CHIMÉNE-07
「は………」
力を失くして崩れるカイトを危なげなく受け止めて胸に抱き戻し、がくぽはそっと様子を窺った。
「………ぇへ」
今にも眠り込みそうな風情のカイトだったが、がくぽと目が合うと蕩けきった顔で笑った。力を失くしていた手がわずかに動き、がくぽの服を縋るように掴む。
「………よしよし。いい子だ」
「ん……」
宥めるようにやさしく告げて、がくぽはカイトの額に軽くくちびるを落とした。そのままちゅっちゅと音を立て、顔じゅうにくちびるを降らせる。
「ぁ、ん………ぁは。ん、………」
「カイト」
「ぁ………」
くすぐったいと笑うカイトの、とろりと垂れた涎で汚れる口周りも、がくぽは丁寧に舐めてきれいにしてやった。獣のしぐさに似ていて、欲情よりも情愛に満ちた舌遣いだ。
「がくぽさまぁ……」
「ああ」
てろんと舌を出したカイトに強請られて、がくぽは笑いながらやわらかな肉を含んだ。舌を絡めて己の口内に招き入れながら、痛みを与えない程度に牙を立てる。
「ん、ん………っ」
痛みよりも掻痒感が強いそれに、カイトはびくりびくりと腰を跳ねさせた。掻痒感はそのまま、過ぎたばかりの快楽に繋がって火を呼び戻す。
なにより跳ねる腰は未だ、がくぽと繋がっている状態だ。
「ぁ、あ………」
「………そう、締め上げるな。物欲しげにひくつかれると、俺の自制しようがない」
「ふぁん………っ」
赤く染まった耳朶を含まれて笑い声を吹き込まれ、カイトはさらにぞくぞくと背筋を震わせる。仰け反る背のやわらかさは言うまでもなく、なめらかな肌は濡れてさらに艶やかさを増し、目に愉しい。
がくぽは瞳を細め、緩やかに悶え喘ぐカイトの姿を眺めた。
背を仰け反らせたことで、胸が突き出される形になっている。普段ならば慎ましい色だが、そこに今、ぷくりと尖った粒は、目を引かずにはおれないほど鮮やかな朱に染まって、浮かび上がる。
「………どこもかしこも、いいようにひとを煽る」
「っぁ………っ」
眺めるだけに終われず、がくぽは浮かぶ突起をつまんだ。肌触りの上質さは比べるものもないが、やわらかさはない。
相応に食べさせ、いくら成長したところで、ここの肉が女性のようにまるんで膨らむことはない。
「と、信じたい」
「ぁ、がくぽ、さま………?」
割と真顔で、がくぽはつぶやいた。慨嘆にも似ている。ぷくんと膨らむ突起を指先でこねくり回し、形を変える場所を真剣に見つめ、くちびるからはあえかなため息がこぼれた。
「そなたの『成長』の明後日さ加減たるや、容易く想像の範疇を超えるとわかったからな」
「ん、んぁ………っぁ、ゃんん………っめ、め、がくぽ、さま………っそんな、………っんんっ」
慨嘆していても、がくぽの指はカイトの乳首を弄り、こねくり回している。そもそも弱点なところに、達したばかりで神経が常より尖っている。そのうえに、未だがくぽは腹にねじ込んだままだ。
考えごとに沈みながらも嬲るがくぽへ、カイトはうるんと瞳を潤ませて手を伸ばした。首に回すと、きゅうっとしがみつく。容赦を乞うように、宥めるように、がくぽの顎にちゅっちゅとくちびるをぶつけた。
「そ、な………きゅっきゅ、しちゃ、め………め。ね、がくぽ、さま………でちゃぅ………ぉっぱい、こぼれちゃう、から………っぁっ、あっ?」
「しまった。俺の素直に過ぎる愚息が」
びくんと跳ねたカイトを逃がさないように抱え込みつつ、がくぽは軽く舌打ちした。
かわいらしいおねだりぶりに、がくぽの本能的な部分が隠しようもなく反応した。節操がないにもほどがあるし、この程度で覿面な反応を見せるなど、魔女たちを特殊性癖だと罵れる義理もない。
「ぁ、がくぽ、さま………また、ぉっきく………かたく、なり……」
「とても大変わかっているので口にするな、カイト。急ぎ成長する必要はないが、おいおい、大人の礼儀というものは覚えていこうな?」
「はい?」
なんのことだときょとんとしたカイトに、がくぽは白々しくも重々しく告げた。
「そなたが口を噤み、しばらく大人しくしてさえいれば、そのうち落ち着く」
「ぇと………」
カイトは微妙な目を、自分の腹に向けた。
