、カイトが含むということが、すでに――
「ね、カイト、がくぽさまにご奉仕します。いっぱいいっぱい舐めて、唾液をつけて、濡らしますから……」
むしろ熱に潤んで言われて、がくぽにこれ以上の反駁も思いつけなかった。
「………わかった」
「っ!」
頷いたがくぽに、カイトはぱっと表情を明るくした。
とりあえず、舐めさせてみればいい。
そこで拒絶反応が出るようなら、それはそれでまた考える。
思い決め、がくぽは屈もうとするカイトの顎を捉えて押さえた。
「がくぽさま?」
「ただし、我だけ濡れても仕方ない。薬であればそれで十分だが、唾液では無理だ」
「………でも、がくぽさま」
「ゆえに、我も舐めて濡らす。こちらに尻を向けろ」
「え?えっ?ええっ?!」
こういうことで、下手に考える時間を与えるのは逆効果だ。
がくぽは言い切るや、力の差に物言わせて戸惑うカイトを後ろ向きにし、自分の体の上に寝そべるような形にした。
そのうえで襦袢をまくり上げ、カイトが事態に追いつく前に、愛らしい蕾へと吸いついた――
そうして、互いに互いを舐め合うこと、しばらく。
「カイト。出来ぬのなら」
「ゃっ、できますっ!」
――無理はしなくていいぞと、今度は続けるつもりだったがくぽだが、カイトは慌てて首を振り、再び屈みこんだ。
躊躇いもなくくちびるががくぽを含み、とろとろと唾液を垂らしながら舐めしゃぶる。
含まれた瞬間に思わず背筋を震わせつつ、がくぽは突き出されたカイトの尻を割り開いた。
「んんっ、んっ、ん、ぷはっ、ぅ…………ん、ちゅ………っぁふ………ふぅ、あ………っ」
がくぽが舌を這わせるたび、指で奥深くを抉るたび、カイトの口淫は中断して蕩けた啼き声が上がる。
本音を言うなら、がくぽにとっては役得だ。
カイトの体を思えば、唾液などより軟膏を使ったほうが、何倍も負担を軽減できる。だからこそ使うことを提案するが、舐めていいというなら、それに越したことはない。
他の相手なら大して舐めたい場所でもないが、他ならぬカイトだ。全身隈なく舐めて味わい蕩かしたい延長で、がくぽの凶器を健気に収めるここも、舐め解いてとろとろにしてやりたい。
濡れて反り返り雫を垂らす男性器も、今ではなにより愛おしいカイトだ。
これがあるために、カイトもいつかは女を求めるかもしれないという危惧を抱き、一度は嫌悪した。
しかし今は、これ以上なく愛おしい――がくぽの施す愛撫に、堪え性の欠片もなく何度も勃ち上がり、雫をこぼし続けるそこは、言葉にもされず、赦しを与えられているような気がする。
「ぁ、も……っ。がくぽさまぁ……っ、んっ。……ぁ、カイトに、がくぽさまの、ちゃんと舐めさせてくださいぃ……っ。そんな、ぐりぐり、しないでぇ……っ。カイト、がくぽさまの、舐めたいですぅ……っ」
「………?」
熱に浮かされたカイトの訴えに、がくぽはわずかに眉をひそめた。
なにか、どうも――言われていることを考えるだに、違和感と言おうか。
自分が、思い違いをしているような予感が、しないでもない。
「………カイト」
「ん、ん……っ、は、んちゅ………んんん、ぁふ、は、ちゅぅう……っ」
「………」
カイトは太く逞しく育ったがくぽを懸命に口に含み、しゃぶる。含んでいることも辛くなると口から出して、べろりと伸ばした舌で舐め回す。
がくぽは瞳を細め、雄を舐めしゃぶるカイトの表情を眺めた。
「ぁ、ん………んんん、ふ………っぅちゅ………んんん………っ」
「………まさか、な……」
思いついたことに、いくらなんでもさすがにどうだと、がくぽはくちびるを歪める。
あまりに願望が過ぎる。
――が。
「んん………ぁくぽ、さまぁ……おしる、とろとろ………」
「っく」
甘えきった声で言われたのが、敏感に尖った場所にくちびるをつけたままでだ。
堪えきれずに呻いてから、がくぽはわずかに体を起こした。
逆さになるカイトの顎を掴み、自分へと向けさせる。
「……ぁくぽ、さま?」
「カイト、そなたな………」
不可解そうに見つめる瞳が蕩けきって、まるで薬を使ったかのようだ。いや、薬を使ったなどより、もっとずっと――
「まさか、単に俺のをしゃぶるのが好きだと、言うか?」
「っ?!!」
「……あ、いや」
熱を吹き飛ばして瞳を見張ったカイトに、がくぽは己の口の迂闊さを悔やんだ。
思うのは自由だが、口に出して言うことではない。
いや、そんなことを思うことがもう、どうかしている。
カイトに口淫を教えたのはがくぽだが、望まれてではなく、『姫』としての教育の一環だった。『男』に奉仕する方法を覚えれば、もっと『女』らしくなるだろうと、――はっきり言うなら、無理やりに。
怒りに任せてカイトを仕込んだ数年は、悔やんで取り返したい数年だが、今となってはどうにしようもない。
それでもカイトは健気にがくぽを想ってくれたが、だからといって反省もなく、図に乗っていいということではない。
