はらぺこルクルス晩餐会-後編-
「ん、ぷぁ………ぁ、ふゃぅ………」
「ふ………」
解放したカイのくちびるから蕩けた声が上がり、がくぽは微笑んだ。伸し掛かったまま、顔に軽くキスの雨を降らせると、瞳を覗きこむ。
「落ち着いたか?」
「ん………っ、きもち、ぃ………の………」
カイが上げた声も蕩けて甘かったが、覗き込んだ瞳もいい感じに蕩けて正気が飛んでいた。がくぽが動きだすことを待てずに、腰を振り出しそうな風情がある。
がくぽに割り開かれたカイの足は、快楽を堪えようと力が入り、ずっと細かな痙攣をくり返している。
視線をやったがくぽは、くちびるを舐めた。
ロイドとはいえ、男の体だ。少々過ぎるがくぽのものを受け入れて、そうすぐに動くわけにはいかない。
衝撃や、どうしても覚える恐怖心を落ち着かせるため、しばらくキスをくり返してあやし宥め、蕩けるのを待っていたが――
「ふん」
がくぽは鼻を鳴らす。堪え性のない、自分にだ。
これ以上は、自分のほうが持たない。
もともと、がくぽに対して素直で従順なカイだ。凶器と化したものを飲みこんでも、すぐに蕩けて受け止めた。そうなると、限界が近かったがくぽに堪えが利くものでもない。
「んひゃっ。カイ、きもちいさそっ」
「ぁ、いっちゃ………」
組み敷いた相手に負けず劣らずな蕩けた声が上がって、がくぽは顔を向けた。布団に転がしたカイの傍らに座る、イトだ。
「おっきーの、いたくない、カイ?も、きもちぃ?」
「ん、いっちゃ………きもち、ぃ、の………なかで、びくびくって、してて………」
「ふぁっ!」
がくぽが組み敷いているのはカイで、腹にねじ込んだのもカイだ。イトはがくぽの言いつけどおりに『いい子待機中』で、なにもされていない。
それでも上げた声は甘く、まるで自分がされているかのようだった。
カイとイトは同型機ではあっても、双子機ではない。思考の共有もしないが、感覚の共有もない。
はずだが、イトは蕩けたカイに釣られて、共に快楽に浸けこまれたようになっている。
「………まったく」
言っては難だが、面白い。
二人相手では、どうしても一人に掛かりきりになる瞬間がある。
そこで相手を思って微妙な気持ちになることもあるがくぽだが、カイとイトは相方の感覚に引きずられ、まるで共に愛撫を受けているような反応を返す。
カイが気持ちよければイトも気持ちよく、イトが蕩ければカイも蕩ける。
興味深いという意味でも、単純におかしいという意味でも、面白い。突き抜けて、愛おしく可愛らしい。
そうとはいえ、イトが待機中で、いわば『暇を持て余している』状態なのは間違いない。
がくぽは考えることを打ち切ると、体を浮かせた。カイの足を抱え直すと、一度腰を突きこむ。
「っぁ、ひゃぁんっ!」
「ふぁあっ」
カイの口からかん高い声が迸り、わずかに遅れてイトが甘く啼く。
苦笑しながらも大丈夫だと見極めて、がくぽはゆっくりと抜き差しを始めた。
「んっ、ぁ、あ、ぁあんっ、ぁあっ、ぁ、かたっ、ふと、ぃ、のっ、あつ、ふとぃ、のっ」
「ふやぁ………っ」
気遣われながらもそれなりの律動で腹を掻き回され、カイは間断なく声をこぼす。
快楽ゆえの涙が瞳からこぼれ、手がなにかを堪えるようにきゅっと、布団を掴んだ。
「カイ、きもちぃさそ……っ。ん、んんっ」
背を仰け反らせて悶えるカイを眺めていたイトが、堪え切れずに体をもぞつかせる。
ちらりとがくぽを窺ってから、にこぱっと笑み崩れた。
「んっ!おれも、カイのこと、きもちいくするっ!」
「イト?」
かわいい宣言だったが、なにかが聞き捨てならない感もある。
ふっと眉をひそめたがくぽをもう一度見て、にこぱっと笑ってから、イトは屈んだ。開かれているカイの体にくちびるを寄せると、ちゅっと胸に吸いつく。
「っぁ、ふやぁっ!」
「っっ!!」
