Spiders Love
「かいちょ、せっしゃももう、大きいのでごじゃる。いつまでも、かいちょにそいねしていてもらうわけにも、いかぬでごじゃる。ゆえに、今日からひとりで寝るでごじゃる!」
高々と吐かれた宣言に、カイトは瞳を瞬かせてがくたんを見た。
大きいとは言うが、がくたんはまだまだひとりで着替えも覚束ないし、お風呂で体を洗うのもカイト任せだし、ごはんだって介添えしてもらっているというのに。
しかし、自立心があること自体はいいことだ。男の子らしい矜持も微笑ましいし、そうやって一歩一歩、大きくなっていくのだろう。
「カイトとは、別のお布団で寝るの?それとも、別の部屋で寝るの?」
おっとりと訊いたカイトに、がくたんはその差をわずかに考えた。
ややして、きりっと表情を引き締めると、カイトをしっかりと見つめる。
「べつの部屋でごじゃる!せっしゃはおのれの部屋で、ひとりで寝るでごじゃる!」
「……」
幼顔でも、きりっと表情を引き締めると、それなりに男前に見える。
今からこんなに男前だと将来はどうなるんだろうなどと、明後日な心配をしつつ、カイトは胸を逸らすがくたんの前にしゃがみこんだ。
ちょこんと、首を傾げる。
「あのね、でもね、がくたんは、カイトのお婿さんなんだよね?カイトはがくたんのお嫁さんなんだよね?」
「む?もちろんでごじゃる!かいちょはせっしゃの嫁、せっしゃはかいちょの婿でごじゃる!」
高らかに答えたがくたんに、カイトは頷いた。
「つまり、夫婦だよね。夫婦がおんなじ家にいるのに、寝室分けるの、『家庭内別居』って言って、離婚寸前なんだけど」
「りりり、りこん?!」
裏返った声を上げるがくたんに、カイトは悲しそうな顔をしてみせた。
「………がくたんは、カイトと、離婚したいの?」
「なななな、そんなわけないでごじゃる!!かいちょとせっしゃは死ぬまでいっちょ、死んでからもずっとずっといっちょでごじゃる!!離婚など、ぜっっっっっっっっったいにしないでごじゃるぅうううっっ!!」
「ん!」
顔を赤くして力いっぱい叫ぶがくたんに、カイトはにっこり笑った。小さな体を抱き上げ、頬ずりする。
「じゃ、カイトといっしょに寝ようね?いっしょのお布団で、抱っこ抱っこで」
「ぅむ!!」
力強く頷くがくたんに、カイトはますますうれしそうに頬をすり寄せた。