ソファに座り、目を閉じるがくぽのくちびるに、ちゅっと軽く当たる、やわらかな感触。

仔猫ドルチェ平常

「…………カイ」

「ん……あたり」

目を閉じたまま答えたがくぽのくちびるに、再び、やわらかに当たるもの。

「………イト」

「んー………ぁたり」

がくぽが答えると、またもくちびるに、当たるもの――

「………」

ちゅっちゅとさざ波のようにくり返されるキスに、がくぽは目を閉じたままわずかに眉をひそめた。

なにをやっているのかと、自分で自分にツッコミを入れる。

ツッコミを入れるが、その間にもくちびるにはちゅっちゅ、と。

「カイ」

「ん、ぁたり」

「イト」

「ぁたり……」

「………」

何戦やったか、もはや数えるのも億劫になったが、がくぽは今のところ負けなしだ。

そろそろ諦めて、――とかなんとか、言い出せばいい。

言い出せば、いいのだが。

「っ」

ちゅっちゅと、単純に触れて離れるだけだったものが、かふっと、下くちびるを甘噛みしていった。

「………カイ」

「あたり」

カイの声は熱っぽく、とろんと蕩けて潤んでいる。

目を開けたならきっと、声そのままの表情で、うっとりとがくぽを見つめているのが確認できるだろう。

思わずくちびるを噛んだがくぽだが、そこに、てろりと舌が這わされた。

「……………」

「……………」

「……イト」

「ぁたり」

どちらかというとやんちゃで姦しいイトだが、今の声は滴る蜜のように甘く重い。

おばかさんらしい無邪気な表情はきっと、詐欺だと叫びたいほどに色めいて、艶やかにがくぽを見つめているだろう。

罰ゲームか、さもなければ新手の拷問か、もしくはサトリを開くための、斬新な修練。

対カイ・イトとの、目隠しによる『だーれだ』ゲームで、全戦全勝記録を更新し続けているがくぽだ。

これまでのところ、一度として負けていない。

――のが、負けず嫌いのイトに火をつけ、おっとりさんのカイにすら、やる気を漲らせてしまったのか。

単に目隠しをして『だーれだ』とささやくだけでは済まなくなってきている、今日この頃。

今回二人がやりだしたのが、キス当てだった。

目を閉じたがくぽに、どちらかがキスをする。

そのキスの相手を当てろ、と――

がくぽにはそろそろ負けてやる、オトナ気というものを発揮するべき時が来たのかもしれない。

「…………外れないね、がくぽ」

負けているカイだが、その声はうっとりとした響きがあり、どちらかというと感嘆している。

斬新な勝負方法を考えつくカイだが、それは勝ちたいというより、『どうあっても負けないがくぽが見たい』という発想に因る。

だからがくぽが負けないことは、カイにとっては逆説的に、勝利――

「だね。………おれとカイって、おんなじはずなのに」

つぶやくイトは、いつもの勝負だと、ここまで負けが込んだ時点で癇癪を起こしている。

しかし勝負の内容が内容だからなのか、今日はとろんと蕩けた響きのままだ。こういうところがものすごく、かわいらしい。

ときめきつつも堪えて目を閉じるがくぽの前に座ったカイとイトは、顔を見合わせた。

「ね。僕たち、おんなじKAITOなのにね」

「ふっつーにちゅうするだけじゃなくて、咬んだり舐めたりもしたのに………もしかしておれたちが思うほど、おれたちっておんなじじゃないの?」

「え、そうなの僕たち、おんなじなのに、おんなじじゃないの?」

――目を閉じて会話を聞いていると、ときめきのあまりにうずうずが止まらなくなるがくぽだ。

ツッコみたい。

このかわいいおばかさんたちもう、滅茶苦茶ツッコみたい。アレ的にも。

きゅっと、殊更にくちびるを引き結んだがくぽに気がつかず、カイとイトは顔を見合わせたまま首を傾げる。

「そんなに、ちがうかな………」

「わかんない。おれ今まで、カイとおんなじだーって思ってたし」

「僕もだよ。マスターがちょっとだけ、声変えてるのは知ってるけど。それくらいだって」

戸惑いながら言い合い――

「こら待て己ら」

「「ん?」」

ユニゾンで疑問符を飛ばされたが、ようやく目を開いたがくぽはめげることもなかった。

目を開く前に伸ばしていた手でカイとイトの頭を素早く掴み、眉をひそめる。

「どうして己らはそう、油断すると、二人でちゅっちゅちゅっちゅとやり出す!」

「え、だって、がくぽがぜんぜん、間違えないから……」

「そんなに口の感触ちがうかなーって、カイと比べようと」

どうしてこうも悪びれることなく、あっさりと言うのだろう、この二人は。

脱力して、がくぽは二人の頭から手を離した。

離されても、カイとイトがキスを再開することはない。楽しそうに笑うと、膝立ちになってがくぽに顔を寄せた。

「もぉ、がくぽってほんとに、ヤキモチ妬きさんだよねっ」

「そぉそぉ。おれとカイがちゅうするとすぐ、はぶんちょにされたってスネるんだからっ」

「己らなあ…………」

きゃっきゃと楽しそうに言われることに、山のように反論がある。

反論があるが、楽しそうに言いながらくり返されるキスに埋もれて、言葉が続かない。

よくあることなので、がくぽは早々に諦めた。

諦めたうえで、落ちていた手を上げるとカイの後頭部を撫でる。

「んっ!」

軽く触れて離れようとしたのを押さえると、深くくちびるを合わせた。これまで散々煽られた分を取り戻すかのように、口の中を貪る。

「ん、んんぅ、ん、ん…………っふ………っ」

「………イト」

「ぇ、あ、んんっ」

がくんとカイの膝が落ちたところでくちびるを離し、がくぽはいいこに待っていたイトに手を伸ばす。

なにか言いかけたのを聞かずに塞ぐと、こちらも丹念に口の中を弄った。

「んん、ん………ぁ、ん、ふ……っぁ」

「…………よし」

イトの膝も崩れたところで、がくぽはくちびるを離す。

おかしなゲームで煽られた分の、すべてを取り戻したとは言わないが、少しばかりすっきりした。

くたんと崩れたカイとイトは、がくぽの膝に頭を預けた。こつんと、額を合わせる。

「………あのね、いっちゃん。僕、がくぽのちゅうだったら、わかる」

「ん、おれもわかる、カイ」

痺れてもつれる舌でとろんと言った二人は、力の抜けた手を持ち上げると、きゅっと握り合った。

蕩けきった顔で、笑う。

「「こんなえっちなちゅう、他にないもん」」