ため息。
それから、仕方がないと笑い、カイトは向かいに座るがくぽの頭に手を伸ばした。
安眠まくま
幼い子供でも相手にしているように、くしゃくしゃと撫でてやる。
「こっちおいで、がくぽ。ベッドとかソファほど寝心地は良くないけど………膝を貸して上げるから」
「……」
いつもは向かいに座って、カイトがやることをじっと見ているがくぽだ。それが今日は半眼で、しきりと舟を漕いでいる。
素直に机に伏せって寝ればいいのに、そうはしない。頑固に、起きていようとする。
けれど今日の睡魔は、なかなかに強固らしい。さっきからずっと、ふらふらゆらりが、止まらない。
なにをしてそれほど疲れているのか訊きたい気もするが、眠い『子供』に理由を問うのも愚かだ。
やさしく誘ったカイトに、がくぽは怠そうに瞳を瞬かせた。
生徒会室にあるのは、パイプ椅子ばかりだ。
もちろん、単体では人一人が座るのが精いっぱいだが、幸いというかなんというか、数だけはある。いくつか並べれば、寝心地抜群、とは言わなくても、体を横たえることはできる。
そこに『枕』をプラスしてやれば、学校内ではそこそこ恵まれた寝場所と言えるだろう。
「ね?」
「…」
頭を撫でながら再度促したカイトに、がくぽは軽く顔をしかめた。頭に置かれた手を弾き飛ばし、無言で立ち上がる。
机を迂回してのそのそとやって来ると、カイトの隣にべちゃりと、落ちるように座った。適当に近場の椅子を並べて長さを確保して、ごろりと横になる。
膝の上にやって来た頭に、カイトは懲りることなく手を伸ばし、乱れた髪を梳いてやった。
「おやすみ、がくぽ」
「………」
やさしくささやくと、がくぽは眉をひそめて目を閉じた。手が伸びて、頭を撫でるカイトの手を取る。
縋るように握りしめられて、カイトはその手でがくぽの体をあやすように叩いた。
「大丈夫。俺がいるから」
「………………ああ」
呻きにも似た声でようやく応えて、がくぽの体から力が抜けた。
聞こえるか聞こえないか、あえかなあえかな寝息。
それでも、手は握りしめられたまま。
カイトはがくぽの寝顔を眺め、握りしめられた指を軽く、タップさせた。
「利き手取られたよ」
仕事にならないとぼやく声はやわらかく、カイトが手をほどくことはなかった。