ざらめとシロップ、ハチミツたっぷりレモネード
今日のかいちょについて、保育士が報告してくれる。しかしがくぽはほとんど耳に入らず、気もそぞろで、ちらちらと託児室の中を窺っていた。
かいちょが笑っている。傍らに、黄色頭の双子のちみっこたちがいて、そのふたりと、なにやらひそひそ話中だ。
いつもならどんなに遊んでいても、がくぽを見ると放り出して駆け寄って来るのに、一向にやって来ない。
「………かいちょ、そろそろ帰らぬか」
「ぁ、あ、ぁくぽ……まってまって。かえゆ………ばいばい、りんちゃ、れんちゃ」
「「まいまい、かいちゃん」」
双子に手を振り、かいちょはぱたぱたと駆け寄って来た。
その小さな体を複雑な思いで抱き上げ、がくぽは託児室から出る。
社交性を身につけるために、託児室に通わせているのだ。友達が出来て、遊ぶのが楽しいのはいいことだ。
いいことだが――
「なにを話していたのだ?」
何気なさを装って訊くと、かいちょはぱっと赤くなり、がくぽの首に顔を埋めた。
「ないちょ………」
「……」
一気に不機嫌になって、がくぽは自分で少し慌てた。
社交性を身に着けさせ、かいちょの世界をがくぽから独立させるための託児室通いだ。
がくぽに秘密が出来るのはいいことで、順調に成長していると――
すべてが言い訳で、詭弁になってしまう。
「…………ね、ね、ぁくぽ…………ぁくぽ、おちょなのきしゅって、しってゆ?」
「大人のキス……?」
不機嫌に気がつかないかいちょが、まだ赤みを残した顔で覗きこんでくる。
訝しげながくぽに、かいちょは腕の中で伸び上がり、耳朶にくちびるをつけた。
「……あのね、あのね………おちょなのきしゅって、おくちのなかに、べろいれゆの……べろなめなめすゆの…」
「っ」
その手の知識から隔離して育ててきたはずのかいちょの言葉に、がくぽは素直に固まった。
目の前が真っ暗になってふらつくがくぽの耳に、かいちょはさらにくちびるを押しつける。
「あのね、あのね…………ぁくぽ、ないちょね?ないちょ………りんちゃとれんちゃね、しぇんしぇに、おちょなのきしゅしてもゃったんだって………」
「…………っぁんっの、堪え性のないヘンタイが……………っっ!!」
かいちょの言葉に、がくぽは歯を軋らせながら吐き出した。
壮絶な顔をしているがくぽの頬に、かいちょは赤く染まった頬をぺったりとくっつける。
「ぁくぽ………かいちょも、おちょなのきしゅしたい………ぁくぽと、べろなめなめしたい………」
「っっ」
意識を飛ばしかけて、がくぽは寸でのところで堪えた。
「…………ぁくぽ」
甘い声で強請られて、がくぽは小さな体を抱え直すと、重々しく告げた。
「…………大人のキスはな、かいちょ。おんもでするものではない」