陰淫噺-06-

「どう仕置かれたい夫が留守の合間にひとりで悪戯してしまった、その仕置きに、なにをされたい。そなたの言うまま、願うまま、望むように仕置いてやるぞ?」

「が、がくぽ、さまっ」

――非常にやさしく、蕩けるように愛情と労わりに満ちているのだが、結局がくぽはがくぽだった。

やさしいの方向性が、常人とずれる。

仕置きと言ってはいるが、がくぽにとってはご褒美のつもりだ。

カイトが仕置きを強請ったから、願いを叶える。仕置きという名目だからちょっと意地悪に、しかしひたすらに甘やかしてやる――

そうでなくても赤かった肌をさらに朱に染めて、カイトはきゅむむっとがくぽに縋りついた。

「そ、んなことっぁ、ん、んんっ」

「なんでも良いぞ括り上げて攻めろというなら、そうしてやろう。衆前で俺に犯され、あられもなく乱れる様を晒し、身も心も俺のものだと示したいなら、とっておきの客を呼ぼう。それとも、市中のどこぞに行くか?」

「ゃ、や、ゃ………っ、がく、がくぽ、さまっ!」

膝の上でわたわたと慌てるカイトには、わかっていた。

言えば本当に、がくぽはやる。

縛り上げてと言えば縛り上げるし、人前でと言えば人前で――

「そ、そんな、はしたな………っ」

想像だけで涙目になるカイトを逃がさんときつく抱き込み、がくぽは赤く染まった頬にくちびるを寄せる。

熱く火照る場所を辿り、耳朶へと向かった。

餅にも喩えられる、やわらかい肉を食むと、笑う。

「ぁ、ぁ、あ………っ、や、ぁっ、んっ、ぁっ」

「蕩けるようにやさしう攻めてくれと言うなら、そうしてやろう蕩けて形のなくなったそなたすら、さらに蕩けてしまうほどに、やさしうに」

「ん、ん…………っぁ、ああんっ」

言葉だけでなく、がくぽの声もしぐさもこの上なくやさしい。

熱を帯びて尖るカイトの肌を、宥めるようにもさらに煽るようにも、撫でる。そうしながら、くちびるはやわらかに耳朶を食んで、吐息とともにくすぐった。

「カイト。望め。なんでも聞いてやる。そなたの望みなら、すべて叶えてやる。叶わぬことなど、なにもない。どんなことであろうと、必ず聞いてやろうから。だから………」

「ぁ、あ、は………っぁ、ぁあ」

がくぽの声はやさしかったが、ひどく必死で懸命な色を含んでいた。

しかしそうでなくても長時間、媚薬の効果に晒され、カイトの思考は追い込まれている。

そこに持ってきて、帰宅を待ち望んでいた夫からの、思いもかけないやさしい愛撫だ。

含まれる複雑な感情を推し量ることなどできず、がくぽの着物をきゅっと掴むと、熱を帯びる体を擦りつけた。

「ん、ん………っ、がく、が、がくぽ、さまがっ、がくぽさまが、ほしい、です………ぁ、俺の、おなかに、熱く滾ったがくぽさま、入れて………ぐちゃぐちゃに、掻き回して」

「……ああ」

「おなかがふくれちゃうくらい、いっぱい、いっぱい、犯されたい、です………ぁ、も、入れたまま、抜かないでっ」

「ああ」

狂気を隠すための、偽りのものではないやさしさに晒され、カイトの理性はあっさりと蕩けた。

いつになく奔放に、がくぽを強請る。

がくぽはうれしそうに微笑むと、もつれる舌を懸命に繰ってはしたないおねだりをこぼし続けるカイトのくちびるを塞いだ。

「望むままに犯してやる。そなたの気の済むまで、いくらでも」

「ぁ、ん、ん………っ」

すぐに体勢が変えられ、カイトはがくぽに跨るように座らされた。

反射でがくぽの首に腕を回しつつも密着することなく、カイトは陶然とした瞳を下に向ける。

「いい子に待てよ。すぐさまやる」

「ん、はやくぅ………」

「ははっ」

遠慮なく強請られて、がくぽは笑う。

腰を浮かせて待つカイトを焦らしすぎないよう、しかし期待を煽るように自分の着物を肌蹴ると、すでにそそり立つものを取り出した。

「ん、ぁ………っ」

「よしよし。乗れ。そなたの好物だ。存分に食らわせてやろう」

こくんと唾液を飲み込んだカイトに、がくぽはとろりとささやく。

浮く腰を招くと、焦るカイトを宥めながら、自分を飲み込ませた。

「ぁ、んっ、んっ…………ぁああっ」

「…………カイト」

「ぁ、はぁ…………ぁあん………っ」

「…………」

入れられただけで達してしまったカイトは、がくぽの首にきゅうっとしがみついて荒い息をつく。

痺れる腰が、それですら貪欲にがくぽを求めて揺らめいた。

「ぁ…………あ、がく、がくぽ、さま…………ぁ、あぁ………っ」

「………良い子だ。案ずるな、必ず落ち着く。すぐに苦しくなくなるゆえ」

「ん………っんっ」

異常なまでに快楽を追い求めながら、カイトはそんな自分に怯えて喘ぐ。

宥めてやりながら、がくぽは自分も腰を揺らめかした。

もはや辛いほどに疼く場所を熱に擦り上げられて、カイトの表情が歪んだ。

あまりの快楽に怯えながら喜悦も隠せず、泣き笑いのような顔で、結合部へと視線をやる。密着する互いの体に阻まれてはっきりとは見られないものの、そこから響く音は激しく耳を打つ。

