お姫さまからハニーズ・キス→加糖版
姫の呪いを解くのは王子からのキスと相場が決まっているが、逆もまた言える。
王子に掛けられた呪いを解くことができるのも、姫からのキスだけだ。
「そういうわけで、確かに間違いなく、カイトは姫だ」
ベッドに寝そべったまま請け合った俺に、傍らに横たわり、カイトに首までしっかり布団でくるまれたマスターが、不思議そうに瞳を瞬かせる。
「…………がくぽ、のろいにかかっていたことがあるの?」
訊かれて、俺は頷いた。
「ああ。昔は醜いヒキガエルだった。しかしカイトの愛情たっぷりのキスによって、こうして王子に成った」
「ひきがえる………????」
「がぁあくぽっっ!!」
はてなマークを大量に飛ばすマスターの傍らで、ベッドに入ろうとしていたカイトが真っ赤になって俺を睨む。
「またそうやって、適当な話をでっち上げて!!マスターのこと、混乱させないのっ!」
「ったたっ」
俺とカイトの間にはマスターが横になっている。
しかしカイトはマスターを潰さないようにしながら俺へと伸し掛かり、頬をつねり上げてきた。
「また、てきとーなことをいったの、がくぽ?」
「信用がないな。適当なことなど言っていないぞ、マスター」
ぷう、と頬を膨らませたマスターに、俺はカイトにつねられたまま笑った。
姿かたちはともかくとして、昔の俺は自分のことを『醜いヒキガエル』だと思っていた。
劣等感の塊だった。
その俺の心を解いて『王子』にしたのは、誰あろう、カイトであり、カイトが寄越した愛情たっぷりの甘いキスだ。
――だって、がくぽは…
「適当なことでしょっ!がくぽがいつ、醜いヒキガエルだったことがあるっていうのっ。がくぽは最初に会ったときからずっとずっと、やさしくて強くてかっこよくて、そんでもって頭もよくって、すっごくすっごく王子さまだったんだからっ!!」
「っははっ!!」
顔を真っ赤にしながら、カイトはむきになって言い募る。初めてキスをくれたときのように。
俺は笑うと、伸し掛かるカイトの後頭部に手をやり、くちびるを軽く吸った。
「ん…っ」
カイトはびくりと震える。
「………………やっぱり、カイトはお姫さまなのね…………」
力が抜けていくカイトに押し潰されそうになりつつ、マスターは妙に感慨深く、しかし冷静に納得した。