がくぽが落ち着きたかったとは、予想していなかった。煽る気もあったわけではないが、まさか落ち着きたかったとは、まったく思わなかった。
まず抜いたらどうか。
――という提案を、口を噤んで大人しくしていろと言われた今、どうやれば出来るのかがわからないのが唯一、悩みどころのカイトだ。
そうまで素直に従わなくてもいいはずだが、もともとカイトは意思表示があまり上手ではなかった。対してがくぽはというと、上の空で他ごとを考えていてすら、やり手の家宰を言いくるめて主張を押し通す。
「ん………んっ」
「よしよし。いい子だ」
「………ん」
結局、言われたとおりに素直に口を噤んだカイトは、きゅうっとがくぽにしがみついた。甘えるねこのしぐさですりりと、がくぽの首元に頭を擦りつける。
敏いはずなのに、なぜかこういったところでたまに鈍くなるがくぽだ。単純にカイトのしぐさがかわいいと、擦りつく頭を撫でてやった。
「しかしそうとはいえ………ちょっと刺激してやったくらいで、こぼれるのか?俺にしか飲めぬと言いながら、ずいぶんと節操がない話に思えるな」
「ぁ、んっ…………」
「ん?」
口を開きかけたカイトだが、言葉になる前にぱっくりと空気ごと飲みこんだ。愛らしいことこのうえない所作だが、秘密を抱えているようなしぐさでもある。
ふいっと顔を覗き込んだがくぽに、カイトは揺らぐ瞳を向けた。きゅっと閉じた口をさらに手で覆って言葉を封じながら、しかし訴える色を宿し、じーっとじーっとがくぽを見つめる。
「なんだ?………ああ、そうか。口を噤んでいろと……」
「………」
思い至ったがくぽが、軽く瞳を見張る。カイトはひたすらに、そんながくぽを見つめた。
多少の間を挟み、がくぽはふっと笑いをこぼした。苦みを帯びながら、笑みに歪むくちびるをカイトのこめかみに寄せる。
「………仕様のない子だ」
「んっ」
慨嘆しながら、こめかみをくちびるで押した。そのままカイトの頭に頭を預けて、固まっている体をあやすように叩く。
「構わん。話したいことは話せ。俺がする、そなたへの絶対の命令はひとつだ――生涯を俺と共に歩め」
告げて、がくぽは顔を上げた。さばさばとした笑みで、揺らぐカイトの瞳を見返す。
「それ以外のことなど戯言と思って、いくらでも聞き流して破っていい」
「ん………」
理解が及んでいない顔で、カイトはわずかに首を傾げた。しかし深く追及することはなく、口を覆っていた手を離す。
元の通りにがくぽにしがみつくと、窺うような上目遣いになった。
「だって、………がくぽさまの、はいってる、から………」
「あ?」
なんの話だと、今度きょとんとしたのはがくぽだった。繋がりがわからないと、眉間に皺を寄せて記憶を漁る。
しかしがくぽが記憶を手繰り寄せることを待たず、カイトはもじもじと腰を蠢かせ、ふんわりと肌を染めた。
「ぉっぱい、でるの、ね………?ぉしり、………ぐちゃぐちゃって、されたとき、だから………」
そんなはずはないのだが、カイトが告げた瞬間、時が止まった。
ぴたりとすべての動きを止めたがくぽは、しばらく空漠を睨んでいた。現状は変わらない。わかっているが、思考を止めたい瞬間というものは、どうしても存在する。
「………なに?」
「んへ……っ」
――これでいてがくぽは、他地方にまで名を馳せるほどに優秀で有能だ。どんなに思考が逃避を求めても、赦さない明晰さと胆力があればこそ、名領主として鳴らす。
無駄に才能を発揮し、がくぽは微妙に掠れる声で問い返した。カイトはというと、愛らしさ満点で恥じらって笑う。
今こそ時よ止まれというがくぽの願いも虚しく、カイトはうっとりと蕩けきった笑顔で告げた。
「ぇと、だから、………ぉっぱい、でるの………ぉしりに、入れられて………ぐちゃぐちゃーって、されたとき、だけ……だから。………ぇへっ!」
「………」
かわいい。恥じらう笑顔かわいい。
かわいいがしかし。
表情のみならず、思考も空白となって固まったがくぽに、カイトは恥じらいながらきゅうっと擦りつく。ついでに、がくぽがまさに『入れて』いる場所も、きゅうっと締まった。
気持ちいい。
気持ちいいことこのうえないがしかし。
