おばかさんのカフェラッテ→加糖版
「がくぽ、カイトはかわいくないわよ」
マスターの言葉に、俺は顔を上げて反論しようとした。
しかし呆れたような声のマスターは、幼い身ながら、大人の俺を諭すような口調で続けた。
「カイトは『かわいい』んじゃなくて、『きれい』なのよ」
いや、かわいい。
反駁しようとして、ふと考えた。
マスターの年を考えれば、確かにカイトくらいの年の男というものは、『かわいい』ではなく、『綺麗』と評するものかもしれない。
『かわいいカイト』ではなく、『綺麗なカイト』。
「なるほど……………!!」
ありだ。
「ちょっと…………なにやってるの、がくぽは…………」
「カイト!」
納得したところで、床にこぼしたコーヒーを拭くものを取りに行っていたカイトが、リビングに戻ってきた。
そして、床に倒れ伏す俺に、呆れた声を上げる。
頭の傍にしゃがみこんでいたマスターは、弾むように立ち上がり、カイトへ飛びついた。
「カイト、犯人はカイトなの?ドウキはなぁに?」
「犯人?動機……?なんの話…………」
楽しそうなマスターを抱き上げたカイトは、床の『ダイイングメッセージ』を見て、さらに呆れたようになった。
「もー…………ほんっと、なにしてるの、がくぽ………っ?!」
素早く立ち上がった俺は、皆まで言わせず、マスターを抱いたままのカイトの腰に腕を回す。
反射的にマスターを抱く腕に力を込め、わずかに引いたカイトの体を抱き寄せると、片手を顎にやって顔を捉えた。
じっと瞳を見つめる。
「がく……」
「綺麗だ、カイト」
「………っっ!!」
「がくぽ?カイト?」
真摯に告げると、爆発音が聞こえそうな勢いで、カイトは全身を朱に染めた。
無意味にくちびるを空転させ、瞳を潤ませる。
そうやって、しばらくの間の後。
「ばかがくぽ…………っ」
瞳を伏せたカイトは、震える声で俺を詰った。
「………………………………………………………マスター」
「なぁに?」
きょとんとしているマスターに、俺は重々しく告げた。
「カイトのかわいらしさが理解できる、いい女に育てよ」