がくぽの膝に乗せられたカイトは、陶然とした表情で足を差し出した。

「がく………」

Knights & Pudding-前編-

真昼のリビングだ。カーテンを閉めるでもないから、明るい光の中に、なにもかもをつぶさに見ることができる。

そんな中で、カイトは靴下どころかスラックスも下着も脱ぎ去り、上半身にコートだけを引っ掛けた姿になっていた。

がくぽの膝に乗せられてさりげなく上半身を嬲られ、すでに表情は甘く蕩けている。

がくは仄かに笑うと、差し出されたカイトの足を押し頂いた。ちゅっと、爪先にキスを落とす。

「っぁっ」

「ふ……っ」

びくりと跳ねたカイトの体を押さえ、がくぽが笑う。わずかに目を上げた弟に、頷いてみせた。

がくも小さく頷き返すと、口を開く。キスをされたことで予感に丸まった足指に舌を伸ばし、ねっとりと絡めながら口に含んだ。

「っぁ、あ………っ、ゃぁあん……っ」

いつもはちゃきちゃきと話すカイトだ。調声の問題だけではなく性格的なものも相俟って、KAITOシリーズらしからぬ、おっとりさとは程遠い印象を受ける。

しかしこうして二人に攻められるときだけは、その声は本来の甘さを取り戻し、舌足らずに蕩け崩れた。

きりきりと尖りがちな表情も緩んで、いっそ幼い。真昼の明かりの下で見ると、暗い中で見るよりも逆説的に淫靡だ。

足指を含まれて愛撫され、膝の上で跳ねるカイトを抱えこんで拘束するがくぽは、そんな様子にうっそりと笑った。

「なにが厭だ、カイトほれ、斯様に………雫を垂らして悦びながら、なにを厭と言う?」

「っひぁぅっ」

耳朶にくちびるをつけ、嬲るように吹き込む言葉。

下着も取り去られ、開かれたコートの袷からは、愛撫に応えて悦楽を告げるカイトの男性器が覗いている。

がくぽが言う通り、そこは触れられてもいないのに、すでに反り返って雫を浮かべていた。

がくはカイトに構わず、思う存分、その足指を舐めしゃぶる。ある程度満足したところで指から離れ、甲にキスを落とした。

そのままくちびるで肌を辿って、くるぶしに浮いた骨に咬みつく。

「っゃっあ………っ、がく………っぅ………っ」

「痛かったか、カイト?」

上がった悲鳴は甘いものだったが、がくはわずかに心配そうにカイトを窺った。しかしカイトが答えるより先に、がくぽがわざとらしく眉をひそめ、弟へと首を振ってみせる。

「それはいかんな、弟よ……嫁に痛みを与えては」

「うむ、そうだな。償いをせねばな」

「ん、ぁ、がく……っ、がくぽっ」

カイトの返答を待たず、がくぽとがくの間で会話は進む。仄かな抗議の声も、さっぱり無視された。

償いをしなければと言ったがくは、一度は離れたカイトの足指にまたくちびるを戻す。ちゅっちゅと口づけ、今度は足の裏にまで舌を這わせた。

「っあ、あ………っあ、………っん、がく……っ」

ただ舐めるだけでなく、がくは軽く牙を立てていく。痛いというより、募るのはもどかしい掻痒感だ。

どうしてこんなところまでという惑乱と相俟って、カイトは幼いしぐさで指を咬んで悶える。

気持ち良さに跳ねるカイトの足は、気をつけないとがくの顔面を蹴り飛ばす。うまく避けつつ、時として足首を掴んで押さえ、がくはカイトの足をべったりと舐め尽くした。

がくぽのほうも、ただ眺めているだけではない。ひくつきながら崩れていくカイトの体を抱え直し、触れもしないで反り返り、雫をにじませる男性器へと手を伸ばす。

そもそもの造りの問題もあるが、幼いぴんく色だ。ほかの誰のを見てもそうは思わないが、カイトのものが快楽に膨張しているのは、ひどくかわいらしい印象がある。

とろりと濡れる先端に指を這わせ、沁み出すものを塗りこめるようにしながら、がくぽはカイトの男性器を丹念に弄った。

「んん、ん………っんん、ぁ、あ………っ、あ、がく、ぽ………っ」

「愛らしい声だ。耳から蕩けそうだぞ、カイト」

「ん………っっ」

がくに足を嬲られ、がくぽには男性器を直接に弄られている。うまく身悶えもできずに体に篭もる快楽に、カイトの瞳には涙が浮かんだ。

