Pink Pepper Picked a Pig
「♪ぶーたのちっぽはちょんちょろちょろりん♪ちょんちょろちょろりん♪ちょん………っっくっ!!」
明るくうたっていたカイトだが、そこで力尽きた。
床に頽れると、腕を突いてなんとか体を支える。
「か、かいちょ………」
恐る恐ると振り返ろうとしたがくたんだったが、叶わなかった。
頽れたカイトの両手が伸び、後ろを向いているがくたんの腰をがっしり掴んで押さえたからだ。いや、押さえただけではない。
漲る男気とは別に、未だ発展途上のがくたんの体をぎゅうううううっと力いっぱい抱きしめた。背後から。
「がくたんのおちりにぶたさんちっぽ!ちょんちょろちょろりんぶたさんちっぽ!!ぃやぁああああっ、かわぃいいいいいいいいいっっ!!」
「ぉおお、おちつくでごじゃるぅうっ、かいちょぉおおお!!」
「ぁあああんっ、がくたんのおちりにちょんちょろちょろりん!ちょんちょろちょろりん!かーわいーいーねっっ!!」
ほとんど悲鳴のような歓声を上げられ、がくたんはがっしりと抱きしめられたままあぶおぶと慌てた。
しかしがくたんを背後からがっしり抱きしめているカイトは、まったく構わない。うたっているのか叫んでいるのか微妙な節回しで感動を言葉にしつつ、すりすりすりすりとがくたんに頬ずりをする。
正確に言うと、がくたんの尻にちょろんと付いた『ぶたさんしっぽ』に。
現在のがくたんは、ぶた耳フードとぶたしっぽ付きの着ぐるみウェア姿だった。鼻にはご丁寧に、同じ生地で作られたぶた鼻マスクをつけている。
今のがくたんは完全に、こぶたちゃんだ。
初め、カイトはがくたんにこぶたちゃん衣装を着せることに、それほど乗り気ではなかった。
なにしろこぶたちゃん衣装は元の動物が動物なだけに、頭からつま先まで、全身ピンクだ。
未だ発展途上とはいえ、男気溢れるがくたんにまっぴんくの衣装は、カイトからすると微妙な抵抗があったのだ。
それでも着せたのは、こぶた衣装をくれたのが妹のミクだからだ。
きょうだい間の義理や諸々もある。がくたんもわかっていたから、微妙な顔のカイトに着てくれるかと聞かれて、素直にこっくり頷いた。
頷いて、早速と着替えて――
「ぁあもう、がくたんのおちりにぴんくのちょんちょろちょろりん、ちょんちょろちっぽ、ぷりぷりきゅぅうううっっ!!」
「か、かいちょ………っっ!!」
――このざまだ。
着替えたがくたんを正面から見たときに、すでに兆候はあった。カイトの顔色というか、目の色が微妙に違ったのだ。
しかしカイトが完全に崩壊したのは、がくたんがくるんとターンして後ろを向いたときだった。
着ぐるみウェアの、ちょうどお尻が来るあたりに付けられていた、ちょんちょろちょろりんとしたぶたしっぽ。
がくたんがふりふりとお尻を振ると、いっしょにふらふらと揺れて遊ぶぶたしっぽ。
なんにもしないでいても、ちょんちょろちょろりんとしている、ぶたしっぽ。
――つまるところ、非常にカイトのツボだったのだ。
そうでなくとも日々、かわいいかわいいと溺愛しているがくたんだ。
そのかわいいかわいいがくたんに、ちょんちょろちょろりんとしたかわいらしいぶたしっぽが生え、かわいい相乗効果。
カイトの理性も正気も、すっぱんとお空の彼方に飛び去った。
「がくたんのおちりにぷりぷりちっぽが、こんなに似合うなんて………っ!ぁあもう、もう、もう…………っ!」
そこまで叫んで、感極まったらしい。
カイトの動きも声も、ぴったりと止まった。
「か、…………かい、ちょ………?」
「うん!」
恐る恐ると呼びかけたがくたんに、カイトは顔を上げた。ぎゅうっと抱きしめていたがくたんを離すと、へらりと笑って立ち上がる。
「写真撮ろ!あ、じゃなくて動画!ああ、ううん!写真も撮るけど、動画も撮っておこ!がくたん、カイト、カメラ取って来るから、いいこにしててねー!」
「か、かいちょ………!」
がくたんの言葉などさっぱり聞かず、カイトは怪しい笑い声を上げながら怪しい足取りで、カメラを取りに行ってしまった。
見送るしかなかったがくたんはしばし止まってから、そろそろと動く。
首を傾げながら自分の姿を確認し、軽く動いてみてとして、肩を落とした。
「せっしゃにはまだ、オトナの考えることはむつかしいでごじゃる……………」