カイの反応も顕著だったが、がくぽも慌ててくちびるを噛んだ。寸でのところで堪えたものの、危うく持って行かれるところだった。
「んふっ!カイ、おっぱい、好きだよね。神威がくぽにちゅうちゅうされると、いっつもとろんとろんになるしっ」
「ぁ、あ、め、だめ……いっちゃ、め……っ!おっぱいちゅうちゅう、がくぽがしてるとき、しちゃ、だめぇ………っ!」
得意然としたイトの言葉に、カイの悲鳴のような声が被さる。
いつもは、カイを虐めたらだめだと、こんな声を聞けば即座に止めるイトだ。
しかし今日は胸の突起を口に含んでしゃぶったまま離れず、ちらりとがくぽを見た。
制止も出来ないほど、忍耐のどつぼに叩き落とされている男を。
イトが与える刺激を堪えようと、カイの足ががくぽの腰をきつく締め上げているが、そこだけではない。きつく締まるのは、がくぽが押し込んだ腹の中も同様だ。
締め上げて絞り、これ以上なく限界を誘発する。
「………きもちいーでしょ、カイ?神威がくぽに、おしりぐちゃぐちゃされながら、おっぱいちゅうちゅうされるの。おれも好きだし、カイが好きなのも、おれ、知ってんの!」
「ゃあぁん、いっちゃぁあ………っ!」
カイはますます甘い声で啼き、痺れる腕を繰って、懸命にイトの頭を抱き寄せた。
大人しく胸から離れたイトだったが、口だけだ。招かれるままにカイとキスしながら、手は胸に残して、ぷっくりころんと勃ち上がった粒を弄り回している。
「ぁ、も、いっちゃ………っひあっ、がくぽっ?!」
「んぁっ?!」
諌めようとしたカイの言葉は皆まで言うことができずに途切れ、悪戯に煌めいていたイトの表情も驚愕に染まった。
共に驚愕に落とされた二人は、反射できゅうっと抱き合うと、揃って視線を下にやる。
「ぁ………っ」
「ちょ、や、ぅそぉっ!」
言葉もなくなったカイはイトにしがみつき、イトもまた、悲鳴を上げてカイにしがみついた。
唐突に足を引かれ、姿勢を崩されたイトだ。かと思えば、開かれたそこにすぐさま、がくぽが顔を埋めた。
カイに釣られていたイトだが、そうまでの反応ではなかった場所を、思いきり嬲られている。
それもひどく巧みに。
「ちょ、神威がくっ、がくぽっ!や、ばかぁっ!おま、今、カイ………っカイのこと、ちゃんときもちいく、して………っ」
「ゃぁあっ、がくぽっ!そこいっぱい、ぐりぐりした、めぇっ!そこ、そんな、つよく、ぐりぐり、したらぁ………っっ」
「ぅそぉおおおっ?!神威がくぽのえろえろどすけべぇえええええっ!!」
――事態を悟ったイトが、悲鳴を上げた。
光源の関係と、慌てていたので錯覚したが、がくぽはカイに突きこんだものを抜いたわけではなかった。未だに貫いていて、掻き混ぜている。
そのうえで、イトの下半身に顔を埋めていたのだ。
確かにがくぽは器用だが、そうそう楽な作業でもない。イトの腰を押さえつける手には、気遣いのほとんどない力が込められていて、爪が食いこんで痛い。
カイもそうだ。いつもなら、あまり怖がらないようにと穏やかに苛む弱点を、これでもかときつく攻められている。
惑乱したカイは、縋るものを求めてイトに懸命にしがみつき、結果として拘束された状態のイトは、がくぽから逃れることが出来ない。
「っや、ぅそっ、ぅそ………っ、ぅそって、いえっ、ばかぁ、えっちぃいい………っ」
「ぁ、も、だめ、め………ぁああ、つよ……っ、がくぽ、つよすぎ………っ、ぼく、も……っいっちゃぁ……っ」
「ふぁ、カイぃい………っ」
「んんん………っっ」
きゅうっと抱き合ったカイとイトは、そのままちゅくりと口づける。惑乱するままに舌を絡めて吸い合い、ぶるりと震えてくちびるは解けた。
虚ろなまま、反射で流した視線の先。
体を起こした男はカイの腹には爆発寸前の雄を、イトの腹には指を突きこんだまま、ふんと鼻を鳴らした。