カイトはぐすりと洟を啜ると、足指からようやく離れ、ふくらはぎを丁寧に辿っているがくの頭を膝で挟んだ。

「ん、こら、カイト………」

「悪戯はいかんな、カイト」

「んっ、ぅ……………っ、ふ……………っ」

がくの頭を膝で挟んだカイトは、自分の男性器を弄ぶがくぽの手も、伸ばした手できゅっと掴む。

引き離そうとする動きだが、蕩けて力無い。そうでなくとも勝ち目のない力の差なので、がくぽの手は小揺るぎもしない。

がくのほうも同様で、手を掛けるとあっさりとカイトの膝を割り開いた。体を起こすと、足の間に己の体を差し挟ませる。

「カイト?」

「ぁ、……………ゎ、って………………ここ。……………さゎ……って……………」

がくぽの手が自由にならないため、カイトは己の手をその場所に辿らせた。

弄ばれる男性器のその奥、がくが膝を割り開いたために、はしたなく曝け出されてしまった場所。

がくぽとがくによって、雄を呑みこむことを覚えさせられた、カイトのもうひとつの『性器』――

「きゅーきゅー……………っするの……………っぉなか…………せつなぃい………っっ」

カイトは強請りながら、ひくつく窄まりの表面を撫で辿る。それでもさすがに躊躇いが勝って、指を中に入れることはできない。周囲をもどかしく彷徨うだけだ。

「がくぽぉ………っ、がくぅ………っ」

切なさが募って涙声で強請るカイトに、がくぽとがくはきゅっと瞳を細めた。

「兄者」

「そうだな、弟よ」

淫らがましいカイトの振る舞いから目を離さないまま、がくぽとがくは頷く。

まずはがくぽが手を伸ばし、周囲を撫で辿るだけのカイトの手を取った。

「ぁ、がくぽ…………っ」

「そのように己で弄るなど、あまりにはしたなかろう、カイト?」

「ぁ……………っ」

うっすらと色づいていたカイトだが、その言葉には全身があからさまな朱に染まった。恥じ入るあまりにきゅっと足を閉じようとしたが、がくが体を挟んでいる。

「がく…………」

「兄者。そう、意地の悪い言い方をするな」

救いを求めるように見るカイトに、がくは苦笑しながら兄を諌めた。がくぽのほうは、それで反省することなどない。

「はしたないものは、はしたない。しかしまあ、はしたない嫁が悪いとは、一言も言っておらんな」

「当然だ、兄者。むしろ、はしたない行為を堪えも利かずにやってしまう嫁が、愛らしい」

しらっと言ったがくぽに対し、がくのほうは拳を握りそうな勢いで力説した。

肯定意見なのだが、議題が議題で、結論が結論だ。素直に歓べない。

カイトはわずかに普段のキレを思い出して瞳を尖らせ、潤んでがくを睨んだ。

「がく………っ」

「………我のほうか?」

無邪気にきょとんとする弟に、兄はやはり、しらっとした顔で頷いた。

「であろういかんな、弟よ。嫁をそうも辱めては………」

「うむ。償いをしよう」

「っぁ、がく、がくぽ…………っ」

言うや、がくぽはカイトの上半身を軽く抱えこんで自由を奪い、がくは丸まろうとしたカイトの足を力ずくで割り開く。

必要以上に大きく開かされ、もっとも無防備でもっとも恥ずかしい場所が露わにされた。

「ゃ、がく…………っ、そんな、おっきく………っ」

「ああ、愛らしいな、カイト………口がぱくぱくひくひくして、物欲しげだ。我と兄者で多少の無茶もしてしまうが、そなたの健気な蕾は、いつまでもきれいなぴんく色のまま、初々しいままだ…………」

「ゃ、ゃあ、がく………っ、おばかぁ、いちいち言うなぁ…………っ」

掴まれて自由の利かない足をばたつかせてがくを攻撃しつつ、カイトはなんとかその場所を隠せないかと身悶えた。もちろん、恥ずかしがるカイトが多少暴れた程度で堪える力の差ではない。

がくは易々と広げたまま、ちろりとくちびるを舐めた。

「しかしカイト、言わねば兄者がわからぬだろう我からは、愛らしい蕾が襞のひとつひとつまでつぶさに見えるが、そなたを背後から抱える兄者には見えぬ。したが兄者とて、嫁の愛らしい様子を堪能したいであろう?」

