かりがりの衣嵐-03-
口の中を激しく蹂躙され、貪られ、呼吸の覚束なくなったカイトが力を失ったところでようやく、解放される。
離れたがくぽは、崩れるカイトを抱いて支え、笑った。濡れたくちびるを満足げに舐めると、上向かせたカイトの顎に軽く牙を立てる。
「よう言えたな」
「ぅく……っ」
真っ赤に染まり上がって瞳を揺らがせ、カイトはがくぽを見つめる。肌に縋る指が、責めるように強請るように、きりりと爪を立てた。
「がくぽ………さまぁ………っ」
「よしよし」
『ごほうび』をくれと甘えて請われ、がくぽは機嫌よく笑う。
「きちんと言えたしな。………今日は、泣かせもした。とっておきに悦うしてやろう?」
「ふぁあっ」
顎を離れて体を撫で辿っていた手がきりりと爪を立て、カイトは身を竦ませた。すぐに蕩けると、期待に満ちてがくぽを見つめる。
はなうたでもこぼしそうなほどに上機嫌で、がくぽはしがみつくカイトの帯を解いた。いい加減器用で、手慣れた動きだ。
するすると帯を解くと着物を広げ、下着も解く。
「あ……っ」
「物欲しげだな」
解放され、ふるりと震えながら勃ち上がったカイトのものに、がくぽは瞳を細める。
「もう濡れておる」
「だって……っ」
からかいを含んで意地の悪い口調に、カイトは瞳を揺らした。
「悦うしてやると約束したな?」
「んく……っ」
反論を塞ぐ軽い口づけとともに言うと、がくぽはわずかに体をずらした。カイトを膝に抱えたまま、器用に自分の着物をくつろげていく。
「あの、がくぽさま………」
「そのままでいろ」
「でも………」
――確かにがくぽは器用だが、それにしてもカイトを膝に抱えたままというのは、いくらなんでも面倒なはずだ。
たかが着物を脱ぐ間程度、座敷に放り置かれたところでカイトが醒めることなどない。むしろ期待を募らせ、感度はいや増しに増すだろう。
しかし下りることを提案したカイトの動きを止めたうえ、がくぽは微妙に苦い顔を向けた。
「離れたくない。……………泣かせたゆえな」
「がくぽさま………」
いつも通りの振る舞いに見えて、今日はがくぽもなかなか堪えていたらしい。ある意味、反省を促したかったカイトの思惑通りといえば、思惑通りだが――
「………ん」
「カイト?……ん?」
わずかに考えたカイトは首を伸ばし、がくぽのくちびるの端に触れるだけの口づけをした。
「カイト?」
「がくぽさまだけ、ですからね?」
不思議そうに瞳を瞬かせるがくぽに、カイトは微笑んで告げる。
「俺をいじめて泣かせるも、うれしくて涙を流すも、………全部ぜんぶ、俺の涙はがくぽさまのためだけ、ですからね?」
「………」
凝然と瞳を見張ったがくぽのくちびるの端に、カイトはもう一度、やわらかく口づけた。
触れるだけで離れて、おねだりがあるとき特有の上目遣いで、甘ったるく夫を見つめる。
「だから、………いっぱい、泣かせてください」
瞳を見張っていたがくぽは、ややして顔をくしゃりと歪め、笑った。
「そうか」
「はい」
「そうか………」
笑いながら、がくぽはカイトを抱きしめる。その手が、肌を辿った。
「ん、ぁ……っ」
びくりと震えたカイトをますます抱きしめ、がくぽの手はなめらかな肌を撫で辿る。
「望み通り、啼かせてやろう?心地よさに、蕩かせて……」
「ぁ……っ」
互いの体を微妙にずらすと、がくぽはくつろげた着物から自分のものを取りだし、カイトのものと合わせて握った。
「ふゃ……ん……っ」
ただ手で握られているときとは違う熱があり、硬さがあり、質感がある。カイトはきゅっと眉根を寄せると、がくぽの首元に顔を埋めた。募り過ぎて苦しい快楽を堪えるように、きゅうっとしがみつく。
「咬んでも良いぞ」
「ぃやあ………っ」
合わせて扱きながら、がくぽが笑い声を吹き込む。
肌を粟立たせたカイトは、ますますがくぽに擦りついた。
そうでなくとも巧みな、がくぽの手だ。ちょっとされると、カイトはすぐに気を遣りそうになる。
だが気配を読むことに長けたがくぽは寸前で刺激をずらしたり、根元を抑えたりとして、なかなか吐き出させてくれない。
その間、合わせられたがくぽのものがさらに熱く滾り、硬く漲っていくこともつぶさに感じる。
熱も硬さも、心地よい。
