「かーいーむぐっっ!!」

元気よく生徒会室へと飛び込んできたリンは、慌てて自分で自分の口を塞いだ。

ひざまくま

「むぐぐーっ」

「ぁはっ」

自分で押さえておいて苦しそうに呻くリンに、読んでいたファイルから顔を上げたカイトが笑う。

いつもよりずっと、潜めた声で。

こみ上げる言葉のすべてをごくごくと飲みこんで、リンはカイトへ向かって、しゃきっと敬礼した。

「鏡音リン、校内の見回りに行ってきまっす!!」

元気いっぱいに、けれど小さくちいさく潜めた声で言う。

「ありがと」

笑って手を振ったカイトに満面の笑みで手を振り返し、リンはくるりと踵を返した――ところで、遅れてレンが入って来る。

レンは生徒会室の中を見るや、目を剥いた。

「ああっ、犬っっ!!てめえ、むぐがっ!!」

「レンもいっしょに行くよっっ!!」

「ぐがぁああっ!」

タックルを掛けてきたリンに首を締め上げられ、そのまま引きずられて、レンは生徒会室から連れ出された。

「かいちょーなんか今、鏡音のツインズが…………ありゃ」

「あらあら、まあまあ」

「しー」

不思議そうな顔で廊下を見やりつつ、並んで入って来たミクとルカに、カイトは笑って人差し指を立てた。

顔を見合わせたミクとルカは、自分の手で自分の口を塞ぐと、机に向かうカイトの傍にそっとやって来る。

机に向かうカイトの隣。

並べたパイプ椅子三つ――プラス、カイトの膝を占有して、がくぽがぐっすりと眠りこんでいる。

「ありゃまあ、わんこともあろうものが、また、無防備な………」

「ずいぶんと会長に懐きましたわね」

呆れたようにつぶやくミクに対し、ルカの方は微笑ましげに瞳を細め、おっとりと言う。

カイトは微笑んで、膝に乗るがくぽの頭を撫でた。

「いーでしょ」

「はいはい」

「羨ましいですわ」

得意げな会長に、ミクは肩を竦め、ルカは微笑んで頷いた。

「んっじゃまあ、ボクらもちょっと……」

「はい。校内の見回りに参ります」

「ん。ありがと」

仲良く手を繋いで出て行く二人に手を振り、カイトは笑って膝の上のがくぽを見下ろした。

これだけわいわいやったのに、ぐっすり眠ったまま、起きる気配もない。

それだけ、カイトのことを信じて、気を抜いてくれているということ――

「………ちょっと、油断し過ぎだけどね」

つぶやき、掬い上げた髪にくちびるを落とすと、カイトは再びファイルへと目を戻した。