勝利宣言にも、不機嫌の表明にも取れる。
光と影の加減、そして帯を解いて羽織ったまま、広がる浴衣の相乗効果だろう。
常より巨躯となったように錯覚する男は、蕩けた瞳で自分を見つめるカイとイトをしばし眺め、もう一度鼻を鳴らした。
今度は、上向いた機嫌が垣間見えた。
カイの中に強く深く突き入れられたものから、熱が迸って腹を満たす。
同時にイトの中にねじ込まれた指が、これ以上なくきつく粘膜の一点、もっとも弱い場所を抉った。
「ぁ………っぁああっ」
「ひぃあ……っ!」
カイが一際大きく啼いて仰け反り、その姿勢で固まってびくびくと痙攣する。イトの瞳からはぼろりと涙がこぼれ、やはりがくがくと痙攣をくり返した。
束の間の沈黙があり、ややしてカイとイト、二人の体から力が抜けて、布団に埋まる。
「ぁ………」
「いい子だ。――大丈夫か?」
「んく………」
ずるりと抜けたものの感触があり、再び震えたカイに、やさしい声が降って来た。
間近に顔を寄せたのは、いつものがくぽだ。穏やかに、少しばかり気まずげに、カイの様子を窺う。
快楽に飛ばされた思考では、咄嗟に応じることも覚束ない。
しばらくただ、見つめていただけのカイだが、がくぽが痺れを切らせる前には頷いた。
「だぃ、じょぶ………きもち、よすぎた、だけ………」
「そうか」
「ん………」
頷いたがくぽは、カイの瞼にそっと、慰撫するキスを落とした。
カイはふるりと頭を振って、わずかに舌を突き出す。がくぽは苦笑したものの、強請られるままにカイの舌を咥え、やさしく弄ってやった。
「いたずら小僧に、仕置きしようとしただけなんだがな。………巻き添えた。すまん」
「ぅうん。へーき、ほんとに………」
謝罪を落とされて、カイは健気に首を振る。怠いながらも笑って見せたところで、傍らから怨嗟を含む呻き声が上がった。
「いたずらこぞーって、おしおきって、……かーむーいーがーくーぽー………っ」
「問うまでもないぞ。愚の骨頂だ」
「んのっ、えろえろどすけべぇっぶぎゃっ?!」
「い、いっちゃ?!がくぽ?!」
イトの罵倒は、言葉通り潰された。ようやく衝撃が去って起き上がったイトの足を、がくぽは無造作に掴んで引き、再び布団に転がしたのだ。
べっちゃりと布団に潰れたイトの体を反すと、両足を掴み直して高く掲げ、殊更に開く。
「っや、なにする、かむぃ」
「あれで仕置きが終わったと、まさか思っておらんだろう、イト」
「ぴぎゃっ?!」
羞恥に爆発するように赤くなったイトの、暴れる足も軽々押さえたがくぽはきっぱりと言い、笑う。覗いた舌が、嗜虐の悦びに歪むくちびるをてろりと舐めた。
「が、がく………いっちゃ」
「カイもな?いい子にしておれ。イトの仕置きが終わったなら、埋め合わせてやるゆえ」
「ぅめ………」
怠い体で懸命に仲裁に入ろうとしていたカイだが、がくぽの言葉にぴたりと止まった。
お仕置きもアレだが、おそらくその後の『埋め合わせ』というのも。
ついでに言うと、イトは認めないが、カイは知っている。がくぽは『お仕置き』しっぱなしでは終わらせない。嗜虐傾向はあるが、基本的にはやさしく、甘やかすことが好きな性質なのだ。
必ずきちんと、お仕置きの『埋め合わせ』がある。
つまりイトをお仕置きし→カイに埋め合わせ→イトに埋め合わせ――
「かかか、神威がくぽのえろえろどすけべさどさどぉおおおおおっ!!」
「がくぽ、かっこぃいいい………っっ!!」
――ときたま、双子機なのかと疑うような、カイとイトだ。
しかし合わない思考と嗜好もある。
イトの罵倒とともに、カイの蕩けた賞賛もきちんと聞いて、がくぽは笑った。
仲良くがくぽに熱中し、懐く二人は突き抜けて愛らしい。
しかしもうひとつ言うなら、罵倒と賞賛を同時に与えられることもこれ以上なく悦くて、癖になる。