狼狽えて顎から手を離したがくぽに、ぎょっとした顔をしていたカイトは、すっと目を伏せた。きゅっとくちびるが歪み、がくぽのものに添えた手にも力が入る。
仄かな行燈の光に浮かぶ、カイトの表情を言葉にするなら――
「……………カイト?」
「ぅ、あ、だ、だって……っ!カイトの口で、気持ちよくなってくださってるんだって、………いっつも落ち着いていらっしゃるがくぽさまなのに、こんなにいやらしい気持ちになってくださってるんだって……っ」
なにかしらの予感を抱いて呼んだがくぽに、カイトは瞳を伏せたまま、慌てて言い訳を連ねる。のみならず、がくぽの『いやらしい気持ち』具合を表す場所を掴む手にも、きゅうきゅうと力を込めた。
力ないカイトだが、そこそこ痛い。
「カイト、少しう…」
「が、がくぽさまの、おっきくてふとくって………っ。それで、あっつくって、おしるとろとろで……っ。すっごくいやらしいお味だから、舐めてると、カイトまでいやらしい気持ちになっちゃって、もっともっとって、止まらなく………っ」
「カイトっ!」
口早に言い募られる言い訳が、完全にあらぬ方に行っている。
これ以上聞いていると、今度こそはやさしく、カイトの望みに添おうと思っていたがくぽの心が挫ける。
今ですらもう、余計なことを言い立てる小さな口の中に、漲る自分を押しこんで突き上げたくて、堪らない。
がくぽは慌てて体を起こし、ついでに自分に跨っていたカイトの体も抱え直す。
膝に抱いてやると、カイトは反射で首に手を回しつつ、潤む瞳で窺うように覗きこんで来た。
「がくぽさま?」
「………わかった。わかったゆえな………」
「………はい?」
疲れ切ったようながくぽに、カイトはきょとりと首を傾げる。
そのカイトに顔を向けつつも微妙に目線は逸らし、がくぽは再度確認した。
「しゃぶるのが、好きか」
「………」
カイトが瞳を見張ったことが、視界の端に映る。たとえ仄明かりしかなくとも、ここまで至近距離となれば表情の見間違えようもない。
首に回った腕にきゅっと力が篭もり、いつもまっすぐなカイトの瞳が羞恥に歪んで俯いた。
「………はい。だぃすき…………っ」
「………」
答えは甘い吐息として吐き出され、カイトはねこのように擦りついてくる。
がくぽは天を仰ぎ、懸命にため息を噛み殺した。
――育て方を間違えた。
今さら過ぎる感想を胸に、カイトを抱く腕に力を込める。
底抜けに愛らしく、無邪気で、無垢で――淫らに。
これ以上の『姫』が存在するだろうか。
これほどまでに己の思惑通りの、『姫』が――
「………あの、がくぽさま………」
「ああ。………そうだな。今宵は、そなたの望むままにしてやろう。上の口でしゃぶりたいと言うなら、好きなだけしゃぶらせてやろうし、どうしたい?」
「っぁ、が、がくぽさまっ……………」
窺うカイトに、なにかの境地に達したがくぽは非常にまじめに訊く。
まじめだが、訊かれていることがことだ。
カイトは真っ赤になって縋りつく腕に力を込めたが、あくまでもがくぽはまじめに返答を待っていた。
「え、えと、あの…………ぁの、だ、だったら………っ」
想いすれ違う期間は長かったが、基本的にがくぽはカイトを甘やかすことに全霊を懸けていた。
甘えていいのではない。
甘えろという、むしろ命令形だ。甘えないと、拗ねる――
その程度は理解しているカイトは、真っ赤に染まったまま、がくぽへと身を伸び上がらせた。
「あの、あの………っ、まず、まずは、口で、飲みたいです………がくぽさまの子種、カイトの口に……それから、お尻にも………がくぽさまにいっぱい舐められて、とろとろにされたお尻に、カイトが舐めて、びちゃびちゃにした、がくぽさまの………」
「………よしよし。そなたは実に、いい子だな………」
羞恥に染まりながらも、きらきらと瞳を輝かせてはしたないおねだりをこぼすカイトに、がくぽは力なくつぶやいた。その手が、子供相手ままに、カイトの後頭部をやわらかに撫でる。
「がくぽさま……っ、カイト、もう、子供じゃありません………っ。がくぽさまの正室、妻です……っ!」
主張するというより、どこか不安げに、確信が持てないままに言うカイトに、がくぽはうっすらとくちびるを笑ませた。
撫でていた後頭部を掴むと押さえこみ、濡れるくちびるにくちびるを寄せる。
「当たり前だ。子供ではなく妻であればこそ、こうも淫らがましく振る舞わせる」
「ん………っ」
重ねて口の中を探れば、いつもは甘い味が、わずかに雄の苦味を伴っている。先までしゃぶっていた、がくぽの垂らしたものだ。
こそげるように漁り、カイトがくたりと力を失ったところでくちびるを離して、がくぽは笑った。
「我が唯一にして最愛の妻のおねだりだ、すべて聞いて叶えてやろうからな。そなたも妻として、我への奉仕に尽くせよ?」