けれどカイトにとって、これが熱と硬さを持つということは特別な意味がある。
「ゃ、もぉ……もぉ、だめ………だめ、です、がくぽさま……っ、がくぽさまぁ……っ」
「達きたいか」
「ん、ぐすっ!」
笑い声を吹き込まれて、カイトはぷるぷると首を横に振った。
もちろん、達きたい。快楽の頂点を極め、溜められた熱を存分に吐き出し、心地よさに浸りこみたい。
しかしそれ以上に――
「い、れて………いれて、くださ………これ…………っ、がくぽさま、の………おれの、ぉなかに、いれて………いれて、かきまぜて………っ」
「っっ」
強請りながら感極まったらしいカイトは、焦れる思いまま、がくぽの肩に咬みついた。すぐに離れたが、今度は長い髪を容赦なく引く。
「これ」
「んっ、ほしい、ですぅ……ぉなか、じんじんして、くるしい………っ」
「ふ………っ」
涙声で強請るカイトに、がくぽのくちびるが歪む。
これ以上ない嗜虐と満足に染まる笑みを象ると、がくぽは再びカイトの顎に手をやって、顔を突き合わせた。
カイトは朱に染まり、正気の飛んだ瞳で見返してくる。
「がくぽさまぁ………」
苦しいと訴えたカイトの瞳から、ぼろりと涙がこぼれた。
「………よしよし」
なだめるようにささやいて、がくぽはこぼれる涙を舌で掬い取る。ちゅるりと啜り辿って、目尻をとろりと舐めた。
互いのものを握っていた手を離すと、カイトが愛撫を強請った場所を探る。
「ふぁあ……っ」
表面を撫でてやっただけで、カイトはびくびくと震える。欲しいほしいとひくついているそこに、がくぽは指を潜りこませた。
くちびるがさらに愉しげに、歪む。
「なにもせぬで、こうまで………。それほど、好きか?待ち遠しいか。ここを犯されるのが」
「ぁう……っぅ………っ」
意地悪く訊かれ、カイトはまた、ぼろりと涙をこぼした。ぐすぐすと洟を啜りながら、しがみつくがくぽに爪を立てる。
「ん、すき……っ、すき、です………ぁ、がくぽ、さまの、で………ぉなか、いっぱいにされるの、だいすき………っ」
「っはは!」
「ふやぁうっ」
笑うがくぽの指が増え、中を広げるように動く。
ますます縋りつくカイトと額を合わせ、がくぽは揺らめく腰を抱き寄せた。
「欲しいなら、呉れてやる。強請るなら、強請るだけ」
欲に掠れる声でささやき、指を抜いた。
「や、がくぽさま……っ」
喪失感に声を上げたカイトの腰をさらに寄せ、がくぽは寂しいと訴える場所に己の熱を宛がった。
「そなたの望みは、すべてなんでも叶えてやる」
「っふぁっ……っ」
反射で跳ねた腰をがくぽは逃すことなく押さえ、期待と怯えに満ちて震えるカイトへやさしく吹き込んだ。
「だから――泣くよりも笑っておれ、カイト」
「っぁ、ふぁあっ!」
押し入ってくる熱の衝撃に、大きく震えたカイトは精を吐き出した。
先を呑んだだけだというのにきつく締まって蠢く襞に指をやり、押し広げるようにして、がくぽは腰を揺さぶり突き進む。
「ぁ、や、まって……っ」
「悦うしてやると約束したろう。息も継げぬほど、悦うしてやる」
「ゃ、ああっ、がくぽさまっ」
達したことで殊更に尖る体を容赦なく攻められて、カイトは泣きながら身悶える。
がくぽは笑って根元まで熱を押しこみ、揺さぶることでさらに奥へと突き上げた。完全にすべてを呑みこませたところで一度止まると、ぼろぼろとこぼれるカイトの涙を舐め啜る。
浮かぶ笑みに、わずかに苦い色が混ざった。
「――笑っておれと、望むのだがな」
気がつけば、連日『啼かせて』いる状況だ。
それだけカイトが愛おしいということだが、同時に、連綿と因業で繋いできた印胤家の血というものもあるだろう。
「ぁっ、あっ、がくぽ、さまっ!だめ、だめ、そこばっかり………っ!ぁ、あ、ごりごり、めぇ………っんんっ、ごつごつ、きもちぃい………いい…ぃ……っ」
弱いところばかりを殊更に抉られて、カイトは過ぎる快楽に惑乱して泣き喚く。
瞼を腫らし、汗とともに泣き濡れて哀れなカイトの顔を、がくぽは容赦なく攻め立てながら陶然と眺めた。
――いつか、カイトの流した涙の湖に、溺れ死ぬ。
それは望むべくもなく、これ以上もない幸福だった。
背筋を駆け上げ全身を染める幸福まま、がくぽはカイトの腹の中に熱をぶちまけた。