七ツ夜星の見えざる計都
ぺちゃりと音を立て、はしたなく残滓を舐めてから、カイトは上目遣いでがくぽを見つめた。
「がくぽさま…………あといっかい…………おかわりして、いいでしょう?」
「カイト………」
甘く強請られて、がくぽは眉をひそめた。
溺愛するおよめさまだ。いつもなら、そのおねだりは二つ返事で聞く。いや、返事をすることすらなく、言われる前に聞く。
しかし。
「もう、ほどほどにしておけ。食い過ぎては、腹を壊すぞ」
「がくぽさま」
「それにだ。ここで腹いっぱいとなっては、また、夕餉が食えぬことになろう?幾重にも体に悪い」
言い諭したがくぽに、カイトは幼いしぐさでぷうっと頬を膨らませた。
濡れて光るくちびるを、きゅむっと尖らせる。
「食べられなくても、平気です。リリィちゃんが言ってました。『ソレ、とっても栄養があるのよwww』って。だから、おなかいっぱいになって夕餉が食べられなくても、体に悪いことなんかありません」
「カイト……っ」
珍しくも聞き分けの悪いカイトに、がくぽは額を押さえる。
余計な知恵を入れた妹のことはとりあえず呪っておいて、高速で頭を回転させ、カイトを諌める言葉を探した。
無心で好物を食らうカイトは、このうえなく愛らしい。
いくらでも眺めていられるし、そのためなら、いくらでもこの身を尽くそうとも思う。
が。
「……っ」
何事にも、限度がある。
がくぽは心を鬼にすると、厳しい顔をつくってカイトに相対した。
この世のなによりも愛おしむ、およめさまのことを案じればこそだ。
「カぃ」
「それに、俺に初めに味を教えたの、がくぽさまでしょう」
夫としての威厳とともに言い含めようとしたがくぽより早く、カイトは拗ねた瞳で続けた。
「『美味しいものをやろう』って。…………それで俺は、まんまと大好きになっちゃったのに………」
「………」
恨みがましい目で見られ、がくぽはくちびるを空転させた。
およめさまのことを思え、思えば、思えこそ。
カイトは目元をうっすら染めて、そんな夫から顔を逸らした。
「…………こんなおねだり、はしたないってわかってます。わかってますけど…………すきなんだもん………っっ」
ひどく幼い口調で、自棄になったように吐き出す。
がくぽは瞬間的に天を仰ぎ、結局肩を落とした。
「…………あと一度だぞ」