「ぁの、あの、ね………ぉしり、に……ぃれられて、……ぐちゃぐちゃーってされたら、ぉっぱい、でるの………いっぱいいっぱい、ぉしりいぢめられたら……………ぉっぱいも、いっぱいいっぱい、でちゃうの………っ」
「なん………」
言葉にもならず、がくぽはひたすらに空虚を晒していた。
なんたる――なんたる、明後日にも明後日を極め、明々後日あたりに行ってしまった発動条件。どういう立派な成長ぶりか。
固まって動かないがくぽの耳朶に、わずかに伸び上がったカイトはくちびるを寄せ、吐息とともに毒の言葉を吹き込んだ。
「僕が、するの………ぉしりに、入れるの………ぐちゃぐちゃーって、されるのも………ぉしり、いっぱいいっぱい、いぢめられるのも………がくぽさまだけ、だから………だから、ぉっぱい、のめるの、がくぽさまだけ、なの………ぇへっ!」
言い切ったカイトは、恥じらい笑ってがくぽに擦りつく。しぐさは幼く、いとけなく愛らしい。しかし成長の方向性が。目指す行く末が。
しばし呆然と固まっていたがくぽだが、なけなしの明晰さと胆力を掻き集めた。どうにかこうにか口を開くと、声帯を震わせる。
「カイト」
「はぃ」
呼ばれて、カイトは甘い声で応じる。
そのカイトへ、がくぽは未だ動揺を引きずった表情まま、厳然と告げた。
「やはりそなた、口を噤め。しゃべらず、大人しくしておけ」
「はい?」
咄嗟に理解が及ばないカイトは、きょとんと無邪気に首を傾げる。
理解が追いつくことを待たず、がくぽは体を起こした。カイトの腰を掴むと、漫然と入れたまま放置していた場所にきつくねじ込み直す。
「ぁ、あっ、ふか、ぁ………っ」
かん高い声で啼いたカイトは、痛いほどに掴まれ、再び深く突き入れられた腹へ視線をやる。
果てても力を失い切っていなかったがくぽの雄だが、今は完全に力を取り戻し、臨戦態勢へと入っていた。
なにが引き金となったものか、カイトにはさっぱり不明だ。ただしこれはいつものことなので、深く気にすることもない。
わかればいいのは、夫が滾り、漲ってカイトを求めているということ。その一点だ。
少なくとも、カイトにとっては。
「がくぽ、さまぁ………」
「さもないと、身の保証が出来ん。せめても応分に体が成長するまで………」
「んん、ぉしり、あっつぃ………ぐちゃぐちゃーって、とろけちゃぅ………ぉっぱいもじんじん、して、……こぼれちゃぃそう………っ」
「カイト」
勝手にも過ぎる説教を聞くことなく、カイトはうわ言のようにつぶやく。
煽る言葉を吐くなと、非難の目を向けたがくぽに応えたのは、とろんと蕩けきった笑みだった。
カイトはじんじんして『こぼれちゃいそう』な胸の突起を自らつまんで引っ張ると、睨むがくぽを誘うようにこねくり回す。疼く腰を浮かせて揺らめかせ、腹の中の硬さを確かめるように、殊更にきつく締め上げた。
「カイト………」
「言いたいこと、言って、いいって………がくぽさまの、お言いつけ、やぶっても………いいたいこと、いって、いいって………」
「………」
高速で記憶を漁ったがくぽは、直近の自分の発言にすぐ思い至った。まずいと、きれいな顔がもったいなく歪む。
その程度で醒める想いでもなく、カイトはとろとろに蕩けきったまま笑った。
「だから、ね………?ぉしりもっと、いぢわるして、いぢめて、がくぽさま…………ぐちゃぐちゃにかきまぜて、おく、いっぱいついて………それで、がくぽさまだけのぼくのぉっぱい、………がくぽさまにぉしりいぢめられたら、でちゃうぼくのぉっぱい………また、すって………?」
成長の方向性が明後日にも過ぎて、カイトの行く末が不明も甚だしい。
全身全霊を懸けて愛おしみ、慈しみ育みたい『妻』だが――
「そんなことを聞かされて堪えの利く男がいるとでもいやいない!」
「っぁ、ふぁあんっ!」
句読点も無視し、一語一語を拾うことも出来ないほどの高速で吐き出して完璧に反語を極めたがくぽは、今度こそ本気でカイトの腰を掴み直した。
高速過ぎて拾えなかった反語に、カイトがきょとんとする間すらない。初めから激しく突き上げられ、カイトはかん高く啼くだけのイキモノに変えられる。
ところでこの日、がくぽは領主の座に就いてから初めて、執務の大半を翌日へ持ち越した。