「うむ。我は良き弟を持った」

ひどく生真面目にこっくりと頷き、がくぽは潤む瞳で見上げてくるカイトのくちびるに、軽くくちびるを落とす。

「弟の言葉に嬲られ辱められ、羞恥に悶えるそなたの愛らしさたるや、喩える言葉も思いつかぬ」

「が、がくぽ…………っっ」

「いや、兄者………我は別に、嫁を嬲ってなどおらぬが」

「がぁくぅう……………っ」

兄が兄なら、弟も弟だ。

しらしらと続く言葉の連打攻撃に、カイトは真っ赤になってふるふると震えた。上も下も兄弟に押さえこまれて自由にならないものの、最大限に体を固めて丸め、防御姿勢を取る。

しかしある意味で、なにもかもが逆効果に働くのがカイトの亭主どもだった。

固めたことで、きゅっと締まった窄まりをがくは目ざとく見つけ、指を伸ばして襞を撫でる。

「カイト………そんなふうに締めて………それほどここに、我らを押し入れられるのが待ちきれぬか?」

「ちがぁ、………っの、おばかぁあ………っ」

襞を撫で辿りながら、がくは明後日にも明後日過ぎる言葉をこぼす。カイトはさらに震え、可能な限り体を縮めた。

嫁の羞恥などさっぱり気づくことなく、兄は弟の明後日な言葉を拾って頷く。

「そうであったな、弟よ。我らとしたことが、うっかりした………カイトははしたなくも、淫らがましく己で嬲らずにはおれぬほど、切ない想いをしているのだった。我のことは気にするな、弟よ。斯様に淫奔な嫁を焦らすほうが、罪だ」

「うむ。その通りだな、兄者。あまり焦らしては、カイトが可哀想だ。我らの嫁はいつまでも初々しく愛らしいままだが、夫に貫かれて腹を掻き混ぜられ、至極の快楽を得ることを、すでに十全に知っておる……いわば淫婦だ」

「うむ………清らかな天使の容貌で、斯様に淫らな性を持つ。我らの嫁の愛らしさたるや、比類ない」

「悩ましいことだな、兄者……我らが治まる隙もない」

「……っの、ぉばか………ぁ、どもぉ………っ」

がくの指が、締めた襞の周りを緩やかに撫で辿っている。

その状態で続く、どうしても生真面目なままの感想会に、カイトはふるふるを通り越してぷるぷると震え、ぐっすんと洟を啜った。

恥ずかしい。

淫らだのはしたないだの、ひとを淫乱扱いするなと殴り飛ばしたいが、がくの指がそこに触れている。

せっかく締めて拒む動きをしたというのに、ゆるゆると撫でられているだけでもう、中に入れてほしくて、力が緩んでしまう。

確かにカイトはここで、男を――おばか亭主どもを受け入れ、ただ男性器を弄られるより遥かに強い快楽を得ることを知った。

それもこれも、教え込んだのは好き勝手言っているおばか亭主どもだ。

いくら先に起動していても、カイトはまっさらきれいな体だった。それにあの手この手を尽くし、淫らではしたないことを覚えさせ、仕込んだのはがくぽとがくの二人だ。

なにを他人事のように言っているのかと思う。

しかしここで下手なことを言うと、入れてほしくないのかどうしてほしいのかと、明後日な問いが落とされる。

そして最終的に、なにをどうしてほしいか、すべて逐一、細々詳細に告げる羽目に陥るのだ。

言われなければしてほしいことがわからぬと言われ、さんざん煽られて熱が篭もった体を放置され――あそこを舐めてここを舐めて、指でつまんでつねって捻って、齧って咬んで、おなかに出して、もう一回、もっともっと…………

全部言わされた。

あんな恥ずかしいことは、二度とごめんだ。

「がくぅ………っ」

「よしよし、可哀想に………」

「ぁ、ん………っ」

ひたすらに羞恥と憤りを堪え、涙目で呼ぶだけにしたカイトに、がくが屈みこむ。

指で触れていただけの場所に躊躇いもなくくちびるを寄せると、ひくつく窄まりにちゅくりと吸いついた。すぐに舌が伸びて、ほどくようにやわらかに揉まれ、とろりと濡らされる。

「ふぁ……っぁ…………っ」

びくんと大きく跳ね、カイトはようやく与えられた愛撫に体から力を抜いた。