I'm waiting you
「ぬ………まさか、そのような……っふむふむふむ………!!」
「………がーくーたーん……………かーえーろー?」
託児室の玄関口で、カイトは小さくちいさく、内緒話に夢中になっているがくたんを呼ぶ。
いつもならカイトが来るより先に、玄関口で待機しているがくたんだ。が、今日はどうやら、内緒話のほうに気を取られているらしい。
相手は、黄色頭の双子のちみっこだ。
子供の内緒話に割って入るのも大人げないが、正直、寂しい。保育士たちがなにくれとなく話しかけてくれるのだが、そうではなく――
「ぬ、かいちょ、またせたでごじゃる!」
「んーん、いいよ、がくたん」
手持無沙汰でぼんやりしていたカイトだったが、ようやく駆け寄ってきてくれたがくたんに花のように微笑んだ。
思わずぼやっと見惚れるがくたんを抱き上げると、カイトは託児室から出る。
「ずいぶん夢中だったね。どんな話してたの?」
「ぅ、ぬぬ………!ぷらいばしーにかかわるゆえ、ないちょなのでごじゃる!」
「ぷ、らいばしー……ですか………」
ちょっぴり呆然としつつその単語をくり返し、カイトは笑った。
なんでも全部、話してもらえないのは寂しい。
けれど、そうやってひとのことを気遣えるがくたんは、誇らしい。
「♪」
はなうたをこぼすカイトを複雑な顔で見つめ、がくたんは腕の中で伸び上がった。カイトの耳朶にくちびるをつけると、声を潜める。
「かいちょ、かいちょは、『オトナのちゅう』というものを、したことはあるでごじゃるか………?」
「大人のちゅう………って、がくたん………?」
「オトナのちゅうというものは、べろをなめるものだというのは、ほんとでごじゃるか………?」
ひそひそささやかれるがくたんの言葉を考え、カイトは大体のことが飲みこめた。
プライバシーに関わる内緒話、がくたんの突然の『大人のちゅう』発言。
そして話していた、黄色頭の双子のちみっこと、その保護者――
「せんせって、ほんっと躊躇いがないなぁ………」
呆れたようにつぶやき、カイトは腕の中で不安げな顔をしているがくたんを見た。
「…………してたら、どうする?カイトのこと、キライになっちゃう?」
「ならぬでごじゃる!!」
訊いたカイトに、がくたんは大声で否定した。首にしがみつく手に力を込める。
「そんなことでキライになど、ならぬでごじゃる!………れも、れも………こぇかぁは、せっしゃとらけ……っせっしゃと………っ」
男前に言い切っていたが、最後は涙に掠れて呂律が回らなくなった。
ずびずびと洟を啜りながらしがみつくがくたんを抱きしめ、カイトはやさしく頭を撫でた。
「ん、もぉ、がくたんが来てからは、だれともしてないよ………がくたんのこと、ちゃんと待ってるんだから………」