ぴちゃぴちゃと、ねこが水を飲むのにも似た音が響く。

の見えざる計都

「ん……んく、んちゅ……ぷは、ん……っ」

夢中になって舌を閃かせ、啜り、咥えこむ。

足元にうずくまり、がくぽのものを懸命にしゃぶるカイトは、興奮に頬を染め、瞳を潤ませている。

座敷の柱に凭れた形で足を崩して座り、下半身だけ寛げた姿のがくぽは、愛撫に熱中しているカイトを瞳を細めて眺めていた。

上手とは、言い切れない。

初めより、上達したことは確かだ。しかしどうも本人が興奮してしまうと、舌使いが覚束なくなってくる。

「ん…………んぷふ、……んくっ」

しとどに唾液を垂らしてがくぽのものを濡らしながら、カイトは滲む先走りを啜っては飲みこむ。

「カイト」

がくぽは笑いながら、カイトの頭を撫でた。やわらかな髪を梳き、軽く掴むと持ち上げて、こちらに顔を向けさせる。

とろりと蕩けて理性のなくなった瞳で見つめられ、がくぽのくちびるはさらに緩んだ。

「旨いか?」

からかうように訊くと、興奮に染まっていたカイトの頬は、さらに赤くなった。

恥ずかしげに瞳を伏せて、けれど結局、素直にこくりと頷く。

「おいひぃ、です……」

「っ」

先端にくちびるを添えたまま答えられて、がくぽはびくりと竦んだ。

答えの中身と刺激の相乗効果で、今のはかなりキた。

がくぽの反応に構うことなく、カイトはとろりと蕩けきって微笑む。

「ね、がくぽさま……ください、カイトの口に…………がくぽさまの、濃くてあっついの…………」

「…………仕様のないやつだ」

仕込んだのは自分なのだが、がくぽは少しばかり肩を落とした。

無心に強請るカイトの愛らしさは、天井知らずだ。このまま転がして、乱暴に捻じ込んで突き上げたいほどに煽られる。

しかし実際にそんなことをしてカイトを泣かせたり、あまつさえ傷つけようものなら、事が終わったあとには、己を殺したいほどに後悔するだろう。

わかっているので、がくぽはちろりとくちびるを舐めて激情を堪え、カイトの頭をやわらかに押した。

やさしくそっと、小さな口の中に張り詰める自分を押しこむ。

「んぷ…………」

「たっぷり呉れてやる。存分に食らえ」

「んぁぷ…………」

頭を撫でながら言われ、上目遣いになったカイトは咥えたままで、表情をさらに蕩かせた。

そしてまた、熱心な愛撫へと戻る。

ぴちゃぴちゃと舐め立てる音とちゅるりと啜る音が交互に響いて、そこにカイトの漏らす甘い鼻声が混ざる。

「ん……んん…………んちゅ…ちゅ……ふぷぁ……んん…………っ」

耳も愉しいひと時を過ごしてから、がくぽはカイトの頭をわずかに押して、下半身に埋めた。

「…………出すぞ」

「んふぅ……っ」

抑えた声で短く告げると、カイトの愛撫にはさらに熱がこもった。

「…っ」

「ん、んんっ……んくんく…っんく…………っ」

啜り上げられるまま、がくぽはカイトの口の中に放った。カイトは喉を鳴らし、吹き出すものを懸命に飲みこむ。

「ん……ふぁ……ん、んちゅ…………ん…………」

最後の最後まできれいに啜って、それでもまだ名残り惜しくぺちゃりと残滓を舐めてから、カイトはうずくまったまま、強請るとき特有の上目遣いになってがくぽを見上げた。

「ね…………がくぽさま。あといっかい……『おかわり』、してもいいでしょう…………?」

「カイト……」

がくぽのものを持ったまま、愛らしく強請られる。

甘い声と、痺れて覚束ない舌での、はしたないおねだり――激しく煽られた。

求められるまま、何度でも『おかわり』させてやりたいと思う。

が。

「…………カイト」

がくぽはかすかに眉をひそめ、宥めるようにカイトの頬を撫でた。

「もうほどほどにしておけ。いくらどうでも、腹を壊すぞ」

「…………がくぽさま」

これが初めの一度だったというなら、求められるままに『おかわり』もさせてやろう。どこまで舌が持つか愉しみだとでも、嘯きながら。

しかし、少なくとも一度目ではなく――

頬を撫でた手を滑らせ、がくぽはカイトのくちびるへと辿る。躾けたとおりに開くそこに親指を差し込んで、舌を軽く押した。

「いい加減、痺れようが」

「ぁく…………」

「それに、だ。ここで食い過ぎて腹いっぱいとなれば、夕餉が食えぬこととなろう幾重にも体に悪い」