「んっ、ぁ、あ…………っ、がく、がくぽ、さまっ、……ぁ、これ、これ、ほしか………っ、ぁ、これ、が、ほしかった………っぁんん、がくぽさま、ぁ………っ」

「ああ。よう吸いついてくる。欲深に俺を締め上げて、食らっておるわ」

「ぁんん、おいし、おいし、です…………っ、ぁ、ぁあ、がくぽ、さま、ぁあっ」

「よしよし………」

がくぽが達するより先に、カイトは達してしまう。

間断なく、息つく暇もなく絶頂をくり返す自分に、カイトは喘ぎながらぼろりと涙をこぼした。

「い、イきたくな………っ、も、もぉ、イきたくな………っ、ぁ、がく、がくぽ、さまっ、もぉいやぁ………ぃたいぃ………っ」

「………泣くな。もう少し………」

「んっ、ふ、ぇ……っ」

立て続けに達しすぎたせいで、カイトの性器はもはや、気持ちいいというより痛みを伴って勃起している。

いつもなら、そこまでくれば勃起も治まるはずなのに、薬の効能はそんなところにまで及んで、カイトを苛んでいた。

それでも腰を揺らめかせながら、カイトはがくぽにしがみつく。

「ん、が、がくぽ、さま………っ、しば、しばって………俺の、俺の………っ、縛って、もぉ、イかないように、して………っ」

「………っ」

耳朶に吹き込まれた声は甘いが、嗚咽を含んで哀れだ。

瞬間的にくちびるを噛んだがくぽだが、すぐに笑みを刷くと、しがみつくカイトの体をわずかに引き離した。

「哀れさが愛らしいぞ、カイト。斯様にはしたなく強請るとは、なかなかだ」

「ん、んんっ………」

いつもと同じように、がくぽは甘い中にも意地悪くカイトを嬲る。

そのことに、かえってカイトの顔も笑みを刷いた。

「がくぽ、さま」

「そうだな。そうそう幾度も極まっているようでは、俺が満足するより先にへたばるだろう。括って、堪え性というものを教えねばな?」

「ん、ふ………ぁはっ」

茶化すようにしらっと言うがくぽに、カイトは声を立てて笑った。引き離された体を戻して、きゅうっとしがみつく。

自分では恐怖を覚えるほどに快楽に溺れ、乱れていても、がくぽはいつものように接してくれる。呆れることもなく、愛想を尽かすこともなく。

どころか、尻馬に乗るように嬲って、愉しそうだ。

この状態で労わられることは辛く、情けない。

いつものように、ここぞとばかりに付けこんでカイトを嬲るがくぽが、いい。

世間一般で言うところの『やさしい』とはかけ離れた夫で、溺愛の方向性が大きくずれているけれど、そういうひとを好きになった。

そういうひとだから、好きになった。

そうやって嬲りながら、カイトがいいように、泣かないようにと、気を回してくれる。

最大限に蕩かして、甘やかしてくれる――

「ぁ………く、ん…………ぃたい………ぁ、がくぽ、さま………ぃた………んっ」

「そなたが括れと言ったのだ。膨張するものを抑えれば、痛かろう」

「ん、ゃ、ぃた………ぁ、がく、んん………」

髪を括っていた綾紐を解いて、がくぽはそれでカイトのものの根元を括り上げた。力加減はしているが、そもそもは極めないようにとするためのものだ。

止められれば、どうしても痛い。

カイトの詰りは責めるというより、さらに煽って昂ぶらせようとしているかのごとくに、蕩けて甘ったるかった。

わかっているから、がくぽも笑って、縛った場所をわざと指で弾く。

ぶるりと震えたカイトをわずかに眺めてから、がくぽはその腰をしっかりと掴み直した。

「少しう、堪えろよ」

「ぁ、んんっ?!ひ、ぁああんっ」

動きが激しくなり、カイトの上げる声が一際かん高く、悲鳴じみた。

しがみつかれても動きを緩めることなく、がくぽは一層自分を煽り立てると、欲されるままにカイトの中に己の精を放った。

「んんぁ………っ、ぁ、あ…………っ」

「………っ、っっ」

腹の中を熱で満たされる感触に、カイトは仰け反って痙攣する。

根元を縛られたために、カイト自身が釣られて吐き出すことはない。ないが、感覚だけは持って行かれて、表情は恍惚の色を刷いた。

「………腹が膨れるほどと、言うたな」

「ぅ、………ぁ、ああ………っ」

達したばかりでありながら、がくぽは嘯いてカイトを畳に転がす。

震えて、未だ極みを味わう体に伸し掛かると、にんまりと笑った。

「膨らませてやろう。息も覚束ぬほどにな」

とろりと蕩ける声でささやくと応えも待たず、がくぽは再び腰を揺らめかせだした。