「…………」

やさしく言い諭したがくぽの指を咥え、カイトは子供っぽくぷうと頬を膨らませた。

かぷりと指に牙を立てて、わずかにきりりと締め上げてから放す。

体を起こしてきちんとがくぽと相対すると、至極不満げに見つめてきた。

「一度くらい、夕餉を抜いたって平気です。そうそう体を壊したりなんて、しません」

「これ」

もともと、カイトは食が細い。あまり、食べるということに積極的ではなかった。

だから平然とそんなことを言うが、がくぽは顔をしかめた。

いつもなら、夫の不機嫌には敏感なおよめさまだ。

しかし今日のカイトはますます目を据わらせ、依怙地な表情を晒した。

「それに、リリィちゃんが言ってました。…………その、『それ』って、すっごく栄養があるって。ごはんなんかつまむより、がくぽさまのを飲んでたほうが、ぜったいに体にいいです」

「あぁのなぁ………………!!」

この言いようには、さすがにがくぽも頭を抱えた。無茶苦茶にも程がある。

とりあえず、大事なかわいい妻に余計なことを吹き込んだ妹のことは全力で呪っておき、がくぽは高速で頭を回転させた。

無邪気にはしたないおねだりをするカイトは、愛らしい。

無心で好物を口にするカイトも、このうえなく愛らしい。

いくら眺めていても飽きないし、そのためならこの体を尽くすことくらい、なんでもない。

カイトの舌が痺れて音を上げるまで程度、付き合うのもやぶさかではない――とはいえ。

「……っ」

がくぽはきり、と奥歯を噛み締める。

もともとが食の細いカイトだ。少しつまむとすぐ、おなかいっぱいだと言って食べるのを止めてしまう。

今は連日がくぽに愛されて、しあわせでも、疲労も抜けない状態だ。それが尚のこと悪いのか、カイトがあまりにも食べないと、妹のグミがたびたび頭を抱えている。

「およめさまの……あばらがいっぽーん…………にぃほーん………………」

――などと数える声を聞くと、大げさな、とは思いつつも、そこはかとない罪悪感を掻き立てられる。

グミが目論むような、「ぶくぶく」とまで太ったカイトはどうかと思うが、多少はふくよかなほうが、いかにも愛されてしあわせそうで、いい。

それは確かだ。

しあわせに蕩かせて、ひたすらに甘やかして微笑ませて生涯を過ごさせたいと願って、無理やりに嫁に取ったのだ。

本来の男という性を偽らせて、心苦しい思いをさせようとも、ひたすらに己の隣で幸福に染めてやりたくて――

だからがくぽはあえて、すべての我が儘を聞いてやってとろとろに甘やかして愛に埋めてやりたいだけの妻へと、きりりと引き締まった厳しい顔を向けた。

夫としての威厳に満ちて、カイトに向き合う。

「カ」

「それに、俺に初めに味を教えたの、がくぽさまでしょう」

「っ」

威とともに理を説こうとした印胤家当主に、そのおよめさまはすっかり拗ねきった瞳となって、言い放った。

「旨いものをやるって。ためらう俺の頭を押さえつけて、無理やりに…………」

「……っ」

理を説くどころではない。

思い余ったとはいえ、相愛の仲となる前のがくぽのカイトに対するやりようは、赦される範囲のものではなかった。

さすがは因業で鳴らす印胤家、などと空惚けるだけでは済まない。

わずかに身を引いたがくぽを、カイトは目元を染めたまま、恨めしげに見る。

「何度も食ろうていれば、そのうち旨いと思うようになる、旨いと言うまでは毎日食らわせてやろうって…………」

「カ…カイト」

さらに引け腰となるがくぽへ、カイトは身を乗り出した。

恨めしげにはしていても、瞳は甘える色を含んで、熱っぽく潤んでいる。

その劣情を煽られるばかりの甘い瞳が、おねだりをするとき特有の上目遣いで、がくぽを見つめた。

「それで俺は、まんまと嵌まって、大好きになっちゃったのに…………」

「………………」

がくぽは軽く、天を仰いだ。

そんなことを言われて、堪えの利く男がいるだろうか。

相手はなにより愛する相手で、常に欲情を掻き立てられる相手で。

とはいえ、がくぽは夫であり、印胤家当主だ。

威厳を損なうわけにもいかない。

顔を戻すと、媚びる色を浮かべておねだりする妻を厳然と見下ろし、重々しく告げた。

「――あと、一度だけな」